2024年04月29日( 月 )

読者の一人ごと~うたかたの想い

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お酒を愉しむ文化

 寒い時期は魚がうまい。とくに冬の日本海は肴の宝庫。海を肴に飲むならやっぱり日本酒。しかもこのところの日本酒はひところに比べて格段にうまくなっている。「♪お酒はぬるめの燗がいいぃ~」などと歌っているお父さんは良くわかってらっしゃる。やはり酒はぬるめの燗が最高。冷酒だとあの独特のコメの味がしないのである。
 酒は辛口だと仰る向きには申し訳ないが、ズバリお米からつくるのが本来の日本酒だ。もう戦中戦後の三倍増醸の時代ではない。お米だけを使ったお酒を日本酒と定めるべきである。ビールが国民飲料である彼の国も「麦だけ」を定めているし、竹鶴さんが学んだウイスキー国家も余計なモノを入れる事を法律で禁じている。
 であるに日本はどうだ。文化を台無しにして後世に何を伝えようとしているのか。酒飲みとして考えなければならない一大事である。

 日本は稲作を主とした米の文化である。あの炊きたての新米を口に運ぶと、何ともいえないみずみずしさとともに、口に広がる爽やかな甘み。これが酒の原点である。みずみずしいのであって、水っぽいのではない。われわれのDNAに訴えてくる米の甘みなのである。
 柔らかで芳醇なその至極の液体を口に含み、目を閉じて液体が消え行くその瞬間に想いを巡らす。そうすると秋の日の太陽をいっぱいに浴びた黄金の稲穂が、風に棚引いて大きくゆーらゆらと揺らめく光景。刈り入れを迎え夕陽を浴び、大空を背景に立つ麦わら帽を被った主の姿。そんな姿が想像できるだろうか。
 われわれ酒飲みはそのお天道さまの恵みをいただくこと、あたたかな光を感じること。それが重要なのである。なぜならそれらを凝縮したものが日本酒であるから。酒が甘いか辛いかは問題ではない。つまり米の恵みを感じるか、太陽の香りを感じるかが重要。そこが良い酒である基本的な条件だと私は思う。良い酒に出会うと「ああ天照大神様」と心の底から万物への感謝の気持ちがわいてくる。まさにお天道様があるおかげなのだ。
 しかし、ここまで唸っていうのも何だが、もともと小生は酒が好きで酒を飲むのではない。食べるのが好きだから、その食べる食事の方をより鮮やかにするために日本酒をいただく。

 話を戻して冬の日本海。今のこの季節、ああもう堪らない時期だ。とくに今年は記録的に雪が深い北陸辺りは、冬の食材の玉手箱そのもの。今の時期は焼いた「のどぐろ」で決まり。脂の乗りも最高!しっとりと濃厚でふわっとジューシー。ハフハフしながら一献、また一献。「あーまた飲み過ぎてしまう」。
 ちなみにのどぐろは煮てもうまいが、皮を炙った刺し身も最高。それと忘れてはならないのが寒ブリ。冬は丸々と脂が乗ったブリを大きく薄く捌いて、出汁の利いた鍋に潜らせるブリしゃぶがもう最高にうまい。これを唸りながら一献。また一献。あーっ、これはもう海の神と山の神がそろって、まさに目の前で舞を舞っているよう。
 イケない。考えて居るだけ良い気分になってきた。何だか飲まなくても良い気分になるではないか!いかんいかん、酒呑みとしていかん(笑)。

【酒内 蔵太】

 

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