福岡大学名誉教授 大嶋仁氏
日本国憲法が「信教の自由」を保障していることは周知の通りである。これは「個人に宗教を選ぶ権利がある」ことを言ったもので、国家権力が特定の宗教とむすびつくことを禁じる「政教分離の原則」と表裏一体になっている。
だが、実際には、日本政府は特定の宗教と結びついてきた。旧統一教会は紛れもなく宗教団体であるが、戦後日本の方向を決定的にした岸信介以来、自民党はこの団体との癒着を保ってきたのである。
自民党に言わせれば、旧統一教会の教義は党の政策や運営に一切関係していない。また、この宗教を日本に誘致した岸信介にすれば、これを宗教としてではなく、ソ連・中国・北朝鮮に対抗する「反共組織」として、すなわち日本の民主政治にとって有用な思想的武器として導入したのである。
では、その自民党は、共産主義の脅威が去ったのちはどういう名目でこの教団との関係を続けたのか?この団体を選挙の際の支援組織として利用してきたというのが正しい。だから、そこには「政治と宗教の癒着」はないということになるのである。
しかし、旧統一教会は純然たる政治団体ではなく、宗教団体である。だからこそ、この教団には政治団体には見られないほどの信徒への強制力があり、強大な組織力が発揮されるのだ。従って、いくら自民党が「非宗教的な政治目的」と掲げても、それを額面通りに受け取るわけにはいかない。
なお、旧統一教会は「宗教集団」ではなく、詐欺師によって運営される「カルト集団」であるという見方もある。これは正しい見方ではあるが、憲法ではカルト集団と宗教団体の区別がない以上、しかも、カルト集団も信徒の宗教心を利用していることから、これを宗教集団でないと決めつけることはできない。旧統一教会と自民党の関係は、どう見ても「政治と宗教の癒着」であり、憲法に違反しているのである。
さて、上記の癒着にひびが入ったのは、山上徹也の安倍晋三暗殺事件があったからである。山上本人には「自民党と教団を分離しよう」という意図はなかったかもしれないが、結果的に旧統一教会の暗黒面が露呈されることになり、自民党としても、これまでの教団との関係を清算せざるを得なくなった。なんとなれば、この癒着が続けば、次の選挙において不利になるからだ。
そういうわけで、党はこの宗教団体と縁を切る手続きに踏み切った。少なくとも表向きには、この団体を切り捨てた。
なお、山上の当初の暗殺対象は、韓国に本部のある旧統一教会の総裁・韓鶴子だったという。しかしそれがかなわず、標的を安倍晋三に切り替えたのだそうだ。韓鶴子と安倍では、教団にとってはまったく意味が異なるが、山上にとっては、日本における旧統一教会の存在を支えているのは安倍にほかならなかった。その教団が自身の家族を破壊したのであれば、安倍を暗殺対象とする根拠は、彼なりにあったのである。
しかし、それにしても山上の考え方には疑問が残る。なんとなれば、日本での教団組織にも長がいるからで、その長を狙うのが普通だろうからだ。なのに、山上は安倍を考えた。なぜなら、安倍が著名人で、政界に影響力があったからである。
ということは、山上の犯罪は単なる「計画殺人」とは異なるということだ。彼なりに「政治的」な犯罪なのである。なるほど、彼が旧統一教会の幹部を暗殺したとしても、それは「暗殺」にすらならなかったろう。教団内の一事件にとどまったはずである。ところが、安倍暗殺となれば、日本中がショックを受ける事件となる。山上はそこまで十分計算しなかったかもしれないが、彼の選択は彼の期待以上の「政治的」効果を得たのである。
私自身の見解をいえば、山上の論理は一見して飛躍して見えるが、彼が安倍を狙ったのは、安倍が「政治と宗教の癒着」の象徴であり、その癒着が一般国民である信徒の生活に深刻な打撃を与えていると直感したからなのである。
むろん、メディアはこの事件の政治性からあえて眼を背けるようにしてきた。また検察も、裁判官も、弁護側でさえも、この面にはあえて触れないようにしたのである。こうして、日本の政治の暗黒面は国民の眼のとどかないところに葬り去られた。これが本稿で扱っている現代日本政治の病の端的な兆候なのである。
なお、安倍晋三暗殺事件から3年後、韓国で本家本元の統一教会が「政治介入」の疑いで政府の追及に遭い、総裁の韓鶴子が逮捕された。日本でも、選挙の際に同教団が議員候補者と「政策協定」を交わすなどの政治介入があったという。つまり、この教団は当初から政治に介入するのが目的の政治カルト集団なのである。
なお、自民党以外の党の議員も同教団とのあいだに金銭授受があったことも報じられている。現代日本政治の病は相当に深いのだ。
先にも述べたように、病の元凶は現首相の高市早苗にはない。戦後日本の政治の在り方そのものが元凶なのであり、冷戦期における岸信介の選択がそのなかでも大きく影響している。岸の孫の安倍晋三、その「チルドレン」の1人といわれる高市早苗。この路線が、日本の政治の病を体現しているのである。この病は、白井聡が言った「永続敗戦」と同義なのかもしれない。日本人は「敗戦という病」にとりつかれているようだ。
(了)









