2024年05月06日( 月 )

元「鉄人」衣笠氏が斬る!~成長への道

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 家庭内暴力ということで、開幕から30試合の出場停止処分を受けていたNYヤンキースのチャップマン投手が、グラウンドに帰ってきた。テレビから見るチャップマン投手は、待ちに待っていたという感じでブルペンでの投球を終えてマウンドに上がり、自慢のストレートを投げ込んで打者に向かっている。球場に来たお客さんの多くが、100マイルのボールを楽しみにしてきていることを知っているチャップマン投手は、少し力んだように見えたが、期待にたがわず30球を超えるボールのうち10球が100マイルを超え、最高102マイルのストレートボールを打者に投げ込んでファンを楽しませていた。

 人間が投げられる最高のスピードボールは、機械での予測では175キロぐらいではないかと言われるのだから、もう少しで追いつきそうである。ただ、そのボールを投げ込んだ後、その投手はその後のボールをコントロールできなくなるだろうという予測が立てられていた。なぜなら、毛細血管から出血して、指が腫れるそうだ。そうなると、ボールを投げることは難しくなるだろう。

baseball それにしても、凄いことである、野球の選手の体が大きくなり、トレーニングが進み、多くの選手がスピードボールを投げられる時代が来たということだろう。
 考えてみると、私が高校生の頃の甲子園で、ボールが早いと言われる投手たちは140キロ台で、多くの投手は130キロ台のボールを投げていたのである。ところが、今の甲子園大会をのぞいてみると、140キロ台のストレートを投げても回りで見ている報道陣は「速い」という言葉をくれない。「速い」という言葉をもらうには、150キロ台のスピードが必要な時代を迎えたということである。

 そして日本のプロ野球界でも、160キロのボールを常時投げられる投手が出てきたということである。
 日本ハムの大谷翔平投手。この投手は、1試合で何球もの160キロを超えるボールを投げる能力を持っている。こんな投手は、アメリカでもそうそう出てくることはないだけに、メジャーリーグで大いに話題になっている投手である。とくに、今年のオフの契約問題で大きな話題になりそうだったナショナルズのストラスバーグ投手が、早々とナショナルズと7年契約を結んだことで、大谷投手の話題が一段と大きくなっているようだ。

 日本では160キロというと、巨人や横浜で活躍したクルーン投手が初めて見せてくれたが、「日本人では誰が?」というところだったが、現在故障中で復帰に向けて頑張っているヤクルトの由規投手が記録したが、すぐに故障ということで「難しいのかな?」と思っていたところに大谷投手の出現で、周りは大いに盛り上がって期待した。だが、大谷投手は投げるだけで満足せず、打者としても勝負したいということで二刀流に挑戦。それなりの経験を積んで勝負をかける4年目を迎えたはずなのだが、苦しんでいる。160キロのボールに、パ・リーグの打者たちが慣れてきたのだろうか。それとも、大谷投手の投げ方がオーソドックスで、ボールが見やすいというところがあるのだろうか。

 そういえば、クルーン投手が投げる160キロのボールも、セ・リーグの打者たちは空振りをあまりしなかったことを思い出した。当時、不思議になり、多くの打者に聞いてみたのだが、みんな同じ答えで「持っているボールが初めから手から離れるまでず~っと見えているから、ボールが見やすいのです」という答えだった。
 たしかに打者からすると、投手の投げ方で、持っているボールが後ろに行ったときに頭の後ろで隠れる投手はボールの出所が見にくく、いつ、どこから出てくるか、ここの見極めに一番苦労する。だから小さな投手で、そんなにスピードもないのだけれども多くの三振を奪う投手がいるが、みんな投げ方を見てみると共通していると思う。その点、クルーン投手や大谷投手は綺麗な投げ方で、ボールが見やすいという共通点があるようだ。
 もう1つは、多くの投手のボールが早くなり、打者がスピードボールに慣れてきたことも挙げられるだろう。とはいえ、160キロのボールを簡単に打つのは、大変なことであるはずだ。

 4年目を迎えた大谷選手は、打者としては規定打席不足ながら0.322の打率を残し、7本塁打を記録している選手である。好調を維持しているが、周りは満足していない。投手として、まだ今年1つしか勝ち星を記録していないからだ。今季7試合に登板し1勝3敗の成績では、開幕戦を任された投手の責任は果たせていない。ここから、どのような調整を見せて、周りが納得するような成績を残すことができるかに期待したい。
 投手として4年目を迎えて、考えることも多く出てきたのだろう。そういえば阪神の藤波投手も、今季悩みながらのマウンド上の姿が多く見られる。2人とも次のステップのために、苦しいことも多く出てくるだろうが、怯まず挑戦してほしい。

 160キロのボールを活かすために、どのようなことが必要か、何をすれば打者が嫌がるのか、後ろ向きにならずに前をしっかりと向いて、今の自分を鍛えていってほしい投手たちである。

 昔捕手をしていた経験から、若い力のある投手にアドバイスをするとしたら、昔から言われている言葉だが、この言葉をプレゼントしたい。

 「困ったときは打者の一番遠いところに、自分の一番速いボールを投げ込め」。

 

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