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2016年03月30日 07:02

14資産への固執―長崎の教会群が進む道とは(中)

「独特の伝統」に変更

 新たな推薦書原案では、コンセプトを従来の「東西文化交流」「キリスト教受容の歴史」から「独特の伝統」に変更している。即ちそれはカクレキリシタンのことを指しているのだろう。一般にカクレキリシタンは禁教期に海外からの情報が入ってこなくなったために独特の信仰形態を生み出したキリスト教信者といわれる。しかし、平戸市生月島に残るカクレキリシタンをみても分かるように、カトリックから分派した宗教集団というのが実態である。だからこそ信徒発見で浦上のカクレキリシタンはカトリックに”復帰”したのだ。今もなお長崎市外海町にはカトリックへの転向を頑なに拒むカクレキリシタンがいる。カクレキリシタンは伝統ではない。今回の変更にはその理解が完全に抜け落ちている。

無視された教会

cross 長崎県は禁教期に焦点を絞り込もうとしているが、その説明に最もふさわしい教会が構成資産に入っていない。カトリック浦上教会、通称浦上天主堂だ。その場所はかつて踏み絵が行われた庄屋の家があった。浦上のカクレキリシタンは四度にわたる大規模な迫害を受けており、最も過酷だったのが明治初期の浦上四番崩れだとされる。信者らは日本各地に流され、各地で拷問を受けて多くが亡くなり、戻ってきたのは半数ほどでしかなかったという。禁教の象徴的な場所だった庄屋宅跡をあえて選び、20年の月日をかけて建設された浦上天主堂は当時東洋一とも称された。かつて関係者に浦上天主堂が教会群の構成資産に入っていない理由を問うたところ、「建物が新しすぎる」と答えられたことがある。長崎原爆で破壊され、新しい聖堂が再建されたのは1959年。確かにまだ60年にも満たず、資産の教会に比べれば新しいことは間違いない。

 「浦上天主堂が廃虚のままだったら、一発で世界遺産に決まっていたはず」。地元でよく交わされる冗談だ。広島の原爆ドームは世界遺産に認定されているので、その可能性は限りなく高かっただろう。しかし現実には浦上天主堂は建て直されている。その経緯には黒い噂も付きまとう。当時の長崎市長は廃虚の保存に前向きだったのに、米国での視察旅行を終えて帰国した途端、撤去を決定した経緯については高瀬毅「ナガサキ 消えたもう一つの『原爆ドーム』」に詳しい。一説にはキリスト教国の米国が同じ信者を原爆で虐殺した象徴として廃虚の浦上天主堂が残ることに難色を示したともいわれる。真相は不明だが、負であるにしろ、キリスト教であるしろ、浦上天主堂は世界遺産の理念である人類が共有すべき「普遍的な価値」を持つという資格を十二分に備えているといえるだろう。しかし、世界遺産になることはできない。ユネスコ世界遺産委員会が構成資産は文化財として適切に保護されていることを要件としているためだ。

禁教と伝統は両立するか

 今後の課題は長崎の教会群の「独特の伝統」をどのように定義するか、ということになるだろう。キリスト教の歴史において独自の信仰体系を築いた教派は数多い。例えば、キリスト教ネストリウス派はその教義が異端であるとして排斥され、古代中国に伝わり景教と呼ばれるようになった。そうしたものとの違いを示さなければならない。単なる弾圧だけなら、初期キリスト教も数々の過酷な迫害を受けている。カトリックでは日本の信者は弾圧によって途絶えたと信じられていた。それだけに250年以上も密かに信仰を守り続けていたという事実は驚きをもって受け止められたのである。そうした宗教史的な認識と長崎独特の伝統をうまくすり合わせることができるのか。イコモスが見直しを勧めた構成資産をあえて維持する決断をした以上、さらに知恵を絞らなければならず、しかも残された時間はあまりに少ない。政府が世界遺産推薦候補を決定するのは例年9月である。

(つづく)

 
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