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2016年08月22日 14:15

「獣の世」から「人間たちの社会」へ回帰!(1)

慶応義塾大学経済学部 教授 井手英策氏

 東日本大震災という歴史的な惨事が起き、世界から日本の「絆」が賞賛されたことは記憶に新しい。しかし、「がんばろう」という大合唱とは裏腹に、私たちの社会はズタズタに分断されている。所得階層間、雇用形態間、性別間、政府間、地域間、世代間などの対立が激化し、私たちはバラバラな存在に追いやられている。日本社会は先進国と呼ぶのが痛々しいほどくたびれ、多くの日本人は、生きづらさ、閉塞感、未来を見通せない不安に怯えている。では、この社会を覆い尽くしている漠然とした重苦しさはどこから来るのか。私たちはこの「分断社会」を終わらせることができるのか。
 新進気鋭の財政社会学者、慶応義塾大学経済学部の井手英策教授に聞いた。井手先生は近著『分断社会を終わらせる』(共著 筑摩選書)において、この命題に迫りその解決策を提唱している。

理不尽な社会を次世代に残してはいけない

 ――今、先生の近著『分断社会を終わらせる』(共著 筑摩選書)や『分断社会・日本』(共編 岩波ブックレット)が巷で大変な話題になっています。まず、その執筆動機からお聞かせ頂けますか。

 井手英策氏(以下、井手) 執筆動機は大きく分けて2つあります。1つ目の動機は「理不尽な社会を終わらせたい」と思ったからです。最近よく巷では、格差が大きくなったという声が聞かれ、新聞、雑誌などでもこの話題が取り上げられることが増えました。国民の多くが漠然と格差は広がったと感じています。しかし、現在の日本と高度経済成長時代の日本を比べれば、明らかに格差は小さくなっています。それでは、なぜ日本社会は先進国と呼ぶのが痛々しいほどくたびれ、多くの日本人は生きづらさ、閉塞感、未来を見通せない不安に怯えているのでしょうか。

慶応義塾大学経済学部 井手 英策 教授<

慶応義塾大学経済学部 井手 英策 教授

 第8回の「世界青年意識調査」(内閣府2009)によれば、他国と比べて日本の若年層(18歳~24歳)は社会で成功する要因として、「運やチャンス」をあげる人が多くなっています。
 運やチャンスで人生が決まるということは、親の所得や環境によって自分の未来が決まるということです。
 私は生まれた時に「運が悪かった」という理由だけで、その人の人生が決まる社会というのは、それは格差が大きいとか小さいとかの問題ではなく、とてもおかしいと思います。裕福な家に生まれる、貧しい家に生まれる、男性に生まれる、女性に生まれる、障害を持たずに生まれる、障害を持って生まれるなどはすべて運です。私は、運が悪かっただけで、その人の人生が決まってしまう社会を「理不尽な社会」と呼んでいます。現在の日本社会は、まさにそれにあたります。

 運が悪かった人たちも、運が良かった人たちと一緒に生存競争の輪に加わり、その後の努力や頑張り次第で自分たちの生き方を決めていくことができる社会をつくる必要があります。運が悪かった人たちに感情的に「かわいそう」と手を差しのべるのは学者の仕事ではありません。私は財政社会学の立場から、このような理不尽な社会をなくす方策を研究、そして提言していきたいと考えています。

子どもたちの未来に不安を感じた

 2つ目の動機は「子どもたちの未来に不安を感じた」からです。私には今3人の子ども(8歳、4歳、0歳)がいます。3人の子どもたちの生きていく世の中を考えたときに、言いようのない不安に襲われることがあります。それは、もし私が運悪く今日帰宅の途中で車に跳ねられ、死亡とか、障害を負うようになった場合、「妻や3人の子どもたちは安心してこの日本社会で生きていくことができるのだろうか」と考えるわけです。
 今日、本の生活保障システムでは、義務教育や子どもの医療費を除き、現役世代にとってのサービスはゼロに等しい状態にあります。残された3人のどもたちが、塾はもちろん高等教育さえ受けられなくなる状況がパッと浮かびます。そのような社会を私たちは次世代の子どもたちに残してはいけない、何とかしなければいけないと考えています。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
ide_pr井手 英策氏(いで・えいさく)
 慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。1972年 福岡県久留米市生まれ。東京大学大学院経済研究科博士課程単位取得退学。博士(経済学)。著書に『経済の時代の終焉』(岩波書店、大佛次郎論壇賞受賞)、共著に『分断社会を終わらせる』(筑摩選書)、共編に『分断社会・日本』(岩波ブックレット)、『Deficits and Debt in Industrialized Democracies』(Routledge)など多数。

 
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