2024年04月28日( 日 )

ソニーが世界に残したもの~営業マンが体験したソニースピリッツ(2)

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規格統一競争に勝ったVHS、敗れたベータのその後

 私ども販売会社の営業マンは、電器店やエンドユーザー向けに、記録方式やヘッドの大きさ、テープとヘッドの回転速度による相対速度が大きいことなど、記録情報の良さや機能性の良さなどを、勉強会を開いて何度も頭に叩き込みました。また電器店の営業マンと同行してエンドユーザーの家庭にうかがう訪問営業も数多く行い、VTRの営業マンとして汗を流しました。
 片やVHSは、長時間録画を武器に販売戦略を展開していました。録画できる時間は、通常モードでベータは1時間、VHSは2時間。後に登場した3倍速録画ではベータ3時間、VHSは6時間の録画が可能でした。
 これが1つの決め手となり、家庭用VTRの規格統一競争ではVHS陣営が勝利したのです。

 この話をすると驚かれるのですが、実はベータもVHSも基本特許はともにソニーのものです。VHS方式の基本特許がソニーのものだと知っている人はほとんどいないでしょう。機能性と操作性の良さから、ソニーの首脳陣はベータ方式を選んだのです。
 従って、他社製VHSが売れるたびに、ソニーには百億円単位の特許料収入が入っていたのです。
 VTRの規格統一をめぐる争いではVHS陣営が勝利しましたが、その裏にはこんなこともあったのです。

 家庭用VTRではVHSの後塵を拝したベータでしたが、一方で圧倒的な存在感を示したジャンルもあります。報道です。
 ベータ方式を高密度記録方式にした業務用の画期的なカメラ一体型ビデオベータカムコーダーBVW-1(通称ベーカム)。ソニーから発売されたベーカムの登場は、世界中の放送局で使われるENG(Electronic News Gatheringの略。直訳すると電子的ニュース取材であり、「フィルムを用いない」ニュース映像取材を指す。VTR一体型ビデオカメラの登場で飛躍的に進歩した。)独占モデルとなったのです。
 ベーカムを使うことでニュース取材は圧倒的にスピードアップしました。とくにべーカムを使ったベトナム戦争の実態スクープ映像は、アメリカ社会に戦場の実際を生々しく伝え、平和運動を巻き起こしてベトナム戦争の終結を早めたとされています。
 なぜ、ベーカムは画期的だったのか。それは、これまでENG機材として使われていたUマチックは、アウトドアでの取材はビデオデッキに1人、カメラに1人と最低2人の人員を必要としていました。しかしベーカムはマイクもセットできるため、カメラマン1人で取材できる高い機動力を持っていたからです。
 日本では、1982年の長崎大水害の取材不足を機に、NHKが全国の放送局に採用したと聞いています。

 ソニーはこのビデオの規格統一失敗の反省から、あとに登場するや8ミリビデオ、CDプレーヤー、DVDなど映像や音声のフォーマットの世界規格統一を念頭に置いて、商品開発に邁進して行くのです。

 その後、ソニーは本業のエレクトロニクスのほかに映画、ゲーム機、パソコン、銀行、生命保険、損保、エレクトロニクス、金融とさまざまな分野に大きく飛躍して行きます。もちろん、一時的に経営が低迷したこともありますが。
 そして皮肉な事に、VHSに固執し過ぎたビクターは、CDの発売以降はデジタルへの移行という世相に追いつけないどころか、デジタル化の流れに乗ろうともしなかったのです。最終的にはケンウッドとの経営統合でJVCケンウッドとして存続することになりました。
 成功体験が失敗要因になる典型的パターンになったのです。

(了)
【池田 友行】

参考資料:ソニー(株)発行『源流』 社内報ソニーファミリー
元ソニーマーケティング(株) 勤務 池田友行

 
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