民泊の実質営業禁止へ「営業0日」規制も容認

民泊実質禁止を容認

 国土交通省観光庁の村田茂樹長官は6月17日の会見において、民泊に関する記者からの質問に対し、「今般、民泊に関する立地規制、いわゆる『ゼロ日規制』などにつきまして、今月中にも全国の地方自治体に向けて技術的助言(※)として通知を発出する方向で検討を進めております」と回答。自治体の条例改正による、民泊の実質営業禁止を容認する方針を示した。また、「民泊の事業者が自ら状況を把握して、迷惑行為への積極的な対応を行うことが可能となるように、地域の実情に応じ、事業者に対して、たとえば騒音計やカメラの設置などを条例で義務付けることが可能であることも盛り込むことを検討しています」(村田長官)と述べるなど、民泊振興からの方向転換が明らかとなった(7月15日、観光庁は全国の自治体に通知済)。

※技術的助言:国(各省庁の大臣など)が地方自治体に対して、事務の適切な運営を促すために行うアドバイス。地方自治法(第245条の4)に基づき行われるもので、法的拘束力はない。

 背景にあるのは、騒音やゴミの不法投棄などの民泊をめぐる利用者と近隣住民とのトラブルの増加だ。今回の長官会見では、トラブル件数については網羅的に把握していないとしたうえで、全国で最も施設数の多い新宿区のトラブル件数が900件超(25年度)と報告された。トラブル増加が国や地方自治体を動かした事例としては、旅館業法の規制を一部免除される「特区民泊(国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業)」を実施していた大阪市が、新規・変更申請の受付を2026年5月29日で終了したことも記憶に新しい。

 住宅宿泊事業法(民泊新法)では、営業日数の上限が年間180日と定められ、自治体はそのなかで営業日数の制限を行うことは可能だったが、ゼロ日とすることは法の趣旨(民泊の適正な普及と健全な振興)を逸脱するとして認められていなかった。しかし、今回の国からの技術的助言を受け、自治体は営業日数をゼロ日に設定可能となる。住宅地や教育施設周辺エリアでの民泊サービスの提供は、地域住民の静穏な生活・教育環境を損なう恐れがあるため、民泊オーナーや運営代行業者には、利用者に対する注意喚起の徹底がこれまで以上に求められる。実質営業禁止が現実的な選択肢となった今、自治体の動向が注目される。

 福岡市においては、福岡市旅館業法施行条例の改正により、ICT機器の活用や緊急時に管理者が10分以内に駆けつけることなど、いくつかの条件を満たすことで、現在フロント(玄関帳場)設置が免除されている。また、簡易宿所営業に係る客室の面積要件は33m2以上(宿泊者数が10人未満の場合3.3m2以上/人)とされており、ワンルームマンションの一室でも民泊を始めやすい環境が整備されている。今年6月の福岡市議会定例会では、福岡市内の民泊施設数が2,028件(25年度末時点)であることが明らかとなっており、相対的にトラブルも増加するものと考えられるため、同条例も今後改正される可能性はある。

福岡市内には計画中のものを含め多数の民泊施設がある。写真は博多区古門戸の計画地 2025.8月撮影
福岡市内には計画中のものを含め多数の民泊施設がある。
写真は博多区古門戸の計画地 2025.8月撮影

民泊関連業者の反応

 では、実際に民泊施設の管理・運営などを手がける関連業者は、今回の動きをどう捉えているのだろうか。収益物件の企画・販売や不動産の売買・仲介に加えて、ホテル・民泊施設の企画・販売から運営・管理も手がけるアルマデグループ(福岡市博多区、本田幸一郎代表)は、「(規制強化によって違法業者が)減少したとしても、事業主や運営・管理業者が適切な運営・管理を徹底しなければ、トラブル件数が減少することはあっても、なくなることはありません。夜間の騒音対応、ゴミ出しのルールなど、同時並行で周知徹底を図る必要があると考えています」と話す。

 規制強化が先行することによる、業界の規模縮小およびインバウンド政策の機動力低下が懸念されるなか、民泊市場から違法業者が排除され、適正事業者が残ることで、市場の健全化も期待される。「Airbnbなどのプラットフォームに民泊施設を掲載するには、届出番号、または旅館業の許可番号が必要になります。いわゆる“ヤミ民泊”が依然として存在しているのは、彼らがプラットフォームに依存しない独自の集客ルートをもっているからです。また、届出は物件ごとに必要となりますが、1物件しか届出せず、実際には複数物件を運営しているといったケースもあるようです。一度規制強化によって違法業者はたしかに減ったのですが、こうした現状を鑑みると、再び(規制強化が)必要な時期にきているのかもしれません」(アルマデ)。

 行政と事業者との意見交換も大切になってくるなか、事業者側の声をまとめる団体の必要性についても議論の余地がある。「住宅宿泊管理業者で団体を立ち上げるというのも考えられますが、同管理業者は旅館業法に基づく許可も取得している場合が多く、民泊が主業というわけでもないため、限られた時間・労力を割いてどこまで民泊業界に貢献できるのか、正直難しいところもあるのかなと感じています」(アルマデ)。

 たとえば、適正な管理・運営の基準となるマニュアルを作成・提供するなど、団体にできることは少なくないが、その実現は容易ではない。一方で、行政だけの力で市場の健全化を達成するのも困難だ。官民連携による、実態と乖離し過ぎない範囲での条例改正が望ましい。

 宿泊施設の運営代行、民泊清掃、建物管理、空き家・遊休資産の収益化支援を行う(株)ノサル(福岡市博多区、谷口真乙代表)は、今回の実質営業禁止の動きへの懸念事項として、「適正に管理されている民泊と、管理体制が不十分な民泊が一括りにされてしまうことです。民泊事業は、宿泊運営、不動産管理、建物管理、清掃、近隣対応が一体となる事業です。しかし実務上は、宅地建物取引士などの不動産関連資格や、十分な建物管理の知識が必須ではないかたちで参入できる場面も多く、運営者によって管理品質に大きな差が出やすい構造があると感じています」と話す。

 また、「一部の管理体制が不十分な施設によって、近隣トラブルが発生し、結果として民泊全体への不信感につながっている面はあると考えています」と、民泊をめぐる規制強化に一定の理解を示しつつも、「届出、消防設備、宿泊者名簿、本人確認、宿泊税、清掃管理、緊急連絡体制などを適切に整えている事業者まで一律に制限されてしまうことには、慎重であるべきだと考えています」と話す。重要なのは、あくまで「不適切な運営を是正し、適正な運営を行う事業者が評価される仕組みをつくること」(ノサル)であり、空き家・空室の活用、地域消費や清掃スタッフなどの雇用創出、宿泊需要の受け皿など、民泊の効用にも改めて目を向ける必要がある。

 同社は、運営代行業務や清掃業務などの実務面における影響について、「自治体条例、用途地域、建物管理規約、消防設備、近隣環境、ゴミ出しルール、緊急対応体制などを事前に確認し、運営可能性を慎重に判断する必要があります。オーナーさまに対しても、単に『民泊として貸せるか』ではなく、『地域とトラブルなく継続運営できるか』という視点で提案することが求められます」と話し、開業前の調査や確認業務がこれまで以上に重要になるとの認識を示した。

 また、清掃業務においては、「清掃件数の減少という影響が考えられます。民泊清掃は地域のパートスタッフや協力業者の雇用にもつながっているため、市場縮小は関連事業者にも影響します。一方で、今後は清掃会社や現場管理者の役割がより重要になるとも考えています。清掃は単に部屋をきれいにするだけの作業ではなく、ゴミの状況や破損・汚損、騒音や喫煙の痕跡、備品の不足などから、近隣トラブルにつながる兆候を発見する重要な現場業務です」とし、「住宅宿泊事業としての運営が難しくなる地域では、旅館業・簡易宿所、マンスリー運用、通常賃貸、別荘活用など、物件ごとに出口を再検討するケースも増えると思います」と、投資における出口戦略への影響についても言及した。

 自治体への届出や許可を得ずに宿泊業を行う、いわゆる“ヤミ民泊”の存在が規制強化に拍車をかけている側面もあり、違法業者の排除が健全な民泊市場の形成には不可欠だ。「参入のしやすさだけでなく、運営者側に一定の管理責任や知識を求める仕組みも必要です。民泊は宿泊事業であると同時に、不動産管理、建物管理、清掃品質、近隣対応、緊急時対応をともなう事業です。最低限の運営基準を設け、事業者ごとの管理体制を見える化することが重要だと考えています」(ノサル)との意見は、再編期に突入した民泊市場において無視できるものではないだろう。

 併せて、トラブル発生時の責任の所在を明確にすることも重要となる。「宿泊者任せ、オーナー任せではなく、管理事業者が速やかに対応できる体制を整えることが重要です。とくに家主不在型の民泊では、現場対応できる管理体制があるかどうかが、大きなポイントになります。民泊は『部屋を貸す事業』ではなく、宿泊運営、不動産管理、清掃、地域対応が一体となった事業です。その認識を業界全体でもつことが、地域との共存につながると考えています」(ノサル)。

誰もが安心できる民泊へ

 民泊市場が健全に成長するには、合法運営を大前提に、許認可・消防・衛生・騒音対策などのルールをわかりやすく整理し、事業者が遵守しやすい環境を整えることが重要だ。そのうえで、近隣住民への事前説明や苦情対応体制を義務化・見える化し、地域との摩擦を減らす必要がある。併せて、無許可営業の取り締まりを徹底しつつ、適正事業者にはデジタル手続や多言語対応支援を行いながら、利用者・住民・事業者の三者が安心できる市場へと育てていくことが肝要だ。

 「事業者には、法令遵守だけでなく、不動産管理や建物管理に近い責任をもって運営する姿勢が求められます。民泊はOTA(Online Travel Agent)に掲載しさえすれば成り立つ事業ではなく、宿泊者、オーナー、近隣住民、建物全体に影響する事業です。だからこそ、運営代行会社や清掃会社には、現場管理能力、トラブル対応力、近隣配慮を含めた総合的な管理品質が必要だと考えています。民泊は、空き家・遊休資産の活用、地域消費、宿泊需要の受け皿、雇用創出など、地域に貢献できる可能性のある事業です。だからこそ、問題のある運営を放置せず、適正な事業者が残り、地域と共存できる制度設計が必要だと考えています。当社としても、宿泊施設運営・清掃・建物管理の現場に携わる事業者として、オーナーさまの資産価値を守りながら、ゲストの滞在体験と地域の安心を両立できる運営を目指してまいります」(ノサル)。

 適正に運営している施設まで一律に排除するのではなく、苦情件数や管理体制、指導後の改善状況などを踏まえ、段階的に指導・改善を促す条例運用が行政には求められる。管理者情報や相談窓口の明確化も必要だろう。関連業者の声にもあるように、民泊そのものは地域への貢献が期待される事業だ。バランスの取れた条例適用・運用が求められる。

【代源太朗】

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