武雄アジア大学、アンケート調査の内容判明 「学生確保見込み169名」の実像(後)
前編では、武雄アジア大学が申請書類で「学生確保見込み」を169名としていたこと、その数字が高校生アンケートのクロス集計によって導かれていたこと、さらに文科省自身もその妥当性に疑義を示していたことを確認した。では、なぜこうした見込みが立てられ、現実には入学予定者39名という結果になったのか。後編では、その背景を通常のマーケティング調査の視点と、19.5億円の補助金をめぐる構造から見ていく。
現実の学生確保を見通す調査としての限界
アンケートから導かれた「学生確保見込み169名」と、現実の入学予定者39名との乖離はどう理解すべきか。大きな要因の1つは、このアンケートが、実際の進学行動を左右する条件を十分に反映していないことだ。
大学の学生募集を現実に見通すための調査であれば、単に「興味があるか」「入学したいか」だけでは足りない。大学進学は、受験生の関心だけで決まるものではない。保護者が学費を負担できるか、自宅から通えるか、福岡圏の私大や国公立に合格した場合どちらを選ぶのか、新設大学に対する不安をどう感じるのか──そうした現実的要素が、最終判断を大きく左右する。
ところが、提出資料から見えるアンケートは、進路希望、関心分野、受験意欲、入学意欲といった表面的な設問にとどまっており、最終的に入学にたどり着くまでの意思決定の核心を十分に拾っているとはいえない。
さらに、対象校の広げ方にも疑問がある。前編で引用した【表1】の「調査対象」で示されているように、韓国語検定を実施している全国の高校が含まれている。そうなると、大学のコンセプトに好意的に反応する回答は増えやすい。しかし、反応が良い層を拾うことと、実際に武雄まで来て入学する市場を測ることは別問題だ。反応しやすい母集団と、実際に入学する可能性がある母集団とが混同されれば、当然、「実際に確保できる学生数」の把握からは遠のくことになる。
つまり、このアンケート内容は文科省の審査基準に耐える形式で用意されていたとしても、「実際に入学する学生数」を経営判断に耐える水準で見積もる調査ではなかったといえる。
経営難の旭学園×19.5億円の補助金
企業が新規事業を立ち上げる際、その事業にどこまで採算性があるかを判断するために、マーケティング調査は重要な判断材料となる。武雄アジア大学の場合、アンケート調査において「入学意欲」を示した169名に対して、認可後の広告活動でどれだけ募集要項を届け、実際の受験に結びつけて、最終的に何名に入学してもらうことができるか、その転換率(CVR)をシビアに見極めなくてはならない。
とくに武雄アジア大学の母体である旭学園の経営状況は厳しい。もし新設大学が赤字となれば、それを独力で支える力は旭学園にない。本来なら新事業の成否を厳しい目で見極めなくてはならないはずだ。
だが、本件、武雄アジア大学の設立構想には、他にも重要な判断要素がある。それは武雄市が交付する補助金19.5億円だ。
アンケート結果は2024年8月末日付けで(株)高等教育総合研究所によってまとめられたが、それに先立つ、同年6月、旭学園の大学新設構想を誘致した武雄市は、大学設置を支援するための補助金として総額19億4,809万円(武雄市負担:12億9,873万円、佐賀県補助:6億4,936万円)の予算案を議会に提出。予算案は賛成多数で可決された。この補助金の交付は文科省から大学設置認可が下りることが条件となっていた。
現状の旭学園は短大を中核にした学校法人であり、このままでは学校法人の存続が危うい。そこで何としても四年制大学の開学にこぎつけたい動機がある。旭学園にとっては、実際に入学する学生はアンケート結果の169名より少ないかもしれないが、それをシビアに分析するよりも、まず設置認可を取り、補助金を確保して、大学の開学にこぎつけることが優先されやすい構造にあったとみることができる。
(武雄アジア大学の設立構想に至る旭学園の状況については下記の過去記事で詳報している)
『【特集】地方の学校法人の生き残り戦略~武雄アジア大学構想の状況レポート』(25年5月15日掲載)
武雄市は旭学園の事情を十分に踏まえていたか
では、そのような旭学園の大学構想を誘致した武雄市は、この学生確保見込みに対してどのような姿勢を取っていたのか。
当社が昨年5月、武雄市の担当部署である企画政策課を取材したところ、市の担当者は、アンケートの具体的な内容については把握していないこと、アンケートは大学の設置認可申請のために実施されたものであり、もともと公開を前提としたものではないとして、旭学園に結果の公開を求める予定はないと説明していた。また、学生確保の見込みについても、旭学園からの「アンケートの結果、定員を満たす見込み」との回答をもって十分との判断を示していた。
武雄市は19.5億円という膨大な補助金の交付を決定していながら、学生確保見通しを旭学園の判断に大きく依存していた格好だが、それは先のような事情を抱えた旭学園に対する姿勢として適切といえるだろうか。もしアンケートの結果、学生確保見込みが微妙な場合には旭学園が大学構想を撤回するはずだと武雄市が考えていたとすれば、それは四年制大学の開学に学校法人としての生き残りを賭けていた旭学園の事情をあまりにも単純に見ていたことになる。
非開示によって建前と実質のズレは修正されず
学生確保見込み169名と、実際の入学予定者数39名の乖離に話を戻すと、ここで改めて問われるのは、アンケートの“建前”と“実質”のズレである。アンケートは、実際の入学者数をできるだけ正確に把握するマーケティング調査としては不十分であったが、武雄市はアンケートの内容と結果を知らないまま、「学生確保見込み」という建前がそのまま現実になるかのように扱ってきた。しかし本来、アンケートから導かれたとして旭学園が説明してきた「入学定員(140名/年)を満たす進学意向者の回答を得ている」が、実際の入学者数にどの程度つながるかは、経営上の事情に縛られた旭学園だけでなく、武雄市や広く市民に情報を開示しての検証が必要であった。だが、旭学園は「設置認可審査中の資料は開示できない」といい、武雄市は「公開を前提にしていないため、開示を求めない」として、申請資料であることを盾に、開示と検証が十分に行われないまま、事業構想は進められたのである。その構造が、結果として甘い見通しを温存し、39名という現実につながった可能性は否定できない。
本件、武雄アジア大学構想の責任は、第一義的に事業者である旭学園にあるが、本件構想は武雄市の誘致と補助金の交付がなければ実際に動き出すことはなかった。その意味で、武雄市は単に補助金を交付した立場としてだけでなく、新大学が確実に学生を確保して経営が成り立つかどうかについても検証する責任があったはずだ。本件における武雄市の責任は相応に重い。
(了)
【寺村朋輝】








