2024年04月18日( 木 )

大手小売業(日本型GMS)に何が起きているのか(1)

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aeon イオンの3~8月期の連結決算が7年ぶりに赤字を計上した。主力の総合小売りイオンリテールの赤字は183億円の営業赤字。年間売り上げが2兆8000億円にも及ぶ我が国最大の小売業に何が起こっているのだろう。しかし、これは何もイオンに限ったことではない。イオンに次ぐセブン&アイにも同じことが起きている。

 四半世紀前、年間売上2兆円を誇ったダイエー以下我が国の小売業ベスト10位はすべて総合小売業だった。しかし、それらの小売業の中で現在までそれなりの形で残っているのはイオンとセブン&アイしかない。その両社も創業時の岡田屋、イトーヨーカ堂という名前を捨てて久しい。

 両社は名前を変えるだけでなく、セグメントの付加やM&Aで進化を重ねてきた。しかし、その進化の過程で本業といわれる総合小売業の時流への対応は必ずしもうまくいかなかった。いや、うまくいかなかったというより、むしろ企業体の重荷へと変化してしまったというのが正直なところであろう。

 消費飢餓の1960年代から高度成長を経て1990年代に入ると、日本人の大部分が同じライフスタイルで、同じように明るい将来を迎えることを当然視しているという前提に立った市場環境は大きく変わる。そのころから、高度成長にセットして量と価格をその政策の中心に据え、変わりゆく消費に対応できなかった日本型大型店の苦難の歴史が始まる。もちろん、消費市場の大きな変化に大手小売業の経営幹部が気付かなかったわけではない。社名変更や新しいセグメントの付加、さらに積極的なM&Aも、激動する時代に対応するための自己変革を促す経営幹部の叫びに近い思いでもあったのだろう。しかし、その思いも理想通りの自己変革には結びつかなかった。

チェーンストア理論の蹉跌

 我が国の大手小売業は戦後、アメリカの大型小売業、シアーズやKマートをモデルにスタートした。この2社はは大型の店を大量に出店し、同一商品を大量に調達、販売することで当時のアメリカ小売業界を席巻し、栄華を極めていた。いわゆるチェーンストア理論に基づく効率経営である。
「シアーズがあるからアメリカがある」とも言われたこの小売り業もその後凋落を続け、同じくDS業界最大のKマートと合併して起死回生を図ったものの今やその存在は風前の灯火である。これは日本型GMSとまさに瓜二つの状態といっていい。 

 チェーンストアの効率も、市場のニーズがあってこそその真価を発揮する。市場に合わなくなった業態は、いかに効率を追求してもその効果による果実を手にすることはできない。もちろん、チェーンストア理論が間違いということではない。問題はMDのどの部分に重点を置くかである。それを正しく行うには時代を読み切る目が必要になる。それがなければ、チェーンストア理論は思うような効果を生まない。

 日本の大型小売業はその視点を欠いて理論だけを実行した。その結果起きたのが「看板を外せばどの企業の店舗なのか区別がつかない」という画一化である。しかもその品ぞろえと売上予算はすべて「前年実績をもとにした販売計画」を繰り返した。毎年毎年、同じような商品が同じような値段で売り場に並んだのである。

 高度成長時代は10人1色だったライフスタイルはその後1人1色になり、やがて1人10色に変化した。当然、どの店に行っても同じような品を同じような価格で売るというやり方は消費者からそっぽを向かれることになる。そんな店舗や売り場が際限なく増えていけば、結果として単位面積当たりの売上は際限なく落ちてゆく。そうなるといくら物流や調達を改善しても、それは利益に結びつかない。さらに売れ残り商品の値下げが続出し、いつの間にか価格の値下げ額が経常利益額を軽く上回るようになるのである。

専門性を欠いた戦術

 当初、食品売り場を持たなかった日本型GMSだったが、その進化の過程でその売り場に食品を加え、集客を図ることになる。しかし、ここにもまた落とし穴が待っていた。

 食の世界にはすでに地方SMがしっかり根を張っていたからである。日本型GMSとスーパーマーケットの違いはその生い立ちと現場改善努力にある。GMSの食品はどちらかというと集客のための手段であり、その利益や商品加工技術はほとんど顧みられることなく売り場だけが拡大していった。いわゆる「食品の安売りでお客を引き、衣料で利益を稼ぐと」いう考え方である。

 一方、スーパーマーケットは食品で利益を稼ぐしかなく、地元ニーズをつかむ努力と商品や利益に関する学習と工夫を重ね続けた。やがて、漫然と経営したGMSの食品と地方スーパーマーケットのそれには歴然とした差がつく。今振り返ってみると、GMSは衣食住のすべてで顧客志向を放棄したといっても過言ではない。そして今の苦境がある。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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