福岡市政に10の提言(5)都市の結節点で磨くホテルの価値

(株)ニューオータニ九州
代表取締役社長 山本圭介 氏

 再開発により都市の輪郭が大きく塗り替わりつつある福岡市において、ホテルの役割もまた変わり始めている。ホテルニューオータニ博多(福岡市中央区)を運営する(株)ニューオータニ九州は2026年3月期に5億5,640万円とバブル期を上回る最終利益を計上する一方で、山本圭介代表取締役社長は、時代の変化のなかで、ホテルは「人が集う」「都市の魅力を体験する」「地域の賑わいを生み出す」拠点として存在感が増していると実感している。今後の取り組みやまちづくりへの貢献の想いについて、話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス代表取締役会長 児玉直)

再開発と交通整備による都市の変化

(株)ニューオータニ九州 代表取締役社長 山本圭介 氏
(株)ニューオータニ九州
代表取締役社長 山本圭介 氏

    ──2023年の地下鉄七隈線の博多駅までの延伸により、ホテルニューオータニ博多の利便性はさらに高まりましたね。

 山本圭介氏(以下、山本) 延伸によって博多駅や福岡空港から当ホテルへのアクセスも格段に良くなりました。以前はそれらのエリアからはバスでの移動が主流で、重い荷物をお持ちのお客さまは大変そうでした。しかし今は、ダイレクトに来ることができます。

 天神でも博多でも再開発が進行していますが、当ホテルの立地する「渡辺通1丁目」こそが、天神と博多の両方を睨む絶好の地点であると考えています。交通の利便性が高まったことで、都市のなかの結節点としての価値はさらに高まっています。ホテルは単なる宿泊施設ではなく、まちづくりの拠点です。人が集まり、交流が生まれ、都市の魅力を体感していただく場であると考えています。

 天神にはザ・リッツ・カールトン福岡が進出するなどしていますが、お客さまを奪い合うような競合関係にはないと思っています。ホテルはまちづくりの拠点であり、私たちの使命はまちに賑わいをつくることです。そうした考えに基づくと、ザ・リッツ・カールトンのような外資のラグジュアリーホテルの進出は福岡のブランド力を向上させ、より多くのお客さまに福岡を知ってもらい、来てもらう機会をつくります。それにより地域の質はさらに高まっていくものですので、むしろ歓迎しています。

長年の会員へのサービスを最重視

 ──現在のインバウンド戦略はどのようなものでしょうか。

 山本 当ホテルではインバウンドの割合を宿泊者数全体の30%以内に抑えるという独自のルールを設けています。それは、最も大切なのは会員(ニューオータニクラブ会員など)など国内の顧客の皆さまであるという考えに基づくものです。会員との間に長年築き上げてきた信頼関係こそが最も重要です。どんなに外国人ゲストの需要があっても、それ以上客室を提供することはしません。また、当社はあくまでホテル事業者であり、適正な価格を守らなければ、ホテルとしての信頼を得続けることはできないため、客室単価を大幅に上げることもしておりません。

 インバウンドでは、集客をベトナムやタイ、インドといった東南アジアや南アジアへシフトしています。富裕層の報奨旅行(インセンティブ旅行)などで使っていただいており、質の高い需要を今後もしっかりとつかんでいきたいと思っています。最近では、たとえば在福岡インド総領事館に開館記念行事を当ホテルで行っていただくなど、インドとの親和性が非常に高まっています。

「国境を越えたおもてなし」を

 ──サービスを支えるスタッフの確保はいかがでしょうか。

 山本 現在、約8名の外国人スタッフが働いており、主にミャンマー、韓国、香港などアジアの出身者です。彼らは非常に素直で、英語が堪能です。とくに目を見張るのは勤勉さであり、非常に頼もしく感じています。彼らには入社後「和のおもてなし」を覚えてもらいます。彼らがフロントやレストランにいることで、海外のお客さまにホッと安心していただけます。これは「国境を越えたおもてなし」であり、国への貢献だとも自負しています。

 社員への還元については、26年3月期に過去最高益を達成したこともあり、契約社員や運転手、嘱託社員も含めた全員に一時金を支給しました。ホテルは「チーム」で成り立つものです。お客さまを想い、ホテルが好きで働いてくれている仲間には、しっかり報いたいと思っています。人的投資と設備投資を継続することこそが、ブランドを維持する唯一の道だと考えています。

空間に付加価値を付けてサービスを提供

 ──近年、ホテルで「お別れ会(偲ぶ会)」が開催されることが増えている印象を受けます。

 山本 従来は企業のトップの方がお亡くなりになると斎場で葬儀を実施するのが慣例でしたが、今は宗教色を排したスマートな「偲ぶ会」というスタイルにシフトしているように見受けられます。ホテルという使いやすいロケーションで、お坊さんを呼ばず、故人を偲びながら語らうかたちと言えます。

 実は九州で初めてホテルとして葬儀を「商品化」したのは当ホテルなのです。平成に入ってすぐのころ、当社の社長が亡くなった際に、斎場に発注しようとしたところ、当時のニューオータニのオーナーから「自社の社長の葬儀だろう。ホテルでやるんだ」と叱られたことがあります。それがきっかけとなり、ゆかりの皆さまと食事を囲み、思い出を語り偲ぶという現在のスタイルが生まれました。

 偲ぶ会では、ホテルは祭壇を設けて「宴会場という空間」を提供し、お客さまはお祈りをしてお帰りになります。お食事は提供する場合としない場合があります。提供する場合でも、親族の方が接待に追われないよう、案内状の作成・発送から当日の接遇、衣装室の用意まで、すべてをホテルが代行します。斎場では行っていない、ホテルならではのおもてなしが、今の時代のライフスタイルに合っているのでしょう。

 私はホテルのビジネスを「空間ビジネス」だと捉えています。ノウハウをもって客室、宴会場、レストランという「空間」に付加価値を付けて提供しています。宴会場などの「空間」という資産を最大限に活用し、新たに収益の柱を築いています。

変化に応じてサービスを組み替える

ホテルニューオータニ博多
ホテルニューオータニ博多

    ──時代の変化に合わせて、サービスや収益構造も変えていきますか。

 山本 人手不足が深刻化するなかで、時代の変化に合わせて順応していくことが不可欠です。従来のように「宴会場で会議を行い、そのまま隣で食事をする」というスタイルに固執する必要はないと考えています。

 新たなスタイルとして、たとえば「レストラン利用のデジタルチケット制」への転換を考えています。お客さまに2週間有効なチケットをお渡しし、都合の良い時間に直営レストランで楽しんでいただくというものです。そうすることで今いるスタッフの人数で質の高いおもてなしを維持することができる一方、収益性も高めることができます。

 もちろん「絶対に譲れないもの」もあると考えています。その代表的なものの1つが料理の美味しさです。ニューオータニグループでは「おいしい料理をつくることが最大のおもてなしである」という理念を共有しています。たとえば、中国料理の「大観苑(たいかんえん)」は創業以来、伝統の味を守り続けています。博多のみならず東京と大阪でも共通のブランドですが、博多では地元の甘い醤油を使うなど、地域のお客さまに愛される「優しく、飽きのこない味」を追求しています。時代がどう変わっても「あそこの料理はおいしい」と言っていただけることが、選ばれ続ける理由になると思います。

積み重ねた信頼で危機に対応

 ──コロナ禍という未曾有の危機も、乗り越えられました。

 山本 当時は宿泊客がゼロに等しい日もありました。しかし、そこで立ち尽くすのではなく、「ドライブスルーでのテイクアウト」や、部屋で「きかんしゃトーマス」のプラレールを楽しめるコラボレーションルームなど、お客さまが何を求めているかを徹底的に考え、実行しました。

 当ホテルは長年、天皇陛下の行幸啓の際にお泊まりいただくホテルとしての矜持をもっています。1964年の東京オリンピック以来、帝国ホテル、ホテルオークラとともに培ってきた接遇の技術は、今もスタッフ1人ひとりに受け継がれています。こうした信頼の積み重ねがあったからこそ、コロナ禍でも多くのお客さまに支えられたのだと感じています。

不易流行の考えで取り組む

 ──非常に長く社長を務められていますね。

 山本 私自身、これほど長く務めるとは思ってもみませんでした。ニューオータニグループ全体を見渡しても、こうした例はほかにないでしょう。実は(2025年1月に亡くなった)大谷和彦(株)ニュー・オータニ前社長から生前、「あと10年やるように」と言われ、私としては「もういいでしょう。(そのころには)80歳になりますから」と申し上げたところ、「じゃあ75歳までだ」と言われておりました。ただ、社長はその後まもなく亡くなられました。

 ニューオータニ創業者の大谷米太郎は富山県出身で、元力士でした。その縁もあって、昔から富山の歴史や文化を応援してきました。東京のニューオータニで力士の後援会やパーティーが多く開かれるのは、創業者が元力士ということで皆さんが一目置いてくださっているからです。福岡でも今も相撲界とのつながりを大切にしており、九州場所の時期には高砂部屋の方々らにご利用いただいています。

 私の哲学は「不易流行」です。変えてはならない本質を守りながら、変えるべきものは大胆に変えていきます。1978年の入社以来48年間この仕事に携わり、社長としても24年目に入っています。結局のところ、「ホテルが好き」、これに尽きます。長く勤めているスタッフも同様だと思います。

 ホテルには毎日ドラマがあります。客室が400室あれば、400通りのドラマがあるのです。その1つひとつのシーンに最高のおもてなしを提供し、喜んでいただく。この仕事は好きでなければ続けられません。これからも背伸びをせず、九州の観光振興や発展のために、皆さまに愛され、選ばれるホテルを目指して、コツコツと歩みを進めてまいります。

【文・構成:茅野雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:山本圭介
所在地:福岡市中央区渡辺通1-1-2
設 立:1976年9月
資本金:1億円
URL:https://www.kys-newotani.co.jp/hakata/


<プロフィール>
山本圭介
(やまもと・けいすけ)
1954年生まれ。福岡大学卒。78年に(株)ホテルニューオータニ博多(現・(株)ニューオータニ九州)入社。宿泊部支配人、取締役人事・総務部長、取締役ホテルニューオータニ博多総支配人などを経て、2003年6月に代表取締役社長に就任。

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