2024年04月20日( 土 )

どうなる新耐震基準、地域係数の見直し必要~熊本地震、損壊住宅1万棟(後)

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再び耐震診断と耐震補強が迫られる

 ――損壊しなかった建物でも住み続けられますか。
 仲盛 すでにお話ししたように、新耐震基準でも、繰り返し震度6強を受けることまでは想定していませんでした。倒壊しなかった建物が、次に倒壊しないとは言いきれません。構造設計というのは、震度5強までに対応するのが一次設計で、部材が壊れないことが要求されています。震度6強から上に対応するのが二次設計で、本当の意味での耐震設計ですが、一般に「倒壊しない」という意味は、構造上の安全性のことであり、部分的な崩壊は認められています。震度7のようなあまりにも巨大な地震力に対しては、部分的に壊れることによって、建物が倒壊しないように構造的な安全を確保しているからです。

仲盛昭二氏 インタビューに答える仲盛昭二氏

 熊本では、4月14日と16日に大きなダメージを受けた建物が、その後も続いている数百回の余震により揺さぶり続けられ、金属疲労的な状況が続いています。余震が続いている限り、被害が発生する可能性は残っていると言えます。
また、震度7というのは、震度10段階の一番上で、実際の地震の揺れの大きさには上限がありませんが、設計するには、どこかで上限を設けて設計するしかありません。同じ震度7でも、建築基準法令で想定した上限を超えれば、倒壊することはあり得ます。
 一度耐震診断を受けた建物、耐震化工事を行った建物でも、再び耐震診断と、その結果に応じた耐震補強が必要だと思います。今回の熊本地震のような大きなダメージを受けた建物を、再度、耐震診断する場合には、ダメージを考慮して、建物の耐力をある程度低減(例えば30%低減など)する必要があると思います。大きな揺れを受けた建物については、早急に、耐力を低減しての耐震診断をやり直すべきであると考えます。

地域係数は、地震のエネルギーとは無関係

 ――今後、耐震基準は建築基準法改正も含めた見直しが必要ですか。
 仲盛 全体的な見直しが必要かどうかは、被災地全体で被害実態調査が進まないと断言できません。熊本でも、同じ地域で同じ震度6強で部分的に損壊した建物もあれば、損壊しなかった建物もあります。それはなぜか。安全率が入っているからです。新耐震が有効ではなかったとまで言うのはまだ早いでしょう。
 ただし、今後、見直す議論が必ず出てくるのは、地域係数だと思います。
 地域係数については、地震の頻度に基づいて1.0~0.7まで低減するものであり、1回1回の地震のエネルギーと地域係数の関係は全くありません。0.9の熊本、0.8の福岡で、震度6強の地震が来た時に、その揺れが0.9倍、0.8倍になるわけではありません。それなのに、最初から耐震強度が1割~3割少ない建物を建てているようなものです。
 仮に、地域係数が撤廃となった場合、今まで耐震診断を済ませた建物を、再度、診断しなければならず、その結果、多くの建物が、再補強または建て替えが必要になります。
 建築関係告示における地域係数の改訂の議論は今後の問題になると思いますが、現在までに耐震診断及び耐震改修を終えている建物について、地域係数を1.0としての再耐震診断は、早急に行うべきであると思います。各自治体の公共建築物、特に、ほとんどの公立学校で耐震改修が終わっていますが、これらの施設は、地震などの災害時における避難所に指定されています。熊本においても、避難所の体育館の屋根ブレースが落ちるなどの被害が出ており、避難先での二次災害も考えなければなりません。そういった意味では、地域係数を1.0としての再度の耐震診断は、早急に行われるべきです。

 ――スムーズに進みますか。
 仲盛 新耐震基準の建物であっても、地域係数1.0での構造検討または耐震診断が必要になり、耐震補強が必要な建物が多くなり、その費用が、所有者の大きな負担となります。
 我々、構造技術者の絶対数も不足しています。これは、国が構造設計一級建築士という制度を作り構造の資格者の数を大幅に減らしたためです。この制度も偏った制度であり、1回目の考査で誕生した構造設計一級建築士の大半は、JSCAという民間団体の資格者が横滑りのような優遇措置で合格とされたものであり、『試験(考査)』という関門を通過していない、実力不足の人もいるという点は大きな問題になると思います。
 地域係数の見直しは避けられないことですが、恐らく、日本中、大混乱になると思います。しかし、今回の熊本地震の被害を考えれば、何らかの対策は必要です。

(了)
【山本 弘之】

 
(中)

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