『週刊現代』元編集長 元木昌彦 氏
河野洋平氏のような政治家を知る者にとって、今の永田町はまるで別世界である。かつての自民党には、右から左まで多様な政治家がいた。だが現在の自民党には、国民の声を聞く良識も、現実を直視する姿勢も乏しい。その象徴が、週刊誌報道に揺れる高市政権である。
(文中一部敬称略)
失われた自民党の幅と良識
私は今の政治家の人たちをほとんど知らないし、知りたくもない。
いつの時期までだっただろう。自民党という党がライトからレフトまでさまざまな考えをもった政治家の集団だったのは。今の自民党には、保守を名乗る人間から極右の者までがほとんどを占め、良識や国民の声を真摯に聞く政治家がほとんど、否、まったくいなくなってしまったように思う。
私は幸運なことに、河野衆院議長、江田五月参院議長の時代、両氏とは親しくさせてもらっていたので、1、2度、公邸のなかの座敷に何人かの友人たちと招かれ、月を見ながら酒を飲んだことがあった。
公邸というのは別世界で、永田町という喧騒の町で、そこだけは静謐で優雅な時間が流れていた。あれから20年近くが経った。今の永田町は、私が知っていた町とはまったく違う、嘘と偽善と謀略だけが渦巻く「魑魅魍魎」だけが住む魔窟になってしまった。つくづくそう思う。
週刊誌砲が暴いた高市首相の虚像
ところで、その魑魅魍魎の“親玉”である高市早苗首相が、週刊文春などが放った週刊誌砲で揺れに揺れ、追い詰められ、「辞任するのでは」とのまことしやかな噂まで飛び交っている。
「安倍政治を継承する」「難関突破内閣」など、口から出る言葉は勇ましいが、実がともなっていないから、やることなすことがデタラメである。その嘘を次々に暴いていったのは既成の大メディアではなく、週刊誌やネットジャーナリストたちだったというのも、高市スキャンダルの特徴であろう。
「『消費減税は私の悲願』は真っ赤なウソ…公式ブログ記事1000本を検証して判明『増税政治家・高市早苗』の正体」をPRESIDENT Onlineで公表したのは、Webを中心に活躍するジャーナリストの中野タツヤだった。
高市首相はこれまでHPでブログを書いてきたが、そのすべてを読んでも「消費税減税」に触れた箇所はまったくなかったことを検証したのである。その直後、高市首相はブログを全部削除してしまった。
「スパイ防止法」「非核三原則の見直し」「国民投票法改正」など矢継ぎ早に威勢のいい掛け声はかけるが、そこには国民の声を聞くという姿勢がまったく見られない。
皇室典範問題と国民の声
その最たるものが「皇室典範改悪」である。その骨子は2案。「女性皇族の結婚後も皇族として残る案」と「旧宮家の男系男子を養子として迎える案」である。
高市首相は、女系はもちろんのこと、女性天皇も認めないという姿勢を示し、一説には、麻生太郎副総理の悲願であるこの案を、今国会解散までにまとめるという強硬姿勢を打ち出している。
かつては安倍晋三元首相同様、「女性天皇、愛子天皇も容認」派だったのに、党内の極右に慮ってだろう、女性、女系天皇を否定し、男系男子のみを天皇にするという、私にすれば“根拠薄弱”な考えを変えようとしない。
自民党内にも、野党からも、さまざまな問題のある皇室典範改正に批判が巻き起こっているが、高市首相は耳を傾けようとしない。
しかし、この態度に業を煮やしたのだろうか、天皇は6月11日、オランダ、ベルギー公式訪問に先立つ記者会見で、
「皇族数の確保の在り方についての議論においても、国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」
と発言したのである。彼の言わんとするところは明白である。
世論調査を見ても、愛子天皇を望む声は日増しに高まり、愛子天皇を望む声は70%から80%もあるのだ。今改正しようとしている2案が、いかに国民の声を反映していないか、一目瞭然である。
さらに、高市ら政治家は、当事者である天皇皇后や愛子さまに会って、彼らの胸の内を聞くという、当然のことさえやっている気配さえない。
「浩宮の乱」が示した覚悟
もちろん、天皇たち皇族に政治発言はできない。だが、この問題は自分たちだけではなく、これから代々続いていくであろう天皇制に関わる“自分たちの問題”なのだ。
天皇が皇太子時代の2004年5月10日、雅子さんが宮内庁内の酷いいじめに遭い、適応障害を発症したことについてこう言及した。
「外交官の仕事を断念して皇室に入り、国際親善が皇太子妃の大切な役目と思いながらも、外国訪問がなかなか許されなかったことに大変苦労していました。雅子のキャリアや、そのことに基づいた雅子の人格を否定するような動きがあったことも事実です」
これは「浩宮の乱」と呼ばれるほど大きな波紋を呼んだ。その時も、皇太子が欧州歴訪前の記者会見の席だった。この発言は、感度の鈍い大メディアでも大きく取り上げられた。この言葉の裏には、「私が愛する妻のためなら、私は何でもやる覚悟がある」という決意が込められていることは間違いない。
秘書疑惑と親族問題で深まる内憂外患
週刊文春が連続追及している「総裁選・衆院選での相手候補中傷動画作成に公設第一秘書が関わっていた疑惑」も、高市首相の答弁が支離滅裂になり、今この原稿を書いている時点では、高市首相が事実を認めて謝罪するか、長年自分を支えてくれた秘書を斬り捨てて、事態の収拾を図るのかが見えないが、どちらにしても高市首相のリーダーとしての資質に大きな疑問符がついたことは間違いない。
さらに女性セブンと新潮は、高市首相の夫の孫が中国へ留学したと報じた。デイリー新潮(6月10日)から見てみよう。
《記事では〈実は、義理の息子にあたる福井県の山本建県議の子どもが、今年から中国の名門大学に留学したそうなのです〉と断片的な情報が書かれていたが、いったいどういうことか。
付言すると、タイトルにある高市氏の“義理の孫”とは、元衆院議員の夫・山本拓氏(73)が、前妻との間にもうけた長男で福井県議を務める山本建氏(42)の1人息子を指す。
さる福井県政関係者が明かすには、
「昨年の秋ごろ、建さんが高校を卒業する息子さんの進路について、第1志望は中国最高峰の高等教育機関への留学だと言っていてね。それを聞いた後援者が“今はタイミングが悪い。絶対に行かせてはダメですよ”などと、建さんに忠告したのですが、能天気な彼は意に介さず、今春に息子さんを中国へ送り出してしまった。今年9月から正規の留学生として現地の名門大学に通う予定で、今はプレスクールで語学の研修を受けているそうです」》
さすがにこれはまずいだろう。いくら義理の母親とはいえ、一国の首相で、その上、中国嫌いときているのだ。母親の面目丸潰れである。
新潮によれば、事情を知る関係者の間では、2つの懸念が生じているという。
「まず1つ目は、現役首相の孫が中国留学をするリスクです。ご存じの通り、昨年11月の台湾有事に関する首相の国会答弁がきっかけとなって、中国の反発は激しさを増しています。その最中に中国の大学の学生になれば、敵に人質を差し出すようなもの。息子さんに不測の事態が起きたらどうするのか。もう1つは、建さん自身が国政への道をあきらめていないこと。次の衆院選に出馬すれば、対立陣営から“親中派”のレッテルを貼られる恐れがある」
しかし、地元・福井県では、建のみならず、父である拓も含めた「山本一族」が“親中派”なのは、とっくの昔から知られた話なんだという。
「拓さんの父親が中国通でね。昔から私費で中国の留学生を大勢、鯖江市に受け入れたりしていたんですよ。そういう家庭で拓さんも建さんも育ったから、子どもが中国に留学したいと思うのは自然なことでしょう」(拓の親族)
県政関係者もこう話している。
「建さんの息子は“中国志向”が強く、中国で学びたいと自ら言ったそうです。建さんは“息子の意思を尊重する”として、実父・拓さん、義理の母となる高市さんに相談せず事後報告だった。血がつながっていないとはいえ、現役首相の親族としての配慮がない人なんです」
これを知ったとき、高市首相が激怒した光景が見えるようである。最近、国会での論戦が終わるとフラフラする姿が話題になっているが、心労もあるのだろう。これでは「離婚」になっても不思議ではない。
新潮本誌は山本建に直撃している。その答えは?
「私は子どもが自ら決めた進路を応援しているだけです。私も独立しているので、父(拓氏)などに相談はしていません」
堂々としていていい。彼のほうが政治家に向いているのでは?
どちらにしても、高市首相は「内憂外患」。早く引退して余生をのんびり過ごしたほうが良い。この国は、あなたがいなくても回っていくのだから。(以下次号)
(了)
<プロフィール>
元木昌彦(もとき・まさひこ)
『週刊現代』元編集長。1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に退社後、市民メディア「オーマイニュース」に編集長・社長として携わるほか、上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。日本インターネット報道協会代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)など。








