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2018年08月22日 07:01

「何かがおかしい」地方創生4年目の真実(2)

 国民に大きな衝撃をもたらした『成長を続ける21世紀のために「ストップ少子化・地方元気戦略」』(通称 増田レポート)が出たのは2014年5月8日のことである。このレポートは、日本の地方自治体のうち約半数にあたる896自治体が2040年までに消滅する可能性があるとしている。政府は増田レポート発表の4カ月後の9月3日に「まち・ひと・しごと創生本部」を設置、同年末には「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」「同総合戦略」など政策の方向性を示し、具体的な事業が始まり、現在に至っている。
 しかし、その直後には、有識者の多くから「何かがおかしい!」という声が聞こえ、約4年経った今、さらに多くの違和感が出てきている。最初は青森「人口政策」(人口減少問題の解決)に行くという話だったのに、いつの間にか、切符の行き先が東京「経済政策」(地方よ、もっと稼げ、生産性を上げよ!)に変更されてしまったからだ。それはなぜか。その解明に臨んだ、話題の書「『都市の正義』が地方を壊す」(PHP新書)の著者、山下祐介首都大学東京人文社会学部教授に聞いた。

首都大学東京 人文社会学部教授 山下 祐介 氏

財政力指数は、ふつうの過疎山村と同じレベルの数字

 ――先生はこの4年間、全国の地方創生の現場で、さまざまな方とお話をされてきました。その実感はいかがですか。

 山下 本書でもいくつか事例を挙げて紹介していますが、総じて地方創生の成功例といわれる町でも、実際に現地に入ると、また違った行政職員、住民の声が聞こえてきました。

 たとえば、北海道のニセコ町です。北海道虻田群ニセコ町は、増田レポートを書いた増田寛也著『地方消滅』で、成功例(地域が活きる6モデルの1つ)として、とくに取り上げられている町です。2000年以降、同町のパウダースノーにあこがれて、オーストラリアを始め、各国からスキーヤーが集まり、夏はラフティングでも賑わう、北海道有数の観光地です。年間の観光客数は160万人を超えています。また、若い世代の移住者も集まり、外国人移住者も増えています。

 しかし、私はこの町を訪問、その複雑な事情を知り、大きく印象が変わりました。まず驚愕したのは、財政力指数(基準財政収入額を規準財政重要額で除した数値で、2015年度の全国平均は0.49)が0.25だったことです。これは、ふつうの過疎山村と同じレベルの数字です。つまり、これだけ多くの観光客がきているにもかかわらず、地元にほとんどお金が落ちていないのです。

 観光で生じる経済は、現地までの交通費やホテル・コンドミニアムでの宿泊費用が大部分を占めます。しかし、現地までの移動はもちろん、今や巨大化した観光施設を経営するものの、多くは地元資本ではありません。国内資本でさえなく、海外の資本も多く入り込んでいます。また、観光客も外国人で、かつスキーのできる季節は限られているので、雇用も肝心のところは外から導入されています。

利潤追求の回路が成立すれば外の強力な力が入り込む

 海外の資本が悪いわけではありません。そのような人たちと協力して、地域におカネが落ちる仕組みをしっかりつくる必要があると思っていました。しかし、その私の考えは、同じくスキー観光に沸く隣町・倶知安町を訪れた時、変わりました。そこでは、海外資本によるコンドミニアムの乱開発が始まっていたからです。北海道の自然に似つかわしくないゴテゴテした巨大な建造物が並んでいたのです。店の看板ももはや日本語でなく、景観そのものが異様に見えました。建築規制をめぐって北海道の事情に配慮しないなど、開発文化の違いをめぐるトラブルも後を絶えないと聞きます。

 グローバル化の時代は、利潤追求の回路がいったん成立すれば、地元の意思とは関係なく、それを食い尽くし、すべてをカネに換えねば、すまない強力な力が中央経済界や海外からいくらでも入り込んできます。

国土を守り持続可能な開発へと誘導するのが国の仕事

 本来であれば、その圧力を抑え、国土を守って地域を持続可能な開発へと誘導するのが国の仕事です。しかし、政府は、むしろそうした資本を積極的に導入する政策を展開しています。市町村は、その流れに逆らえません。その流れに完全に乗ってしまえば、地域は取り返しのつかない壊滅的な打撃を受けることはわかっています。しかし、逆らえば、財政的に厳しいなかで、予算を大幅に減らされる可能性もあるようです。国からの予算が下りてこないと、地方の町・村はニッチもサッチもいきません。規制緩和を通じて、際限なく、外国資本や中央経済界を呼び込むという国の方針が、結果的に、頑張る地方の創生を阻害しています。

被災地は草刈り場となり、火事場泥棒も出現している

 ――なるほど、国土を守り、持続可能な開発をしていくことが大事ですね。

 山下 先にお話しした「地方創生」で行われていることと同じ様な構図が、東日本大震災・東京電力福島第一原発事故からの復興でも見られました。被災地復興で味をしめた人々が、今度は「人口減少」「地方消滅」というショックを利用して、事業の矛先を全国の自治体に向け始めたのが「地方創生」といえます。

 被災地復興の代表的な例として、福島原発事故の被害地域で進められている「イノベーション・コースト」があります。イノベーション・コースト構想とは、今後、廃炉を進めていくにあたって、廃炉産業の集積とともに、そこで進めなければならない新技術の確立(とくにロボット技術やエネルギー関連産業)をもって、福島県浜通りの新たな産業の基軸とし、そこに生じた雇用によって帰還する人々が働ける場をつくろうというものです。

 しかし、実態は、この事業は、もともとこの地域にいた人々(被災者・避難者・被害者)のためではなく、新しくこの地に関わる人たちに向けたものになってしまっています。そもそもイノベーションなどは万人が関われるものではありません。事業を特殊なものに選定することで、事業の受益者が限定されます。利益を得るのは、その地域に暮らす人ではなく、中央から相応の技術と能力をもってやってくる人(研究者や技術者)なのです。要するに、こうしたある種の賭けが実現できる場所を求めて、国家と資本が都合の良い場所を探しはじめました。たとえば今問題となっている岩手県一関市の国際プロジェクトILC(国際リニアコライダー)誘致など、まさに被災地が草刈り場となり、火事場泥棒さえ出現している雰囲気だといえると思います。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
山下祐介(やました・ゆうすけ)

 首都大学東京人文社会学部教授。1969年生まれ。九州大学大学院文学研究科博士課程中退。弘前大学准教授などを経て現職。専攻は都市社会学、地域社会学、農村社会学、環境社会学。東北の地方都市と農村の研究を行い、津軽学・白神学にも参加。主な著書に、『限界集落の真実』、『東北発の震災論』、『地方消滅の罠』、『地方創生の正体(金井利之氏と共著』、『「都市の正義」が地方を壊す』(以上、ちくま新書)、『「復興」が奪う地域の未来』(岩波書店)、『リスク・コミュニティ論』(弘文堂)、『白神学1~3巻』(ブナの里白神公社)などがある。

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