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2016年09月19日 07:01

大人として、デモクラティックに生きる!(3)

専修大学法学部 教授 岡田 憲治 氏

政治や自治は経営・ビジネスではありません

 ――民主主義(デモクラシー)には批判も多数聞かれます。それでも、先生は「擁護する」と言われます。それはなぜでしょうか。

 岡田 それは、古代ギリシャの時代から幾種類もの統治形態が議論されて来た中で、デモクラシーだけが唯一「政治的平等」の理念を謳っているからです。しかし、ここでは、たくさんあるデモクラシーに対する批判の中から、代表的な批判をいくつか取り上げ解説させて頂きます。

 1つ目の批判は「合意形成の効率化を=市場は待ってくれない」というものです。ビジネスではスピードが要求され、時間がかかる政治決定は困ると言われます。しかし、ここには根本的な誤りがあります。それは、政治や自治(教育の問題も同じです)は、人間の想像力を使って、様々なことを考慮に入れて、複眼的に、重層的に合意作りをしていくものです。それを、市場の反応というぶっきらぼうかつ絶対的評価基準でなされる、ビジネスや経営の発想で考えてはいけないからです。

本当にまともな人間のやることなのか否か

 岡田 2つ目の批判は、「一般市民には政策判断能力はない=政策エリートに任せよ」というものです。デモクラシーを担う主権者たる一般の人々は専門家の訓練を受けておらず、知識もない素人ですから、高度な知識と知見を必要とする現代の政策決定や行政決定を、適切に判断する能力はありません。重要な決定は専門家に委ねるべきであり、その意味では、民主主義においては、人々は政策決定から距離を置くべきという考え方です。

 専門家は「専門領域における合理性だけ」を根拠にものごとを判断します。しかし政治家は専門家の議論や知見を踏まえて、なおかつものごとを「倫理的」にも判断しなければなりません。科学は冷徹です。そして、それは人々の人生と生活をどう守るかという処方箋とイコールになりません。一般人は原発には無知をさらすかもしれません。しかし、数万年も間管理しなければならない廃棄物を作りだすことが、「本当にまともな人間のやることなのか否か」は、科学者に決めてもらうわけにはいかないのです。

デモや政治的発言は「肺呼吸」のようなもの

hito 岡田 3つ目の批判は、「民主主義とは多数決のことだ=デモなど要らぬ一発勝負」というものです。デモクラシーとは多数決による決定なのであって、選挙を経て選ばれた統治エリートは、それを背景にどんどん、決断を下し、「決められる政治」に邁進しなければならないというものです。だから、選挙の結果を無視するようなデモや住民投票といった直接的行動は、多数派の決定を無視しようとする、非常に危険なものだという考え方です。

 多数決が単なる「暫定的気圧計測」であることは先に申し上げました。また「多数決にこそ正義がある」ことは誰も確定できません。さらに、民主主義とは選挙に勝ったものの総取り「権力の白紙委任」ではありません。そして最も重要なことは、政治には「黙っていることが何かのメッセージになってしまう」という、非常に不公平なゲームの側面があることです。そのため、デモや政治的発言は、常に情報を確認しながら、優れた民意解釈のためのデータ集めとして、絶え間なく行なわれなければならないのです。これは言わばデモクラシーの「肺呼吸」のようなものです。

不平等を克服する展望やビジョンを浮上させる

 岡田 4つ目の批判は、「世界は不平等じゃないか?=平等なんて絵空事だ」というものです。「現実は不平等」と「平等たらんと」は同じ次元ではありません。デモクラシー制度を「正統だ」という根拠は、それが「政治的平等」の理念に依拠しているからだ」ということです。絵空事には2つの役割があります。1つは、その理念は経験的分析や科学的理論の生成のために役立ちます。2つ目は、その理念は、現実には不完全で未完成で未到達であるが、その先に生まれる未来のための「求められるべき目線(基準)」となりえます。
すなわち、「平等という絵空事」が現実の不平等を克服するための展望やビジョンを浮上させることになります。そもそも、全てのことをデモクラシーのせいにするのはお門違いです。

国家は人々から離れて固有の意思を持ち始める

 岡田 5つ目の批判は、「民主主義とは反日ではないのか=民主政治と国家意思」というものです。主権者たる国民が選挙を通じて国家権力を形成させたのであるから、国家の決定は有権者の意思の表明であって、それに異を唱え、国策に反対するならば、それは己の決めたことを己で覆すことになる。民主主義を貫こうとする者たちは、その意味で反国家的存在だし、安倍政権のやることに不満を持つのは反日の連中の証拠であるというものです。

 民主政治の良いところは、国家意思を「国民の合意」によって、形成させるところです。
しかし、そのような有権者みんなで決めたことと、それを代表するエリート統治集団の意思とが一致することは、今日有権者1億人の政治社会ではありません。これは圧倒的に人数が増えたことだけが原因ではありません。最大の理由は、人々の利益関心を受けてそこから法を練り上げる政治家も、作られた法を受け取り執行する官僚も、議論がひとたび国民の手から離れると、(選挙が終わると)あっと言う間に、「統治エリート独自の利害や意思」を明確にさせ、国民から独立したようになるからです。つまり、国家は人々から離れて固有の意思を持ち始めてしまうのです。このことは、3.11の大震災と原発事故でも如実に証明されたので、読者の記憶にも新しいことと思います。

 このような場合、国家に対して、憲法に依拠し、「その政治的判断は誤りである」と毅然とした態度で糾すことができるのは主権者である国民だけです。それを、立憲主義的、デモクラシーと呼ぶのです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
okada_pr岡田 憲治(おかだ・けんじ)
1962年、東京生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了(政治学博士)専修大学法学部教授。研究対象は、現代デモクラシー思想、民主政治体制、関心領域は、民主政の基礎条件、アジア・太平洋戦争史。著書に『権利としてのデモクラシー』(勁草書房)、『言葉が足りないとサルになる』、『静かに「政治」の話を続けよう』(いずれも亜紀書房)、『働く大人の教養課程』(実務教育出版)、『ええ、政治ですが、それが何か?』(明石書店)
『デモクラシーは、仁義である』(角川新書)、共著として『「踊り場」日本論』(晶文社)など多数。

 
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