2022年06月30日( 木 )
by データ・マックス

初の女性大統領の誕生か?ヒラリー・クリントン:仮面の女王(1)

国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 米大統領選挙の最後のテレビ討論会が終わった。前2回と同様、ほとんどの時間は互いの誹謗中傷に費やされたものだ。アメリカでは6,000万人もの視聴者が討論の様子に見入ったと言われるが、大半の有権者はあまりの低レベルに「失望」したに違いない。これではとても世界のリーダーとしての将来性は期待できない。まさにアメリカにとっての悲劇であり、日本や世界にとっても悪夢を予感させるに十分だった。
 アメリカの主要メディアの評価では「クリントン優位」とのこと。日本のテレビや新聞も右に倣えといった報道ぶりだ。何しろアメリカの大企業「フォーチュン100社」は1社もトランプに献金をしていないが、ヒラリーには11社が大口献金している。4年前の大統領選挙では共和党候補のミット・ロムニーに40社近くが献金していたわけで、今回、共和党の候補となったトランプがいかに大企業から支持されていないかが分かる。
 「不動産王」と異名を取っているが、ビジネスの主流派からは相手にされていないのがトランプなのである。とはいえ、選挙は一夜にして風向きが変わることもありうる。まだまだ勝敗が決したわけではなさそうだ。実際、主要メディアの世論調査と対照的に、最新のラムッセン調査によれば、「トランプ43%、クリントン40%」という数字も出ている。他方、投資家の間ではトランプが勝てば「株価は7%の下落」で、クリントンの勝利に終われば「株価は4%の上昇」との観測が上がっており、ヒラリー株が高値で推移している。
 もし、11月8日の投票の結果、ヒラリー・クリントンが勝利し、2期大統領職を務めたとすると、過去36年のうち28年間はブッシュ家とクリントン家によってアメリカは支配されることになる。いわば、クリントン女王の誕生だ。こうした新たなアメリカ版王室を求める声が出てくるのも、オバマ大統領の政権運営の失敗でアメリカの世界的権威が失墜したと受け止める層が多くなったからであろう。
 では、女性蔑視の発言で足元をすくわれたトランプに起死回生のカードは残されているのだろうか。限られた時間で、どこまで有権者の心をつなぎとめることができるかは疑問である。アメリカに押し寄せる不法移民を日本や中国と同列に扱い、「寄生虫」と断定する姿勢は国家の最高指導者としては戴けない。
20161024_001 しかも、不動産王として知られるトランプは自らが稼いだ資金をバックに、これまでもヒラリー・クリントンに多額の献金をしてきた過去がある。10年ほど前には民主党員としてヒラリー応援団の先頭に立っていたのがトランプだ。共和党の大統領候補指名争いでトップを走っていた時でさえ、自らのブログでは「共和党とか民主党ではなく、無所属で戦う方が支持率の伸びが期待できるかも」と述べていたもの。
 要は、どこまで本気で大統領の座を目指しているのか判断が付きかねる面もあるということだ。政治信条も何もあったものではない。そのため、政治評論家の間では、「トランプは水面下でヒラリーとつるんでいて、土壇場で共和党を離脱し、民主党に有利な状況を作る可能性がある」との憶測すら呼んでいたほど。選挙戦の終盤になると、「投票には不正の可能性が高い」と声高に訴えるようになった。負けを見越した予防線を張っているのであろうか。既に選挙後を考え、新たなテレビ番組のスポンサーを探しているというトランプ。その真意は測りきれない。
 一方、何を考えているのか判然としないという点では、ヒラリーも同じ穴の狢(むじな)である。彼女は国務長官時代にオバマ候補と民主党の指名を巡り激しい戦いを演じたものだ。オバマ大統領はそんな彼女を自らの閣僚として取り込むことで彼女の力を抑えようとした。野心家の彼女は当初「自分は国務長官として大統領を支える。自ら将来大統領の座を目指すことは考えていない」と、しおらしい発言をしていた。
 しかしオバマ大統領の支持率が急降下し、その指導力に陰りが見られるようになると、早々に閣外に去り、2016年の大統領選に向け、改めて初の女性大統領を目指すようになった。オバマとは極力距離を置き、独自の動きを心掛けてきたのは衆目の一致するところだ。
 そんなヒラリーの強みは資金集めの凄さである。2015年の時点で、ヒラリー陣営では25億ドルの選挙資金を目標に集金マシーンを稼働させていた。ウォールストリートの金融業界と軍産複合体が2大スポンサーである。目標金額は楽々とクリアー。こうした資金で大手メディアを懐柔しているわけだ。
 とはいえ、ヒラリーにとっては難題も多い。国務長官時代に公的メールアドレスを使わず、私的なアドレスで機密情報を受信、発信していたことが明らかになり、情報管理能力が問われているからだ。また、政治献金問題でもスキャンダルを追及されている。「ヒラリー・キャッシュ」と揶揄されるように、多方面から政治資金を集めまくってきたヒラリー。当然、中東アラブ世界の王族とかウクライナの財閥など怪しい筋からの違法献金の可能性が高く、時限爆弾を抱えていることは疑いようがない。
 思い起こせば、2001年、ホワイトハウスを去った時、クリントン夫妻は裁判費用がかさみ、破産寸前と言われたものだ。しかし、2014年、ヒラリーとビル・クリントンは講演料だけで2,500万ドルを稼いだことが明らかになっている。外国政府からの招待や講演謝金の額も半端ではない。大統領になった場合、これまでヒラリーに貢いできた外国政府や王族たちからどのような要求が繰り出されるのか見物(みもの)だ。
 政治とカネの問題は日本でも中国でも騒がしいが、アメリカでは金集めの手法が堂々としているため、かえってその実態が見えにくい。しかし、奥の深さでは世界一であろう。ヒラリーも政治家として最も際立っているのは資金集めの才覚と言われる所以だ。
 また、ヒラリーは女性初のアメリカ大統領を目指すというわけだが、女性問題にそれほど熱心というわけでもない。それどころか、夫ビル・クリントンがホワイトハウスの女性インターンをはじめ数多くの浮気問題で矢面に立たされた時など、夫を訴える女性たちの口封じに懸命に動いたこともあった。メディアへの影響力をフルに使い、セクハラ被害を訴えた女性たちを逆に訴えると脅し、訴訟を取り下げさせた。そのためヒラリーは女性の権利を訴える層からは批判を浴びている。
 モニカ・ルインスキーとの「不適切な関係」が発覚し、ビルが自分にウソをついていたことが分かった時には、「そもそも彼を信じた自分に愕然とし、傷つき、腹が立った。これほどひどい裏切りを受けても、結婚生活を続けていくことができるのか、あるいは続けていかなくてはならないのか、私には皆目わからなかった」と怒りに震えていたヒラリー。
 しかし、「生涯で最もショッキングで辛い経験を友人の励ましや信仰の手助けで克服した」と自己分析。その後は逆に逞しく反撃に出たのである。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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