種子法廃止の恐怖~国民は巨大種子企業のモルモットに?(1)
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主要農作物種子法(種子法)が2018年3月末、廃止された。廃止法案が審議されていたのは2017年3月の通常国会。テレビも新聞もほとんど報じなかった。しかし、同法廃止により、このままでは農家はグローバル種子企業の奴隷になり、国民はモルモットにされるだろう。
今回から5回シリーズで、種子法の意義と廃止の背景を見ていく。突然の種子法廃止とその影響
種子法は1952年、日本人が生きるうえで欠かせない食糧の種子であるコメ、麦、大豆を安定して供給できるように制定された。これら種子は国が管理して各都道府県に優良な品種を選択、増殖させ、安定して農家に供給することを義務付けてきた。
これによって各県の農業試験場で優良品種の改良が急速に進み、愛知県農業試験場の「日本晴(にっぽんばれ)」、東北地方の冷害に強い青森県農業試験場の「藤坂5、福井県農業試験場で食味のよい「コシヒカリ」などが完成した。
種子法制定の背景に、戦後の厳しい食糧事情があったのは事実だ。しかし、これによって消費者は、おいしく安全で安価な穀物を、当たり前のように食べることができた。近年、コメの1人あたり消費量が落ち込んで生産調整が行われたが、各県はコメの食味をめぐっての差別化、競争を展開するようになった。私たちは冷めてもおいしい弁当や、おにぎりに向いた低アミロースの「ゆきむすび」や「ミルキークイーン」、寿司用のコメなど多様な品種を選ぶことができる。
農水省の農業試験場に長らく勤務した農学博士の西尾敏彦氏の調べによれば、都道府県の奨励品種はうるち米(一般の食用)で263、もち(もち米)で69の合計332種類におよぶ。
種子法のもう1つの重要な役割は、各地で長い間栽培されてきたコメ、麦、大豆の原原種、原種の維持を課してきたこと。コメの自家採取を毎年続けていくと、少しずつ劣化していくことを農家は知っている。良質な種子を育種しなければならないが、それにはかなりの手間とお金が必要で、コメの栽培に専念できない。
これらは専門的な技術をもった農家や農業試験場が行い、品質維持のために人の目でチェックするなど、多くの手間とコストがかかっている。雑草の除去や異株の抜き取りは、炎天下でも手作業で行わなければならない。刈り入れはコンバインを使うが、異種が混入しないよう、機械の部品はすべて解体し、掃除しなければ、次の品種を刈り入れできない。
そして、都道府県は、地域に合った種子計画をつくり、農家に安定供給する責任を負ってきた。こうした種子の生産・普及のため、これまで国は、責任をもって都道府県に予算を投じてきた。しかし、種子法がなくなることで、その根拠は失われてしまった。
種子法が定める措置により、国内で生産されるコメの種子は100%自給してきた。消費者はおいしく安全で安価な穀物を、当たり前のように食べることができた。
ところが2017年4月14日、政府は種子法廃止を閣議決定する。農家、JA、消費者など国民には何も知らされないまま、衆議院ではわずか5時間の審議で議決。参議院では参考人質疑はできたものの、12時間足らずで成立した。理由は、「民間企業の参入を阻害している」というもの。しかし、県によっては、すでに民間品種を奨励品種に認定していた。
種子法廃止は米国が要求してきたもので、農協解体に象徴される農業改革や種子の自家採取禁止の動きと連動している。その背後には、グローバル種子企業が控える。
今回の廃止では、従来通りに予算が確保されるよう求める付帯決議が採択された。廃止されても公的な種子生産は続くと政府は説明しているが、利益を優先する民間企業に任せていけば、いずれ農家は巨大種子企業の言いなりになり、コメの生産をあきらめる農家も増えるだろう。消費者である国民は安全なコメを口にするのが難しくなる。
(つづく)
<プロフィール>
高橋 清隆(たかはし・きよたか)
1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。ローカル新聞記者、公益法人職員などを経て、2005年から反ジャーナリスト。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。YouTubeで「高橋清隆のニュース解説」を配信中。
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