【特別寄稿】ホワイトカラーが作業している会社は消える AIエージェントは仕事と組織をどう変えるか

駒澤大学経済学部
准教授 井上智洋 氏

生成AIからAIエージェントへ

駒澤大学経済学部 准教授 井上智洋 氏
駒澤大学経済学部
准教授 井上智洋 氏

     2023年ごろに巻き起こった第4次AIブームは、生成AIのブームだった。生成AIは今なお発展途上であり、コンテンツをつくる仕事や、人に教えたり助言したりする仕事に対して、これからさらに大きな影響を与えるだろう。具体的には、クリエイター、デザイナー、ライター、研究者、リサーチャー、コンサルタント、セラピスト、プログラマー、税理士、弁護士といった職業で、個人で仕事が完結する専門職が多い。

 25年は、「AIエージェント元年」と言われており、AIは生成AIから次の段階であるAIエージェントへと進化した。AIエージェントとは、人間に代わってコンピュータ上の作業を自律的にこなすAIだ。生成AIとAIエージェントは地続きの技術だが、両者の違いをあえてわかりやすくいうと、「渋谷のおいしい居酒屋を教えて」と頼んで教えてくれるのが生成AIで、「渋谷のおいしい居酒屋を予約しておいて」と頼んで予約してくれるのがAIエージェントである。

 ChatGPTやGeminiには、ユーザーの質問に答えるために、Web上の最新情報をその場で取得するような、初歩的なAIエージェント機能がすでに組み込まれている。とくにGeminiは、26年5月に発表された「Spark」によって、AIエージェント機能が強化される予定だ。Sparkは、人間が指示したときだけ働くのではなく、常時バックグラウンドで管理・処理し続ける点に特徴がある。そのため、「会議が迫っていますが、資料が未完成ではないですか?」とアドバイスするといった秘書的な役割を強力にはたしてくれるようになるだろう。

 このようなアドバイスは、SparkがGmailやGoogle Drive、Google Calendarなどを横断的に参照して、統合的に情報を整理することによって可能になる。逆にいえば、他社のサービスには、あまりアクセスできない点が、今のところGeminiの限界だ。

Claude CoworkとSaaS黙示録

 それに対して、26年1月にリリースされた「Claude Cowork」というAIエージェントは、さまざまな企業が提供する「SaaS」を横断できる点に特徴がある。SaaSとは、インターネット経由で利用できるクラウドシステムで、SalesforceやSAP、freee、マネーフォワードなどが有名だ。

 Claude Coworkは、たとえば、「昨日の売上、問い合わせ件数、在庫アラート、未回収金の状況をまとめて」などと指示を与えられると、複数のSaaSにアクセスして、データを編集し、分析して、報告書としてまとめてくれる。そうすると、SaaSは人間ではなく、AIエージェントが操作するものになるだろう。そのときSaaSは、データベースとしての価値はあっても、人が操作するためのユーザーインターフェースとしての価値はなくなる。そのような予測がなされた結果、SaaS関連株が軒並み暴落する「SaaSの黙示録」という現象が起きた。

SaaS横断型AIエージェントが
ホワイトカラーに与える影響

 これは同時に、SaaSを操作する仕事が劇的に減ることも意味している。そして、このような仕事はホワイトカラー業務の広範囲にわたっている。たとえば、人事の採用担当であれば、以下のような作業が考えられる。

 応募メールをGmailで受け取り、添付されていた履歴書をGoogle Driveに保存する。履歴書のなかから氏名や住所、スキルといった応募者情報を抽出して、それをNotionに登録してデータベース化する。Google Calendarで面接日程を調整し、Zoomでオンラインミーティングを行う。Slackで複数人から面接の評価を回収する。最後に合否を決定し、Gmailで結果を通知する。ここで出てきたGmailやNotion、Zoom、Slackといったツールは、すべてSaaSである。

 生成AIは、すでに文章や画像、プレゼン資料をつくるといったローカルで行う作業の多くを自動化してきた。それに対して、Claude CoworkのようなSaaS横断型のAIエージェントは、ホワイトカラーが現在担っている残りの作業の多くを自動化してしまう。先ほどの採用プロセスの前半であれば、こうしたAIエージェントに、「Gmailで未処理の応募メールを確認し、添付履歴書をGoogle Driveの『応募者』フォルダに保存してください。履歴書から氏名、メール、職歴、スキル、応募職種を抽出し、Notionの応募者データベースに新規登録してください」などと指示すれば、おおよその作業は完了することになる。

 ただし、AIエージェントを全面的に導入するには、社内の業務プロセスを分解したうえで、AIエージェントに任せる仕事と人間に任せる仕事に切り分けて、業務プロセスの再構築を図らなければならない。そのような仕事を担うのは、「AIアーキテクト」という新たな職種である。

AIエージェントがSaaSを横断しホワイトカラー作業を代替する構造

ホワイトカラーが作業する
企業は淘汰される

 最もAIエージェント化しやすい職種・部署はカスタマーサポートであり、次に一般事務、経理、人事、法務で、それから営業、マーケティング部門が続く。営業についていえば、「営業エージェント」が顧客リストやWebから売り込みたい商品の見込み客を抽出し、メールを送り、商談を進めて、簡単な案件であれば契約まで行うようになる。重要な案件の「クロージング」(最終的な契約)だけを人間が担うようになるだろう。

 AIアーキテクトという職種も、日本中でAIエージェント導入のための業務プロセス再構築が概ね終わる10~15年後には、その活躍の場が新たな企業や部署を立ち上げるときに限られるようになる。さらにいえば、AIアーキテクトの仕事すらも、その多くをAIがこなすようになるだろう。業務プロセスの再構築が終わると、これまでホワイトカラーが担っていた作業は、もっぱらAIが遂行するようになる。逆にいえば、これまで通りホワイトカラーが作業をこなしている企業は淘汰されるだろう。

 残念ながら、人間の作業スピードはAIよりもはるかに遅い。AIは、今でも人間をはるかに上回る速さで、文章作成やデータ分析などの作業をこなせる。今後は、コンピュータ上のほとんどあらゆる作業を、人間以上にこなせるようになるはずだ。そのような未来に、人間の手が加わる部分があると、そこがボトルネックとなって、生産性が伸び難くなる。自動運転車が高度に発達した未来では、人間が運転することでむしろ事故が増えるのと同様だ。コンピュータ上のほとんどあらゆる作業を思い切ってAIに任せたほうが、生産性ははるかに高まるのである。

AIを管理することが人間の仕事になる

 そのとき、通常の業務プロセスにおける人間の役割は、AIが行う仕事のチェックや例外対応、最終的な判断といった「マネジメント」が中心となる。つまり、多くのホワイトカラーが、これまでの管理職のような仕事をこなすようになるのである。ただし、マネジメントの主な対象は人間ではなくAIだ。

 それはまた、管理職の仕事がAIアーキテクトの仕事に接近してくることを意味する。これまで管理職は、部下に仕事を割り当てたり、指示を与えたり、進捗を管理したり、人事評価をしていた。AI時代の管理職は、AIに仕事を割り当てたり、指示を与えたり、AIの進める作業の進捗を管理したり、AIの性能を評価する。

 AIアーキテクトがAIの導入に力点を置いているのに対して、AI時代の管理職はAI導入後の管理に力点を置いているという一応の違いはある。しかし、AIアーキテクトも導入後の管理を担うし、逆にAI時代の管理職が新たなAIの導入に携わることもあり得る。従って、両者の仕事は力点が異なるだけともいえるだろう。長期的には、AIアーキテクトの仕事が減っていくのと同様に、AIをマネジメントする仕事も縮小していき、管理職もあまり必要なくなる。

 たとえば採用プロセスにおいて、AIエージェントは書類から抽出された学歴やスキルに基づき、応募者をスコアリング(点数付け)することができる。当初は、このスコアリング結果と人間の判断との間にズレが生じるため、AIのスコアは参考程度にとどまるかもしれない。だが、このズレを解消するように、AIエージェントをチューニングすることができる。そうすると、人間はAIエージェントの「この人を採用しましょう」という提案をチェックし、必要に応じて提案を拒否する役割をはたすようになる。

 さらに進歩すれば、通常の採用プロセスはAIに任せきりにして、人間は時折、その判断がおかしくないかを事後的に「監査」するだけになる。最終的には、ほとんど責任を取る仕事のみがホワイトカラーの労働者に残されるだろう。

AIドリブン企業における
組織構成と雇用

 AIが主軸となって業務を遂行し、ホワイトカラー労働者が通常の業務プロセスにおいて、チェックや監査、責任を取る仕事のみを行っているような企業、あるいはそれに近い企業を「AIドリブン企業」と呼ぶことができる。AIドリブン企業で働くホワイトカラーの人数は、10分の1から30分の1くらいに圧縮されるだろう。そのイメージをつかむために、企業における組織構成がどうなるかを、企業規模別に描いてみよう。

 現在、社長1人、経理1人、人事1人、営業7人、現場スタッフ30人からなる40人規模の小企業であれば、社長1人がいくつものAIエージェントを管理し、その他は営業1人と現場スタッフ以外に残らないかもしれない。あるいは現在、社長1人、経理50人、人事50人、総務30人、法務20人、IT部門100人、営業500人、残りが現場スタッフという1万人規模の大企業であれば、社長1人、経理3人、人事3人、総務2人、法務1人、IT部門3人、営業10人、そして現場スタッフといった構成になるかもしれない。

 一方で、ゼロから新しい商品やサービス、コンテンツをつくる仕事や、タレント、ユーチューバーといった自己表現する仕事、すなわち「クリエイティブワーク」に従事する人間は増える可能性がある。もちろん、生成AIによってつくられたコンテンツやタレント、ユーチューバーも増大するだろう。

 だが、人間には、人間の振る舞いを見たいという根本的な願望がある。囲碁や将棋で人間がAIに勝てなくなっても、人々が見たいのは人間同士の対決だ。従って、クリエイティブワークは増大するといえるだろう。問題は、クリエイティブワークで食べていける人が、ほんの一握りだということだ。今でも、タレントやユーチューバーとして食べていける人は少ない。また、新しい商品やサービスをつくる仕事にしても、誰もが向いているわけではない。

 それに対して、経理や人事といった仕事は、作業のやり方を身につければ、比較的多くの人が担うことができたが、そのような仕事が劇的に減ってしまうのである。それゆえに、総じていえば、ホワイトカラー全体の雇用全体が減少することは避けられない。

日本でAI就職氷河期はいつ訪れるか?

 アメリカではすでに、プログラマーやカスタマーサポートといった職種の新卒採用が減っており、AI就職氷河期が到来したともいわれている。ただし、経済全体としては雇用が増大しており、深刻な失業が発生しているわけではない。AIアーキテクトやAIコンサルといったAI関連の仕事が増大する一方で、経理や人事の担当者なども、自らが業務プロセス再構築の仕事に携わる必要がある。というのも、業務プロセスを正確に把握しているのは、まさに彼ら自身であるからだ。従って、今後、業務プロセスの再構築を行う10~15年の間には、雇用全体が増大する局面も発生し得るのである。

 ただし、それはあくまでも過渡的な現象であって、AI時代に長期的にも雇用が増大し続けるということはあり得ない。というのも、AIは進歩すればするほど、人間の振る舞いを真似るのが得意になり、労働を代替する能力が高まるからだ。その点において、AI革命は過去の産業革命とはまったく異なっている。蒸気機関がいくら進歩しても、人間のように振る舞うようにはならない。過去の歴史から得られる法則をそのままAI時代に当てはめて予測する論者が少なくないが、そのような予測はあてにならない。

 また、この10~15年の間にも、AI失業が深刻になる可能性がある。というのも、1つには冒頭で取り上げたデザイナーやライターといった専門職の仕事が、生成AIの影響で減少するからだ。日本でも、すでにAIのせいで失業したライターの嘆きがSNSに書き込まれている。また、これまで日本では、デジタル技術に弱い中高年が早期退職に追い込まれるという「隠れたIT失業」が起きていたが、今後はこの延長上で、隠れた「AI失業」が増大するだろう。あからさまな解雇は起きにくいが、AIエージェント化が進んだ企業や部門で、早期退職がますます促されるようになる。日本では、アメリカとは異なり、AI導入のしわ寄せはまず中高年に向かうものと考えられる。

 日本では、AI導入が遅いことと、少子化による新卒採用の減少により、いまだに新卒が重宝されており、人材の奪い合いが起きている。それでも、来年度の採用について、人数を増やす予定の企業よりも、減らす予定の企業の方が増えており、AI就職氷河期の前兆が現れている。最近は、「ギュられる前に就職しよう」という言葉がSNSで流行っている。これは、「シンギュラリティ」(AIが人間を超える時)が到来して、AIに職を奪われるようになる前に就職しようという意味だ。30年ごろには、日本でもAI就職氷河期が到来するだろう。企業も労働者も政府も、AI失業という深刻な問題に向き合わなければならなくなるのである。それまでに、私たちはAI時代にどのような社会を築くべきなのか、よくよく議論しておく必要がある。


<PROFILE>
井上智洋
(いのうえ・ともひろ)
駒澤大学経済学部准教授、慶應義塾大学SFC研究所上席研究員。博士(経済学)。2011年に早稲田大学大学院経済学研究科で博士号を取得。早稲田大学政治経済学部助教などを経て、17年より現職。専門はマクロ経済学。著書に『人工知能と経済の未来』『メタバースと経済の未来』(文藝春秋)、『AI時代の新・ベーシックインカム論』(光文社)、『純粋機械化経済』(日本経済新聞社)、『AI失業』(SBクリエイティブ)などがある。

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