東京都・官民連携ファンドが供給する「アフォーダブル住宅」とは

 東京都は、官民が双方で出資したファンドで「アフォーダブル住宅」を供給する取り組みを始めた。「アフォーダブル住宅」は海外では珍しくはない。英国では再開発許可の条件として、「アフォーダブル住宅」の設置が義務づけられる地域がある。日本では、東京都の取り組みが注目を集める。聞き慣れない「アフォーダブル住宅」とはどのような住宅で、ファンド方式で供給する意義はどこにあるのだろうか。

東京都のアフォーダブル住宅の取り組みイメージ(出所=東京都住宅政策本部「都におけるアフォーダブル住宅の取り組みについて」)
東京都のアフォーダブル住宅の取り組みイメージ
(出所=東京都住宅政策本部
「都におけるアフォーダブル住宅の取り組みについて」)

手の届く負担で住まう

 「アフォーダブル住宅」とは、どのような住宅なのだろうか。3月27日に閣議決定した住生活基本計画(全国計画)によると、「若年・子育て世帯等向けの良質でアフォーダブル(比較的手頃)な住宅」としている。

 「アフォーダブル住宅」は子育て世帯のほか、若年層向けやシングルマザー、警察官や看護師などのエッセンシャルワーカーなどを対象に、市場よりも低い価格で取得できる住宅や、低い家賃で入居できる賃貸住宅のことを示す。一言でいえば、「市場価格よりも負担可能な(手の届く)価格・賃料で提供される住宅」ということになる。

 都の「アフォーダブル住宅」においては、子育て世帯などを対象に、民間活力や既存ストックを活用して住宅市場のなかで手頃な価格で安心して住むことのできる賃貸住宅で、まちづくりと連携し、地域特性に応じた住宅の供給を誘導するとしている。また、対象となる世帯の所得基準や家賃水準などについては、「アフォーダブル住宅」の運営主体である民間企業などが設定する。

出所=東京都住宅政策本部「都におけるアフォーダブル住宅の 取り組みについて」
出所=東京都住宅政策本部
「都におけるアフォーダブル住宅の取り組みについて」

    都における「アフォーダブル住宅」の取り組みの一環として、金融スキームを活用した供給と公社住宅を活用した供給を行うとしている。このうち金融スキームを活用した供給として、都と民間の共同出資を行い「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」を組成。この官民連携ファンドを通じて、市場家賃と比較して75~80%程度の水準で入居できる賃貸住宅を供給する。仕組みとしては、官民連携ファンドが新築住宅や中古住宅などを取得。取得した住宅を子育て世帯などに低い賃料で貸し出す。合計300戸程度の「アフォーダブル住宅」を供給する見込みだった。

 なお、公社住宅を活用した供給では、都と東京都住宅供給公社が連携し、既存の公社住宅を「アフォーダブル住宅」として2026年度から毎年度200戸、累計1,200戸を供給する計画だ。

公社住宅を活用した供給
(出所=東京都住宅政策本部
「都におけるアフォーダブル住宅の取り組みについて」)

都が100億円出資

 都は2月20日、「アフォーダブル住宅」を供給する官民連携ファンドの創設を発表した。民間企業が運営事業者として参画する4つのファンドが、住宅を供給する。4つのファンドの規模の合計は200億円以上を見込み、そのうち都の出資額は100億円となっている。ファンド期間は3つのファンドが10年、1つのファンドが15年で、延長する可能性もある。「アフォーダブル住宅」の供給戸数は350戸程度で、当初予定から50戸上回る水準となった。

 「家賃の引き下げ幅とのバランスも踏まえながら、できる限り多くの戸数を供給してもらいたい」(東京都産業労働局国際金融都市推進課の菊池淳担当課長)の考えもあり、民間事業者の創意工夫により当初予定を上回る供給が見込めるようになった。

「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」を担当する東京都産業労働局国際金融 都市推進担当課長・菊池淳氏
「官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド」を担当する
東京都産業労働局国際金融
都市推進担当課長・菊池淳氏

 供給は都全域が対象で、家賃水準が高い都心部などといったエリアを制限しているわけではない。「駅からの距離とか子育てにとって良い環境なのかなど、子育て支援という主旨に合致している場所であれば、特別に賃料が高いところでなくても事業の対象になる」(同)。今後、各ファンドがそれぞれの判断で、子育て世帯などへの「アフォーダブル住宅」が必要なエリアへ供給するとしている。

 今回、都が採択した4つのファンドを個別に見ていく。まず、「Tokyoネウボーノファンド投資事業有限責任組合」(ファンド運営事業者=(株)SMBC信託銀行、(株)萬富)は、新築マンションを投資対象とし、入居対象を未就学児がいる世帯や出産を控えている世帯と設定している。家賃水準は市場家賃の8割程度。萬富は、東京都墨田区で子育て支援賃貸マンション「ネウボーノ菊川」「ネウボーノ菊川Ⅱ」を展開する不動産事業者。「ネウボーノ」は保育園有資格者を管理人に据え、託児、キッズスペースなど子育て世帯に配慮した住環境を提供しているという。

 「野村不動産アフォーダブル住宅投資事業有限責任組合」(同=野村不動産(株)、野村不動産投資顧問(株)、共同出資者=京王電鉄(株))は、投資対象を新築・築浅マンションに設定している。入居条件は世帯年収800万円以内の子育て世帯などとしている。家賃水準は市場家賃の8割程度。野村不動産は、英国や米国でアフォーダブル住宅を含む賃貸住宅を供給した実績がある。

空き家再生も

 「Tokyo空き家再生賃貸アフォーダブル住宅ファンド投資事業有限責任組合」(同=(株)ヤモリ、三菱UFJ信託銀行(株))は、空き家の活用をテーマに中古戸建住宅を投資対象にしている。入居対象は子育て世帯などで、家賃水準は市場家賃の8割程度と設定している。供給戸数は4つのファンドで最大戸数の約160戸。ヤモリは、空き家を再生し賃貸住宅を供給するスタートアップ企業で、AIを活用した物件情報の収集、調査、購入、修繕、運営などをサポートする自社開発クラウドサービスなどを提供している。

 「リブクオリティTOKYOアフォーダブル住宅供給投資事業有限責任組合」(同=(株)LivEQuality大家さん、(株)りそな不動産投資顧問 、(株)マックスリアルティー)は、ひとり親や子育て支援をテーマに中古マンションや新築マンションを投資対象にしている。入居対象は世帯年収600万円以内の子育て世帯などで、家賃水準は市場家賃の平均の7割5分程度。ファンド規模が4つのうち最大で、家賃水準は最も低い。LivEQuality大家さんは、愛知県名古屋市でシングルマザー向けにアフォーダブル住宅事業を展開。マックスリアルティーは不動産投資運用やコンサルティングを展開する専門会社で、金融と不動産の融合による独自の提案力を強みとしている。

民間の創意工夫生かす

 補助金や規制緩和、税制優遇など政策誘導手法があるなかで、官民連携ファンドによる政策手法にはどのような意義があるのだろうか。大きな目的の1つとして、『民間による創意工夫を生かす』という点が挙げられる。

 「アフォーダブル住宅供給の新たなモデルが、このファンドを通じてできればと考えている。都が出資をして、それがきっかけになってやる事業ではあるが、(収益事業として成り立ち)出資額の回収を当然目指している。アフォーダブル住宅の供給が収益を上げる事業として成り立つモデルが、今回の取り組みによって世の中に知られることで、多くの民間企業で(アフォーダブル住宅の供給を)やってみようという動機につながることを期待している」(前出・菊池氏)という。

 今回、複数のファンドを立ち上げたのは、多様な取り組みを示すことで、民間主体による「アフォーダブル住宅」の供給市場の醸成につなげるという観点が反映されたものだ。採択された提案も、大手不動産や金融機関、スタートアップなど幅広い業種・業態からのものとなっている。

 日本において「アフォーダブル住宅」は、馴染みがないだけでなく、民間企業による供給も少ない。そのため都では、容積割増などの都市開発を合わせた誘導のほか、リノベーションまちづくりによる供給、空き家活用による供給、都有地を活用した供給に取り組んでいる。ファンドによる供給支援も、こうした誘導手法の1つと位置づけられている。「今回は結果的に空き家の活用とか、子育て支援サービスの付加とか、いろいろな提案や創意工夫した提案が出てきた」(同)。さまざまなアプローチがあることで、住まいの選択肢が拡充していくとみている。

官民連携ファンドの概要

課題解決と事業性両立

 官民連携ファンドは、官民が出資した以上の資金回収を見込めるのかといった観点で事業を行うため、民間企業にはその成否が理解しやすい仕組みとなっている。これにより、「社会課題の解決と事業性の両立」(同)を図ることが可能になる。民間企業による「アフォーダブル住宅」の供給は、持続可能性がなければ市場の醸成につながらない。

 今後については、まずは現在の4つのファンドによる「アフォーダブル住宅」供給が行われるようにモニタリングを進めていき、そのなかで課題や改善点などを洗い出していくことになる。新たなファンド創設については、現時点では未定だ。今回の取り組みに関して、九州も含めたほかの自治体からの問い合わせにも対応するなど、官民ファンドについての知見や経験などは可能な限り、共有していきたいという。


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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