2024年04月16日( 火 )

チキンは韓国人の大好物?(後)

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 韓国では他国に比べて、自営業比率が高い。アジア通貨危機を境に、失業した多くの会社員は自営業へと追いやられるようになった。とくに韓国のベビーブーマー(1955年から63年生まれ)は、これまでは幸い韓国経済が成長する時期に社会生活を送っていたため、それほど将来のことを心配する必要はなかった。しかし、韓国経済がアジア通貨危機に見舞われ、彼らは突如として人生の挫折を経験するようになる。

 そうして、彼らは将来に対する備えもあまりないまま、職場を追い出されることとなる。彼らは、「生計を立てるために何かをしないといけない」という切羽詰まった状況に陥ったわけだ。そこで、少ない資本で、あまり技術がなくてもやっていけるということで、彼らはチキン店を選んだ。
 その結果、チキン店は過当競争になり、新たに開業する店舗がある一方で、閉店する店も後を絶たないという現状になっている。

 だが、平均売上高だけを単純比較しても、チキン店は他業種に比べ、売上が少ない。コンビニの平均売上高が4億3,100万ウォン、ベーカリーの平均売上高が4億500万ウォンであるのに対して、チキン店の平均売上高はコーヒー店の売上高(1億6,800万ウォン)よりも低い1億1,400万ウォンに過ぎない。
 この売上高の金額だけを比較しても、ピンと来ないかもしれないので、もう少し業界のことを書いてみよう。

 数カ月前に、チキンフランチャイズランキング1位のBBQ社が値上げを発表したが、政府と消費者の強い抵抗に遭い、撤回したことがある。チキンは、韓国で最も愛されているメニューであるだけに、消費者の価格への敏感度が高く、価格を値上げするのは難しくなっている。

 チキンを私たちの口に入るまでには、いくつかの業者が関わっている。まず、ひよこから鶏へと育てる農家がいる。次に、成長した鶏を購入して、チキンの材料へと加工する鶏肉加工会社がある。なお加工会社は、加工したチキンの材料の肉だけでなく、コーラや「チキン ム」(韓国式大根甘酢漬け)などもチキン店に供給する。そしてチキン店は、家賃や人件費、電気代などを負担し、店を運営する。鶏丸ごと1羽のチキンは、韓国では1万6,000ウォンくらいするが、チキン店にとっては1羽で2,500ウォンくらいの利益を出すことも容易ではないようだ。価格を上げることは難しい反面、コストである家賃や人件費、電気料金などは上がり続けているので、経営が厳しくなるのは当然である。
 なお、フランチャイズ本部は同じ条件ではあるが、加盟店に比べると、厳しいなかでも自分の利益は確保できるように経営しているし、スケールメリットもあるので安定している。フランチャイズ本部は、加盟店のことよりも自分の利益を優先し、規模を大きくすることに躍起になっている。しかし、加盟店に対しては優位であっても、他社との競合になることには変わりがないので、生存をかけて必死の努力をしている状況である。

 鶏を育てる農家は、肉加工会社からひよこを提供してもらい、それを育てたうえで肉加工会社に納品する仕組みになっている。納品条件などは厳しく、農家は肉加工会社に文句を言えるような状況ではない。この業界のバリューチェーンのなかでは、肉加工会社が一番強力であり、利益も最も確保している。いかに良い肉を良い条件で仕入れるかが競争力になるので、フランチャイズ本部も肉加工会社には頭が上がらない。このチキン業界の構図にも、韓国経済の格差の問題が象徴的に存在しているように思える。

 筆者は、数年前にアメリカの農家の現実を告発した本を読んだことがある。鶏を飼うロマンチックな農家はもう存在しないという内容であったが、まさにそのような現実が韓国でも展開されている。農家は肉加工会社の厳しい条件に縛られ、相手の要求を満たすため、いつも緊張を強いられる。
 ほかに最近では、チキン店を広報する会社も現れ、それももう1つのコストになりつつある。

 このように、チキンは韓国人の大好物であり、韓国社会の縮図でもある。

(了)

 
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