2024年04月29日( 月 )

ネットに負けないリアルの逆襲~蔦屋書店から見る書店の未来(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)

 今から30年前をピークにゆるやかな減少傾向をたどっている全国の書店。当時と比べれば約3分の1まで縮小しているのだが、その背景にはネット通販がある。近年、急成長を見せる国内のeコマース市場に対抗する手段としてリアル店舗の強化を行う企業がある。全国大手のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)だ。

高質スーパーと飲食店 GINZA SIXにも出店

 「六本松421」の1階には、(株)ハローデイが展開する高質スーパー「ボンラパス」が入る。飲食店のほか、惣菜、テイクアウト、パンといった専門店(六本松マルシェ)が立ち並ぶ。医療モールや福岡市科学館といった施設も併設した。隣接地にはJR九州が展開するマンションもある。六本松は学生の街という印象があったが、天神や博多にはない特色ある施設にしたことで、若者でもシニアでも訪れやすい“時間消費型の施設”として認知されることが期待される。

 今年4月20日、(株)大丸松坂屋百貨店が旧・松坂屋銀座店跡地(東京都中央区銀座)に開業した「GINZA SIX」。施設面積4万7,000m2の広大な敷地に巨費を投じ、脱百貨店を掲げてスタートした。
 商業部門のテナントには241店舗が入ったが、運営会社の大丸松坂屋百貨店自身は一切売り場をもたない不動産業の形態を取った。地下3階には能楽・観世流の公演を目的とする観世能楽堂(480席)がある。能のほか、狂言、歌舞伎などの伝統芸能やファッションショーなど幅広い目的に活用される。6階には六本松421にも登場した蔦屋書店が出店。

 同店はアートをテーマにした店舗で、「映画や音楽をTSUTAYAで大衆化したように、アートを大衆化する」との目標を掲げている。写真集などのアート系の書籍を陳列するほか、日本刀などの販売も行う。6mの書架に囲まれた空間はイベントスペースとなっており、盆栽の美として実物の盆栽が展示され、外国人旅行者らに好評とのこと。身近にアートを触れ合える豊かな生活の提案を行っている。今までにない売場の創出により、時間消費型の空間が誕生したといえる。

 また、カルチュア・コンビニエンス・クラブは、広島のイズミがデベロッパーの海と島の博覧会ひろしま跡地(広島市西区)の再開発事業「広島西部SCプロジェクト」へ参画。「GINZA SIX」の開業とほぼ同時期に開業した複合商業施設「LECT(レクト)」にホームセンター「カインズ」とともに出店した。同社は、この施設で「広島T‐SITE」という大型店を出店。蔵書数は約25万冊、食と暮らし、親と子などのテーマに沿った品ぞろえが行われた。スターバックスコーヒーのほか、広島県呉市の老舗茶問屋の日本茶カフェ「田頭茶舗」などが出店。地域に合わせた出店戦略でネット通販に劣らない魅力を発信し続けているといえる。

志免町に昨年オープン 若者の人気スポットに

 福岡では「六本松421」の蔦屋書店のほか、昨年7月にオープンした福岡県志免町の「TSUTAYA BOOK GARAGE福岡志免」は、開業1年半で地域の人気店となっている。同店では、さまざまなジャンルの書籍が、書棚はもちろん木製パレットのうえに書籍が積み上げるかたちで陳列されている。古書43万冊、新刊書籍12万冊の計55万冊で構成された書籍に加え、CD、DVDを含めた雑貨類も充実。さらには敷地内にカフェテリア「Mean’s」が出店するほか、店内には福岡のハニーコーヒーとのコラボ店舗、「国産小麦パン工房FullFull」が新しいコンセプトで展開する「食パンラボ」も出店。記者が店舗を訪れたのは平日の昼間だったが、店舗前の第一駐車場は満車で、店内も多くの来店客で賑わっていた。

 店舗スタッフによると、夜と週末はもっと多いとのこと。「週末は駐車場に車を停められないくらい多い」と地元関係者は語る。店内のカフェでは、購入前の書籍(コミックを除く)を3冊まで読むことができる。もはやただの書店ではなく、小型の複合型商業施設と呼んでも良いくらい集客力のある施設となっている。若者のみならず、ファミリー層にも評判の人気スポットとなっているのもうなずける。

スーパーとのコラボ ネットに対抗する鍵

 24時間いつでも購入でき、他社との価格比較も容易で、かつ自宅まで商品を直接届けてくれるネット通販の普及は、時代の変化とライフスタイルの変化を如実に表しているといえる。これらの変化で押され気味だったリアル店舗だが、リアル店舗には、この業態しかない強みがあることをカルチュア・コンビニエンス・クラブは教えてくれる。店員やスタッフに商品の話を直接聞くことができ、実際に商品を手に取り確認できることに加え、何よりその場で購入できるのは、ネット通販ではできないからだ。これからの時代、リアル店舗が生き残っていくためには、集客力のある小売業同士が共同で出店することでお互いの良さを最大限に引き出すことが重要だろう。

 たとえばスーパーマーケットはその代表格。複合商業施設「六本松421」内には蔦屋書店のほか、高質スーパーのボンラパスが入店している。広島のLECTのT‐SITEにもイズミのゆめ食品館がある。ネット通販に対抗するためには集客力のあるコンテンツの組み合わせが不可欠となる。今後、スーパーマーケットだけでなく、コンビニエンスストアやファミリーレストランなどのさまざまな業態とのコラボレーションもネット通販に対抗するための鍵となる。蔦屋書店の動きは、ネット通販に対抗するリアル店舗が向かうべき姿といえるのかもしれない。

(了)
【矢野 寛之】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:増田 宗昭
所在地:東京都渋谷区南平台町16-17
設 立:1983年3月
資本金:1億円
売上高:(17/3)2,551億4,700万円

 
(中)

関連キーワード

関連記事