2024年04月20日( 土 )

風雲急を告げる朝鮮半島情勢 ハワイに集う日米韓の専門家の分析(後)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

文在寅政権の「新思考」

 I(韓国) 文在寅大統領は2007年からケソン工業団地を通じて太陽政策を推進した人物。かつてのニクソン訪中のごとく、選挙で勝利するために北朝鮮との対話と融和を求めた。アメリカと韓国の同盟をベースに日本や台湾へのアプローチを模索している。外交の弾力性を追求する立場だ。
 中国は北朝鮮への支配を強化しようとしているのだろうか、金正恩は中国の影響力を懸念している。叔父を殺害したのもそのためだろう。もちろん、アメリカの軍事力にも恐れをなしている。また、韓国の文化攻勢(映画、テレビ、音楽)も精神汚染として反発している。
 中国の影響で国内の資本主義的動きが強まることを警戒しているはずだ。なぜなら国内の不安定化要因との受け止めているためである。国際社会による経済制裁の影響は無視できないレベルにまで来ている。今後も制裁強化が最大化すれば国内経済は崩壊するだろう。

 J(韓国) 文大統領は就任10カ月にして、75%近い支持率は例外的な高さである。しかし、南北統一についての見方は世代間格差が大きい。北朝鮮は3代続く世襲制で、これを理解できる韓国人は少ない。非民主的統治体制には韓国の若い世代も反発している。彼らの意識を理解したうえで、民主的な統一国家を提唱する文大統領は長期政権を目指すはずだ。
 彼の武器は「新思考」である。別名、反権威主義ともいえよう。周りのスタッフも同様だ。彼の強みはプロパガンダ戦略が巧みであること。と同時に保守層の取り込みにも成功している。自らの主張を押さえながら、穏健中道派を含む大勢の支持拡大に成果を上げた。ほかの政党や勢力では対抗できない勢いがある。突然のアメリカ訪問でトランプと会談し、当初はアメリカに媚びる姿勢が批判を招いたが、アメリカの力を生かしての対北朝鮮交渉で逆に評価を拡大した。

核放棄と日本の役割

 K(アメリカの元大使) 安倍・トランプの信頼関係は極めて重要だ。トランプ政権は中国、台湾、韓国とも交渉を継続し、多角的な対話のチャンネル作りに腐心している。しかし、韓国への関心が低いのが気になる。FTA(自由貿易協定)、ホストネーションサポートの在り方が米韓同盟の試金石である。日韓関係にも常に暗雲が立ち込める。韓国もアメリカも国内が分裂し、分断国家となりつつあるのが問題だろう。国内的な和解が課題だ。

 L(韓国) 北朝鮮は、韓国、アメリカとの首脳会談の前に交渉カードの手のうちを明かさないだろう。米朝首脳会談も開催の可能性は五分五分だ。ともにトップダウン型の指導者。問題は、米朝首脳会談にこぎつけ、何らかの合意に達したとしても、その内容をトランプが実行できるかどうか。議会の反対などで実行できない場合もあり得る。金正恩は問題なく実行できるだろうが。

 M 非核化に合意した場合の検証方法が重要になる。IAEAの査察は当然だが、加えて、核兵器の廃棄をどう実行するかである。ロシアに移送し、廃棄処理するのが一案だろう。その場合、どうしても時間がかかる。途中で中断の憂き目に会う可能性も出てくる。
 何が起きるか予断を許さないのが現状だ。と同時に、北朝鮮の経済が発展するのかどうか。その点が重要となる。となると、中国の関与が欠かせない。いずれにせよ、予測は難しい。北朝鮮に合意を守ることの見返りをどう保証できるのか。そこが明確にならなければ、北も動かないだろう。結局、元の木阿弥になる恐れもある。その場合、戦争という最悪の結末を避ける知恵が求められる。

 N(日本) 安倍首相のトランプ大統領との首脳会談も金正恩との初の日朝首脳会談も国内政局の影響を受けざるを得ない。森友スキャンダル、財務省の文書改ざん問題の行方など、前途多難である。日本人拉致問題もアメリカ頼みでは進展の望みは薄い。
 日本が主導権を発揮できるとすれば、北朝鮮国内の資源開発であろう。これはロイド・ジョー・ベッシー米海軍大将(パシフィック・フォーラムの創立者、今年2月91歳で死去)の遺言でもある。アメリカ、中国、ロシア、韓国を巻き込んだ資源開発計画で核放棄を促し、経済的自立と繁栄を保証する。北朝鮮に眠るレアメタルなどの資源は7兆ドルともいわれる価値がある。日本には現地調査、試掘のデータがあり、アメリカの鉱山協会がロックフェラー財団の協力で確認した内容と連動させれば、大きな可能性が開かれる。前向きの提案を練り上げるうえで、国際協力を深化させる必要がある。

(了)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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