2024年05月03日( 金 )

ソニーが世界に残したもの~営業マンが体験したソニースピリッツ(1)

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ベータとVHSの熱い戦い・ビデオフォーマット戦争

 ビデオが家庭用として普及し始めたのは、私がソニーに入社した32歳の頃で、今から40年ほど前の1975年です。世界初のVTR(ビデオ・テープ・レコーダー)は1956年アメリカのアンペックス社の固定ヘッドで、テープは2インチのオープンリールでした。
 その後、1970年に世界統一規格とされたU規格はテープ幅3/4インチのテープからテープを引き出して回転ヘッドにローリングさせ、そのまま録画、早送り、巻き戻しなどができる優れもの。U字状にヘッドにテープを巻き付けていることから「Uマチック」としてソニーから発売されました。しかも『オートローリング化』と『カセット化』を実現した画期的なものでした。
Uマチックは放送業界、学校教材、映画、音楽業界など業務用として幅広く使われました。しかし高価でもありました。

 家庭用VTRは回転ヘッドをより小さくし、テープ幅を3/4インチから1/2インチにしたものです。大きく変わったのはテープへの記録方式です。Uマチックはテープ表面に斜めに記録し、隣の記録帯に干渉しないよう同じ幅に無録画のスペースを必要としていました。これに対し、家庭用VTRは1/2インチのテープ幅に高密度の記録をするために、「アジマス記録方式」を採用している点です。アジマス記録方式とは、2つの録画ヘッドによる映像の記録をそれぞれ逆方向に記録させて、記録したもの同士がお互いに干渉しないようにしたものです。記録できる密度は倍になります。
 家庭用VTRは、『見たい映画や演劇、テレビ番組を家庭用のテレビで再現できる』とのコンセプトから開発されたものです。ソニーはUマチック同様、企画統一を試みていましたが、ある程度の世代以上の皆さまがご存知のようにソニー連合のベータ方式とビクター連合のVHSに二分されました。この2社の方式の前に松下の1ヘッドVX、サンヨーのVコード2、アカイなども初期に登場していました。
 ベータはUマチック同様、テープをローディングしたまま録画、編集ができることが特徴で、VHSは録画から早送り、巻き戻しになるといったんヘッドからテープが離れて巻き取る事が難点でもありました。
 そしてベータのテープは、「将来ビデオレターの時代がやって来る」と予測した創業者の井深大さんの提案で文庫本サイズにされました。VHSとベータはテープのサイズでも違いがありました。VHSテープはベータテープより一回り大きいサイズです。

 ベータとはヘッドにテープがベタに巻かれていて、ローディングしたかたちがギリシャ文字のβに似ていたから生まれた名称です。
 このベータ連合(ソニー、サンヨー、東芝、アイワ、パイオニア)とVHS連合(ビクター、松下、日立、アカイ)の熾烈な戦いは、ある年齢以上の皆さまの記憶にはつよく残っているでしょう。
この2つのフォーマット戦争が高画質、記録の長時間化、多機能化、操作性の向上など、VTRの普及に飛躍的な技術革新を生んだのです。

(つづく)
【池田 友行】

 
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