トライアルの西友買収をはじめ、小売業界では提携やM&Aが相次ぐ。だが、その背景にあるのは成長余地の拡大ではなく、立地、商圏人口、業態寿命という従来型小売の限界である。人口減少とオンライン浸透が進むなか、求められるのは規模の拡大そのものではなく、業態を捨てる決断と変化への対応力だ。
ニッチから主役へ浮上した新興小売
現在の小売をけん引するのは日本型GMSの隙間で生まれ、その衰退を糧にニッチ企業から大きく成長したロードサイドリテイラーだ。地価の安い場所にローコストの店舗を展開し、今や都心の商業ビルの主役になる企業に成長したユニクロなどがある。しまむらや西松屋はGMSの商品を狭い売場に詰め込み、あるいは特定分野を深堀して堅調な成長を続ける。
コンビニ業界の年間売上は12兆円に迫る。しかし、いずれの業態も少子高齢化が進行する我が国の消費市場では従来の独自方式での成長は望めない。過去、海外に進出したセブン-イレブンなどのコンビニはそれなりの成功で現在に至っている。
そのなかでも世界三大SPAの一角を占めるユニクロのグローバル化はその売上や利益が国内を上回るまでになっている。ユニクロはかつて青果物分野まで手を伸ばしたことがあるほどの革新的な企業だ。スタート時のカジュアル、ユニセックス、コーディネート、ロープライス路線であっという間に急成長をはたすと、今ではキッズ、レディス、メンズにインナーを加えた総合力で幅広い客層にアピールする。
ユニクロの強みは販売する商品のショートライフだ。その商品は一部を除いてひとシーズンで買い替えニーズが発生する。価格が安いから、消費者は躊躇なく買い替えることができる。それでも使用頻度が高いカジュアルアパレルだから、その市場規模は馬鹿にできない。その売上は1兆円。人口で割れば1人あたり年間一万円近くをユニクロに支出している計算になる。これは我が国の純衣料支出の3分の1の数値だ。その業績はバブル以降のブランド離れとカジュアル化の流れをしっかりとらえた結果だ。産地、商品素材開発、広告販売戦略もそれに加わる。
同じような業態にコスモス薬品などのドラッグストア業態がある。もともとの医薬品に、食品、雑貨を付加して、生産効率の良くない生鮮食品を省いた手法で急成長した。本業の市販薬販売に畑違いの雑貨、食品という商材を組み合わせた我が国独自の業態だ。
ドラッグストア飽和と
トライアルの実験
成長途中、さまざまな業態を模索し、実行した大手GMS企業も、ドラッグストアには容易に手が出せなかった。理由は簡単だ。化粧、雑貨部門、薬品部門とも優位な仕入れをサポートしてくれる取引先が無かったからだ。文具を含む雑貨品は小規模専門店の牙城だった。加えて、GMSの売場は広くて人が少ないから、商品ロスが莫大だった。その1つに、万引きがある。棚卸のたびに担当者は減耗、不明ロスに頭を抱えた。在庫回転の悪さも加わって、売場の縮小は考えても、拡大と業態化など思いもよらなかった。
狭い売場で、優位な仕入れコストと接客密度の濃いドラッグストアはGMSのほぼ無人の売場と違い、ロスの発生は小さかった。天井に張りめぐらした監視カメラもロス防止に大いに役立った。こうしたことでドラッグストアは新業態として見る間に販売シェアを拡大した。
宮崎発のコスモス薬品が九州の小売で初の一兆円達成を実現したことは、GMSが入りこめなかった新分野を確立させたことによる。しかし、そのドラッグの競争も、ここにきて厳しい環境に差しかかる。オーバーストアだ。ドラッグストアの一兆円超え企業はコスモスに加えて、ウエルシア、マツキヨココカラとすでに三社ある。企業力、市場規模を考えても、従来手法での拡大には手詰まり感が漂う。
ドラッグストアはもともと隙間を埋める業態だ。品ぞろえの幅も買い物の楽しさや感動とも無縁だ。近い、早い、安いで規模を拡大した。同じ原則で先進したスーパーマーケットはすでに坪効率の低下で損益分岐点限界域に達している。先述したような小売大手によるM&Aはその証左だ。従来型の業態のライフサイクルが尽きたということだ。
新聞・テレビが「オールドメディア」といわれるように、従来型スーパーマーケットは「オールドリテイラー」になりつつある。そんななかで生き残るスーパーマーケットは、パブリックスやH-E-Bのように一定地域で圧倒的な顧客からの支持を得ている企業か、紀ノ国屋、ハローデイのような特殊な買い物シーンを提供できる企業に限られる。それとて時間とともに周囲を侵食する大手小売に組み込まれ、あるいは飲み込まれることになるのだろう。なぜなら二代、三代目には創業者ほどのがむしゃらさとバイタリティーが期待できないからだ。
ダイエーの創業者・中内㓛は果敢に海外に打って出た。それに倣うのがドンキの創業者安田隆夫やロピアの高木勇輔、ユニクロの柳井正、ダイソーの矢野博丈などだ。
パン・パシフィック・インターナショナルはアメリカの高級スーパー・ゲルソンズや東南アジアでの飲食など、どん欲に拡大路線をひた走る。ダイソーは独自の商品構成でアメリカでの存在感を高める。
そんななかで注目したいのがトライアルだ。トライアルは極めてユニークな企業だ。店舗形態としてのメガトライアルなどは国内よりむしろ海外でうまく行きそうな店舗だ。そのトライアルだが、いろいろな分野を自社でコントロールする。店舗運営はもちろん、物流も電算システムも自前だ。M&Aにもその特異性が現れる。業態、地域、関連性の垣根を簡単に越える。売上は昨年、3,800億円で西友を買収した結果、1兆円を超える。
トライアルはいわば融通無碍の経営戦略だ。問題はそんな戦略が現場で利益を生むかどうかだ。たとえば、取得した西友の大型店の周囲にサテライト店舗をつくり、母店で製造した総菜を競合するコンビニより低価格で提供するという小型店戦略が話題になっている。隣接するコンビニとの競争に勝てれば、新たな競争手段として評価されるだろうが、ある程度の量の販売がないと、安定した利益は期待できない。買収投資が大きいだけに、本体の活性化対策とともに注目される。
業態の限界値と創業者の決断力
時代の転換点では、成功体験が役に立たないどころかむしろマイナスになる。変化する時代に求められるのはそれに合わせての変化力だ。とくに短期間で急成長した企業は経営環境変化情報の収集と分析という面が手薄だ。その対策として、我が国の小売は国内外の同業態を模倣し、自社の成長の糧にしてきた。人口増や順調な経済成長下ではそれで十分な存在が保証された。しかし、人口減、消費経済の停滞をともなうなかで、競争相手の数と種類が増えると、旧来型の守りの経営では極めて心もとない。商戦の基本は攻めだ。過去の戦史を見ても籠城という守りで勝利した例は皆無といって良い。
先述したロピアやパン・パシフィック、トライアルの経営は積極的な攻めの経営だ。その是非はいろいろ取りざたされるが、変化に変化で挑むという企業姿勢は転換する時代環境に際しては必須の条件だ。決断は否定から始まる。今まで成功企業の多くが、その成功体験を捨てられずに、市場から姿を消した。経営陣が経験した成功手法を捨てられなかったからだ。
転換時期に問題となるのが、トップの姿勢だ。なぜなら組織を率いる幹部成功体験者を強く否定できるのはトップだけだからだ。当然、その責任は1人で背負うことになる。しかし、いかに創業者でもある程度の周囲の賛意を得ないとワンマン経営とのそしりを受ける。それを気にしないずぶとさもオーナーには必要だ。
前出のトライアル、パン・パシフィック、ロピアはいずれも創業家がその判断を担う。もちろん、創業家の経営判断が常に正しいとは限らない。しかし、その旗振りが功を奏し、企業を延命させたのは創業者ポジションの企業は多い。しまむら、セブン-イレブン、イオンがその典型だ。もちろん、ユニクロ、ABCマート、アルペンといった独自の発想で時代を先取りしたのも創業家判断を優先した企業だ。
昭和が始まって100年が過ぎた。小売業界だけではないが、供給過剰の状況に陥っている業種は少なくない。業態的に市場限界が近づいている業態にドラッグストアとコンビニがある。
ドラッグストアはすでに大手10社で8兆円を超え、その市場シェアも80%を超えている。消費市場全体を見ても食品込みで、10数兆円だろうから、すでに単独での規模拡大の限界値が近い。さらに大手が積極的に出店すれば、同業態競合という利益なき競争に陥る。
アメリカでは過当競合の結果、大手同士の合併で隣接競合する店舗整理という方法が取られた。我が国のドラッグ業界もこのままいけば、遠からず同じようなかたちをとらざるを得ないだろう。イオンが半ば強引にツルハとの合併を進め、同じような力ずくの手法でクスリのアオキと提携を試みたのは、この限界値を強く意識したと推測できる。
オールド化はコンビニも同じだ。こちらは、年間売上高12兆円の95%近くを大手三社で占める。前年対比の伸び率を見ても市場限界が近い。
一方、スーパーマーケットは1人あたりの年間支出を20万円程度と仮定すると、全体で36兆円程度の数値になる。大手100社のシェアは18兆円程度と多業態よりは多少の拡大余地があるものの、単位面積あたりの投資、運営コストが他小売業態より高いから、坪効率の低下による利益低下が著しい。だから、今後も提携、系列化が進む。そんなスーパーマーケットは、中小単独で生き残るのは容易ではない。それができるのは、ローカルで消費者の絶対的な支持を得ている企業と、従来型のスーパーとは一線を画すハイイメージ、ロープライスという特別な店だけになるのだろう。いうまでもなくそんな店はわずかだ。
(了)
【神戸彲】








