2024年05月08日( 水 )

宮川選手パワハラ騒動における人権問題と法律問題(後)

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青沼隆郎の法律講座 第10回

3:仮処分申請取り下げの効果
 処分の法律関係が純然たる民事司法関係(契約関係)ではないから、被処分者の同意は処分の正当性とは無関係である。とくに、仮処分申請は事案解決の迅速性の要請のための制度であり、当事者が本格的に本訴で争う途を選択し、仮処分手続をしないことも当然ある。
 第三者委員会の結論次第では、処分取消や処分無効の本訴が提起されても当然である。
ただ、弁護人は公法上の法的紛争の本質的関係および争訟手続について十分な知識がない可能性があり、通常の民事訴訟を提起すれば、相当の期間の経過の後、訴えそのものが却下される可能性がある。たとえば、体操協会の監事が本件について適法報告を行い、それを監督官庁が承認(これが行政処分であることには疑いがない)し、本件処分が公法上確定した場合、つまり、行政権の行使として確定すると、行政処分の公定力理論により、いかなる国家機関(当然裁判所も含まれる)もその確定効を争えなくなる。司法権における判決の既判力理論と同じく対世的な不可争力である。
逆に、監事の不正報告に基づき、監督官庁が是正命令を出し、処分が変更され、それが確定した場合にも行政処分の公定力理論による不可争力が発生する。その場合にも民事訴訟は却下される。恐らく、行政事件訴訟法に基づき、行政訴訟として、処分取消や処分無効の訴訟を提起し、監督官庁に訴訟参加を求め、多数当事者の共同訴訟となると思われる。
判例もない領域なので、弁護人の法的力量が問われることになる。

4:将来の展望
 第三者委員会の設置は違法であるが、結論次第では円満解決が実現するかもしれない。 登録コーチの処分が登録選手の練習や鍛錬に事実上の障害とならない程度に変更されれば何の問題もなくなる。そういう意味で、今しばらくは第三者委員会の結論を待つことになる。

(了)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

(10・中)

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