2024年04月26日( 金 )

アスリートの賭博問題を考える~勝負という幻想

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 バドミントン日本代表の桃田賢斗選手(21)と、2012年ロンドンオリンピック代表の田児賢一選手(26)の両名の違法カジノ店での賭博行為が発覚し、両名が所属するNTT東日本が8日に会見を開いた。また2人のほかにも、現役の男子選手4人と元選手2人が、田児選手とともに違法カジノ店を訪れ、賭博行為をしていたことが判明。賭博に関与していたのは、現役の松丸一輝選手、佐藤黎選手、星野翔平選手、古賀輝選手と元選手の竹内宏気氏、大越泉氏の6人。桃田選手は「6回程度。1回で10万円くらい持って行き、トータルでは50万円くらい負けた」と言う。田児選手は、60回程度で1,000万円ほど使ったとのこと。

 10日に日本バドミントン協会は、緊急の理事会を開き、桃田選手の代表選手指定の解除と、無期限の競技会出場停止処分にすることを発表。桃田選手は、リオデジャネイロオリンピックへの出場が不可能となった。また、桃田選手を誘った田児賢一選手は、無期限の登録抹消処分。日本代表のB代表の古賀選手は、代表選手指定解除と1年間の競技会への出場停止処分が決定。残り5選手には6カ月の出場停止の処分を発表した。

 プロ野球界の賭博問題に端を発し、今回のバドミントン代表らの賭博。皆、その競技のトップクラスにいる選手である。そのレベルにまで上がるのには、当然、自分だけの力ではなかっただろう。今日まで支援してくれた方々や友人、そして家族に対して、心から詫びなければならない。何よりも選手ら自身が、賭博に手を染めてしまったことに後悔していることだろう。トップクラスに復帰・復活することはイバラの道だろうが、失った信頼を取り戻すための行動を今日からとってほしい。

20160411_007 現在、賭博問題が表面化しているのは、プロ野球界と今回のバドミントン界であったが、他の競技の世界でも存在している可能性はある。
 トップクラスの選手ともなると、各種の強化費や、所属からの相応の報酬を手中にすることができる。しかし一方で、常に勝敗のプレッシャーにさらされ、『勝てば賞賛、負ければ罵倒』という表裏一体の世界。また、常に『戦力外』や『代表レベルの資格なし』という烙印を押される恐怖などとも戦わなければならない。
 「プロ・アマ問わず、トップクラスの選手は、そのストレスを解消するために、お酒を暴飲したり、ギャンブルに入れ込んだりしてしまう選手は多数いる。一般のサラリーマンやOLの方々と比較して高額な報酬を得ているため、それらにつぎ込む金額も想像を絶する。酒やギャンブルにつぎ込むことで、そのとき一瞬は心が晴れるが、次の日には再び現実に戻され、ストレスをさらに肥大化させる。そして、選手自身の競技力が低迷し、淘汰される。そのパターンを何度も目の当たりにした」と、各競技の元アスリートの方々。世間からは華やかに見える世界だが、その裏では、世間からの評価や将来への不安というプレッシャーと戦いながら、それぞれ取り組んでいるという。

 閑話休題。一昔前、為替のトレーダーを生業としている人物に話を聞いたことがある。
 「金融取引をやると破滅してしまう人は、自己管理ができない人です。金融取引は、自分との戦いです。目先の金儲けばかり、すなわち毎回勝負に一喜一憂するような心では、金融取引は難しいですね。自己管理できず、相場の負けを取り戻すために、さらに投資額を増やすなどする方もおります。そのような人々は、100%に近い確率でその世界から姿を消します。自分との戦いに挑める人こそが、生き残れるのです。要するに、勝負の幻想にとらわれていてはいけないのです」と語っていた。

 勝負の幻想──。もちろん試合には、勝つことが要求される。それを目指すことは、間違いではない。しかし、そればかりにとらわれて、小手先にばかり走る。上手くいかなければ、ストレスがうっ積し、しまいには酒やギャンブルに走る…。その競技界のトップクラスで生き抜いて世界と戦っていくには、勝負の幻想にとらわれず、自分との戦いに日々挑んでいくことが最も重要である。
 自分との戦いとは、明確な自己目標を設定し、それに向かって毎日取り組む行動である。団体競技でも同じだ。その所属の目標に対して、「所属に貢献するために、自分をどのように磨いていくのか」という自分との戦いに転じることができる。自分との戦いに、人生を賭けて挑んでいる人には、違法賭博にふけるなどの時間はない。

【河原 清明】

 

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