2024年04月24日( 水 )

財産管理のための民事信託活用

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超高齢化社会の到来

▲岡本成史弁護士

 2025年には、認知症患者とその予備軍が1,000万人を突破すると予想されています。これは、65歳以上の3人に1人という数字です。契約などの法律行為を行うには、意思能力が必要であり、それを欠いた状態で交わされた契約は無効になります。

 近年、高齢者が不動産を売却する目的で契約したのに、契約を履行する前に、意思能力が低下してしまったり、重病で倒れてしまい、契約の履行ができないケースが増えつつあります。資産はあるのに、認知症などのために、財産を適切に管理することが困難となる世帯が増加し、社会全体で不動産の処分が停滞することもあり得ます。相続対策の前に、生前の財産管理のための「認知症対策」を行わなければならない時代となっています。

成年後見制度の不都合

 認知症などによる判断能力の低下に対処する法制度として、成年後見制度(法定後見と任意後見契約)がありますが、現在、制度が硬直化しており、非常に使いづらくなっています。資産を維持する観点から、親族などが勝手に財産を処分しては困るので、一定の財産の処分には家庭裁判所の許可が必要です。結果として、本人の利益になることであっても、生活のために必要ではない財産の処分や、さらには財産を投資して収益を上げることについて、家庭裁判所は消極的です。余剰資産があったとしても、積極的に有効活用することは困難になり、財産は本人の生活や健康の確保、資産自体を維持するためだけに使うことになります。

 「相続税対策」として、たとえば更地にアパートを建築して財産評価額を下げることや、そのために金融機関からの借入をして債務控除を利用することなどもできなくなります。相続税対策は、将来発生する相続税を減らすための対策ですが、相続税の軽減によって利益を受けるのは相続人であって、被相続人(被後見人)本人ではないからです。

 成年後見制度では、相続税対策や積極的な資産運用などの柔軟な対応ができず、これが成年後見制度の1つの限界といえます。

民事信託制度の活用

 民事信託制度は、本人(委託者)が元気なうちから、資産の運用・処分方針などを決定したうえで、信託契約において信頼できる親族などを受託者として資産を預けることで、その後に委託者の意思能力の低下・喪失などの事情が生じても、信託設定時の委託者の意思を維持・尊重し、信託の目的に従って受託者が引き続き信託財産の管理・処分をする制度です。とはいえ、信託設定だけで、何らかの相続税対策になるわけではありませんので、ご注意ください。

 今後、民事信託を活用する場面が増えていくことが予想されます。ただし、まだまだ法的に未解決な問題点も多いため、法律の専門家である弁護士に相談されることをお薦めいたします。

<プロフィール>
岡本 成史(おかもと・しげふみ)弁護士

岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。福岡県建築紛争審査会会長、経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。

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