2024年05月09日( 木 )

日本はどこに向かうのか 対米従属・安倍政権を打破するには(中)

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政治経済学者 植草 一秀 氏

ハゲタカファーストの政策運営

 米国が推進している経済政策戦略を「ワシントン・コンセンサス」と呼ぶことがある。ワシントンに本拠を置く世界銀行、IMF、米国財務省、ホワイトハウスなどが、途上国の経済危機などに際して提示する経済政策パッケージを総称して、経済学者ジョン・ウィリアムソンが1989年に定式化したものである。その主要な柱が、小さな政府=社会保障圧縮、規制撤廃、民営化、市場原理主義である。

 これらの施策は、市場原理が支配する世界統一市場形成を目指すものであると判断できる。市場原理を徹底すれば弱肉強食がより尖鋭化する。弱肉強食での勝者となって利益を極大化させる存在が、グローバルに活動する巨大資本=多国籍企業である。米国の経済政策戦略の基本は、この多国籍企業の利潤極大化、グローバルな弱肉強食社会の構築なのである。

 安倍政権はこの路線をそのまま採用している。その淵源は2001年に発足した小泉純一郎政権に遡るが、12年に発足した第2次安倍政権以降は、この路線がより明確になっている。TPPに対する前のめりの姿勢もこの文脈のなかに位置付けられる。

 農業の自由化は、日本農業の担い手を農家から巨大資本に転換させることを目指すものである。日本農業を収益至上主義が支配することになり、食の安全・安心は破壊され、地産地消、農村の共同体社会も崩壊することになるだろう。グローバル巨大資本は種子の独占を目論んでおり、遺伝子組み換え作物がなし崩しで日本に導入されることになると予想される。

 医療の自由化は医療のGDP拡大を目指すものだが、他方で安倍政権は公的医療支出抑制の方針を明示している。このことは公的支出によらない医療支出増大を意味する。つまり、高額な民間医療保険に加入できる富裕層は十分な医療を受けられるが、公的保険しかもたない一般国民は十分な医療を受けられないという、医療における深刻な格差社会が出現することになる。

 解雇の自由化、労働規制の撤廃は、グローバル巨大資本の最大の要求事項であり、安倍政権は「働き方改革」の名の下に、大資本の要請する労働コストの最小化、労働力の使い捨て化を全面支援している。正規労働から非正規労働への急激な転換推進、外国人労働力の活用、残業代ゼロ制度と呼ばれる出来高払い賃金制度の広範な導入、長時間残業の合法化、そして、解雇の自由化が推進されている。

 グローバル巨大資本の利益極大化を実現するための最重要の施策が労働規制撤廃である。安倍政権は、これを国策として全面推進している。

 民営化は「新しい利権」である。公的に管理してきた事業は基本的に独占事業であり、この事業を民間資本が担えば、リスクフリーで安定収益を確保できることになる。独占事業であるから供給価格を吊り上げることにより独占利潤を確保することも可能になる。すべては、巨大資本の利益極大化。この1点に経済政策の目的が定められているのである。

 さらに、もう1つの柱が法人税減税である。日本の国税収入は消費税が導入された1989年度の54.9兆円から2016年度の55.5兆円まで、ほとんど増加していない。税収規模は27年前と同一なのだ。変化があったのは税収の構成比だけだ。

 1989年度=所得税:21.4兆円、法人税:19.0兆円、消費税:3.3兆円であったものが2016年度=所得税:17.6兆円、法人税:10.3兆円、消費税:17.2兆円になった。つまり、この27年間に生じたことは、所得税が4兆円減り、法人税が9兆円減った一方で、消費税が14兆円増えたという事実だけなのである。

 消費税においては所得ゼロの者と所得100億円の者に同一の税率を適用する。低所得者に過酷で高所得者に優しい税制なのである。所得税は大幅減税が実行されるとともに、高所得者の所得の多くを占める利子配当所得には低率の分離課税が適用されている。

 また、2007年度政府税制調査会報告が不必要とした法人税減税を安倍政権が熱烈に推進している背景に、日本の上場企業外国人持ち株比率が3割を上回っているという現実がある。法人税減税は、グローバルに活動を展開するハゲタカ巨大資本に対する利益供与なのである。

(つづく)

<プロフィール>
植草 一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

 
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