ジャーナリスト・作家 鈴木エイト 氏
世界平和統一家庭連合(旧・統一教会)に対する解散命令についての審理が東京高裁で行われている。一方の韓国でも尹錫悦(ユン・ソギョル)政権と教団との癒着に関する捜査が進み、教団の韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁が逮捕され裁判が行われている。長年、旧統一教会と政治の関係などを追及してきたジャーナリストの鈴木エイト氏に、安倍元首相銃撃事件の裁判や反社会的団体と関わってのリスク対応などについて話を聞いた。
(インタビューは昨年末に行ったものです)
政治家と教団の癒着に危機感を抱いた被告
鈴木エイト 氏
──エイトさんは安倍晋三元首相銃撃事件の裁判傍聴を続けていますが、そのなかで感じたことは。
鈴木エイト氏(以下、鈴木) 山上被告は被告人質問において質問に答えるかたちで、2006年ごろから安倍元首相と教団の関係を把握していたと述べています。彼は情報収集先について元信者のサイトや教団のホームページなどを挙げるなかで、「やや日刊カルト新聞」と答えていました。13年の参院選における北村経夫氏(自民党参議院議員)への選挙支援や、15年の世界平和統一家庭連合への名称変更を認識したことなど質問に対して答えています。
引き金となった21年のUPF(天宙平和連合)オンライン集会への安倍元首相のビデオメッセージに対する受け止めや感想を聞かれた際には、「絶望と危機感」であると答えています。一方、安倍氏個人に対しては、「怒りというよりは困る」との感情であったと述べています。政治家と教団の関係については、まだ深掘りはされていませんが「絶望にプラスして、危機感」という言葉を出しているので、危機感を抱いた感情に対して、何とかしなければいけないという思いが事件の直接的動機として結びついたのではないかとみています。
一般的な報道では安倍元首相のビデオメッセージがトリガーになったといわれています。しかし、公判での彼の証言からして、私の記事(日刊カルト新聞)を時系列に沿って読んできたことが重要な意味をもつことがわかります。おそらく裁判員には被告が抱いた衝撃度、危機感がまだ十分伝わっていないのではないかとも思っています。
陰謀論に対するメディアの役割
──世間的には、山上被告が安倍氏を殺害したことについて、テロリストと捉えるような向きがあります。一方、警備上の危機管理の手薄さも露呈したように思います。
鈴木 この事件をテロ事件にしたい人たち、印象だけでテロだと言っている人たちがいます。「テロリズム」は警察庁組織令や特定秘密保護法で「政治上その他の主義主張」に基づき「社会に不安や恐怖を与える目的」あるいは「恐怖又は不安を抱かせることで目的を達成することを意図」がそれぞれの構成要件となっています。
しかし、本件はそれと合致しません。私から見るとこの手の“テロ決め付け論者”による持論は単に的外れというだけでなく、逆に思考停止しているように思えます。検証しないままテロ認定をしてしまうと思考停止になってしまうので、非常に危険だと思っています。
実際、事件現場の様子からして警備が甘かったのは事実です。被告の行為は、十分な準備のもとで行われた犯罪というよりは、その警備の薄さによって「偶発的に成功してしまった」事故であり、その要因に要人警護としての問題があったことはいうまでもありません。この点は議論を分けて行わないと、単純に被告人を断罪するような方向にもっていくことになります。
このように述べると「同情的な報道はテロの擁護」と言う人もいますが、犯罪の背景をきちんと検証しない限り、事件の全容はつかめないし、再発防止は不十分になると思います。危機管理という意味では、ローン・オフェンダー(単独型)の問題もありますが、一部にこの事件の報じ方に対する的外れな非難がありますが、有名な言論人などからも問題の背景を検証することに否定的な空気に傾いている現状のほうが、民主主義の危機だと思います。
──今回の事件に対して某国の組織的犯行というようなある種の陰謀論的な話も広く信じられています。その点についてはどう見ますか。
鈴木 スナイパー説などの陰謀論に旧統一教会側が同調しているのは、そうしたほうが教団に非難が向かないとの思惑があると思います。そうした陰謀論の話は法廷のなかでも十分に否定されました。一部そういう人が残るのは仕方ないと思います。
裁判のなかで、スナイパー説は完全に否定されていますね。山上が撃った銃弾が安倍さんにしっかり当たっていて、まったく矛盾がないことや、通信記録などそういうのも含めて、第三者の共犯者がいるということも否定はされています。しかし依然として妄信している人がおり、メディアに対する不信感も含めて流布されることが民主主義の危機ではないでしょうか。SNSのマイナス面は、ファクトチェックをしたものよりも、SNSを通じて根拠が不明な言説が流しやすくなっていることにあります。これは何とかしておかないとまずいと思いますね。
──現在、陰謀論的な話などが広がりやすい状況にあります。SNS の影響力が高まったこともあると思います。
鈴木 いわゆる「オールドメディア」といわれるテレビ、新聞など活字媒体、ラジオが頑張らないと本当に言論空間が危うくなっています。NHK党の立花孝志氏的なものや参政党的なものがここまで幅を利かせており、元兵庫県議の方が亡くなられた事件など実害も出ています。政界への影響も無視できない状況になってきており、人の良識で暴走を抑えられる状況ではなくなっています。
正論が通じないことの深刻さはメディア全体で考えていかないといけません。本当に言論空間が危うくなっていて、それは結局ユーザー側、国民側にとってマイナスでしかありません。それすら気づいていない人たちが増えてきています。
選挙に関しても、従来は投票率が上がれば一部の極端な人の影響力は低減していったのですが、逆に投票率が上がることによって余計にとんでもない思想の人たちが増え、本当の意味での民意が反映されなくなっています。投票率が上がったのに民主主義が危機になっているという、非常におかしなねじれ現象が起きています。良識をどう取り戻すか、個々人のリテラシーをいかに高めていくかが大きな課題だと思います。
容易に扇動される衆愚政治の危険性
──安倍元首相の事件と兵庫県知事選について共通点があるように感じています。
鈴木 2つの問題は状況の違いがありますが、兵庫県知事選でおかしなことを言っている人は、旧統一教会問題でもおかしなことを言っている人が多く、共通項は見えます。リトマス試験紙ではないですが、おかしな言論人をあぶり出す、1つの物差しができつつあるのかな、というのは感じています。選挙を通じた事象を見ていて、兵庫県知事選以降、ある種の人をどうやって扇動していけるかというデータが積み上がっていて、社会実験がどんどん行われているような感覚をもっています。
誰か黒幕がいて、そういうことをやらせているというよりは、選挙を通じた積み重ねによって、容易に国民を扇動できてしまうような状況は国防上の危機にも直結すると思いますが、気づいてない人が多いように思います。こちらが陰謀論に陥ってしまうとまずいので、そこは気をつけながら慎重に発言していく必要があります。 あらゆる意味で民主主義が報じる側から見ても本当に危うくなっています。調査報道をまともにやっているところは、『JNN報道特集』や NHKの一部の番組ぐらいでしかなく、雑誌、活字ジャーナリズムがいかに頑張るかですね。
──問題は、そもそも文字を読まない人が大勢増えてしまっていて、言論空間、社会構造をどうやって変えていくのか深刻な問題です。
鈴木 僕も発信したことの一部を切り取られて編集され、それがどんどん流布されて憎悪を向けられています。1つのまとまった論考を読むということができない状況に乗じて、人に悪意を向けさせる動きがあります。こちらに筋違いな誹謗中傷をしている人が今は何人もいるので、法的な対応は順次取っているところです。扇動的な情報のほうが早く広まりがちです。SNSの特性を生かしつつ意図的に利用してきた人たちが立花氏含めて大勢おり、衆愚政治の成れの果てのように思います。
──山上被告に対する尋問で、日刊カルト新聞を読んで影響を受けたと述べたことで、「鈴木エイト氏が被告を煽った」との言説が広がっています。
鈴木 実際のリアルの批判では、そうしたことを表で信じている人は実は少ないのですが、SNSではまかり通ってしまっていて、ある種のプロパガンダが真実であるかのように増幅されています。一般人だけでなく、ある程度名の通った著名人や言論人も交じっており、本当に身の危険を感じるレベルになっています。それは教団関係者ではなく、安倍さんの熱烈な支持者に見受けられます。
政治と企業に共通するリスク管理の重要性
──先日、ジャーナリストの福田ますみさんが月刊誌に寄稿した内容を中心にまとめた著書が出版されました。
鈴木 彼女は『月刊Hanada』や産経新聞・『月刊正論』に寄稿している保守系の言論人ですが、意図的にやっているように思います。関連団体で講演するなど、信者から一定数の支持を集めているようです。被害の構造とか教団の実態に気づかずにやっているのだとすれば、ジャーナリストとしてのリテラシー能力に疑問符がつきます。
──表面的な活動は行われなくなりましたが、小川さゆりさんなど旧統一教会の2世として問題提起をしてきた人たちが、誹謗中傷を受ける状況があります。
鈴木 どのように被害者を守っていくかにもつながりますが、結局、声を上げてきた人が声を上げられなくなっていくことによって、嘘をついて虚偽を書いて誹謗中傷している人たちの主張が表で目立ち、まるで真実のように幅を利かせていることに危機感を覚えます。メディアも「宗教2世」問題をコンテンツとして消費するだけで、後のケアがまったくできていなかったり、被害当事者を前面に立てて報じてきたりしたように思います。それが本当に正しかったのかという点も問われなくてはなりません。
危惧されるのは、旧統一教会問題について、東京高裁で解散命令の審理が終結し、結論を出すだけとなったことです。教団側が補償委員会を組織し、有名な弁護士が協力しています。また、集団調停に教団が急に応じるようになり、表向きは教団側が真摯な対応をしているように見せています。政権が変わったことによって司法が政治の意向をどこまで切り離せるのか、すなわち本当に解散命令が高裁で維持されるのかについて、一抹の不安があるのは事実です。
教団側は本当に反省したのであれば、訴訟を取り下げるなり、これまでの被害者に謝罪するといった真摯な態度を見せるべきです。しかしそれはまったく見られません。一部補償なりを進めて、いかにも教団が真摯に対応しているかのようなポーズをとっていますが、まずは信者らによる誹謗中傷行為をやめさせることが筋です。教団の顧問弁護士が率先して誹謗中傷を行っていることは矛盾しています。
──2000年代前半、各地で特定商取引法違反容疑での検挙が行われましたが、その後、政治との関係が深まっています。反社会的な団体との係わりは、広い意味でリスクヘッジの問題ともいえると思います。
鈴木 一連の霊感商法などの教団関連企業の事件摘発が09年の新世事件(※)で幕引きとなり、逆に教団側の政界工作がより強まり、安倍元首相をはじめとした自民党との関係が深まりました。政治家の側からみると、反社会的な団体と付き合うことのリスクがわかっていなかったように思います。
被害者救済に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の文書でも「今後、日本社会に深刻な悪影響をもたらす」と警告を発し、いくつかのメディアも報じましたが、問題視されず、安倍元首相の事件となりました。
致命的な事態に陥る前の段階でリスクをいかに感じ取れるかは、政治家に限らず企業や個人にも当てはまると思います。政治家の多くは「メディアはどうせ取り上げないだろう」とか、「この団体と付き合っても別にリスクもないだろう」と考え、選挙で勝ち抜いて政治家であり続けるために教団との関係を続けていた。逆にいえば、政治家の弱みを教団が握っていたことが一番のポイントだと思います。
企業にとっても、長年の不適切な関係性が将来リスクになるようなものであれば、それを早めに断ち切る決断ができるかどうか、その構造は一緒だと思います。
※新世事件:旧統一教会の関連団体である(有)新世の社長・社員ら計7人が、特定商取引法違反の疑いで警視庁公安部に逮捕されたもの。「先祖の因縁がある。このままでは家族が不幸になる」「印鑑を買わないと命がなくなる」などと不安をあおって、1本16~40万円もの印鑑を13本売りつけたとされる。 ^
──韓国では教団本部に捜査のメスが入り、韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁が逮捕されましたが、日本への影響は。
鈴木 韓国で裁判が行われていますが、政界に流れたお金の大きさからすると、実刑は逃れられないように思います。韓国本部は後継者として、文鮮明・韓鶴子夫妻の孫2人を擁立する方向で動いているようです。日本の教団は韓国でどういう体制になっても、その時に権力をもっている人に従う構図は変わらないと思います。
【近藤将勝】
<PROFILE>
鈴木エイト(すずき・えいと)
ジャーナリスト・作家、日本大学卒、「日本ペンクラブ」理事、「日本脱カルト協会(JSCPR)」理事、「やや日刊カルト新聞」主筆。著書に『NG記者だから見えるもの』『「山上徹也」とは何者だったのか』(講談社+α新書)、『統一教会との格闘、2022年』(角川新書)、『自民党の統一教会汚染』シリーズ (小学館)など。
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