2024年05月06日( 月 )

本庶佑氏、がん免疫療法の研究でノーベル賞受賞~「オプジーボ」これからの課題

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 がんの治療に免疫療法という新たな道を切り拓いた、がん免疫治療薬「オプジーボ」。「オプジーボ」はこれまで治療が難しかった末期がんにも画期的な効果があることがわかっているが、今なお解決の必要な課題が残る。その課題とは、まず「高額な価格による保険制度への負担」、そして「効果のある患者は2~3割」であることだ。

 これまでも、「オプジーボ」の価格が高額なことはたびたび話題に上がっている。「オプジーボ」は発売以来、何度か薬価が引き下げられているが、来月11月1日から適用される新薬価は100mgで約17万円。患者1人あたり1年間で約1,000万円以上におよぶ。

 「オプジーボ」のカギとなるPD-1が発見されたのは1992年。その後、新薬の研究開発や治験などを経て、「オプジーボ」が2014年に小野薬品工業のがん治療薬として承認されるまでにかかった期間は20年以上だ。「オプジーボ」は今までにないタイプのがん治療薬のため、薬価は原価計算方式と呼ばれる新薬の発売までにかかった研究開発などのコストを積み上げる方法で決まる。そのため、「オプジーボ」は実用化されるまでにかかった多額の研究開発や治験などの費用が価格に反映されて、薬価が高額になる。

 「オプジーボ」は病院で処方される薬のため、医療保険の対象となる。そのため、高額療養制度などで患者の自己負担は抑えられているが、患者が一部負担する額を除いた費用は、国民が支払う社会保険料などから成り立っている国の保険制度からまかなわれる。そのため「オプジーボ」は国の保険制度への負担が大きく、年々医療費が増加していく中で、現状の保険制度で今後も高額の薬をまかなっていけるのかということは大きな課題だ。

 また、「オプジーボ」は画期的ながん治療薬だが、効く患者は2~3割といわれる。しかし、なぜ残りのがん患者に「オプジーボ」が効かないのかということは、まだほとんどわかっていない。そのため、今後「オプジーボ」のがんを免疫で治療する仕組みを解き明かしていくことで、「オプジーボ」の治療効果を高めることができると考えられている。

 さらに、人がもっている体質はさまざまなため、同じ病気を同じ薬で治療しても、人によって効果のある人と効果のない人がいる。どのような体質の患者に「オプジーボ」が効くのかが分かれば、効果的な治療に役立てることができるため、「オプジーボ」の治療効果の有無を調べることができる体内の目印「バイオマーカー」の探索が進められている。バイオマーカーとは、血液に含まれるタンパク質や遺伝子などから、病気の程度や治療効果などを知ることができるものだ。近年、医療分野では、同じ病気であれば同じ薬で治療するという従来の方法にとどまらず、個別化医療と呼ばれる、1人ひとりの体質にあわせた医療を行う方向に少しずつ動いている。「オプジーボ」もまさに個別化医療の視点をもって探索を進めるなかで、より効果的な治療法が確立されていくだろう。

 現在、「オプジーボ」の治療効果を高めるため、「オプジーボ」と効果の異なる免疫治療薬を組み合わせた治療法が検討されている。たとえば、「オプジーボ」単体でがんを治療した場合には効果のある患者は2~3割と言われているが、がんの種類によっては「ヤーボイ」と呼ばれるブリストル・マイヤーズスクイブが販売している抗CTLA-4抗体のがん免疫治療薬と組み合わせると、治療効果のある患者の割合は5~6割に高まる。そのため、「オプジーボ」を他のがん治療薬とうまく組み合わせることで、治療効果をさらに高めることができる可能性がある。

 また、「オプジーボ」のカギとなるPD-1に関する免疫は、体内の代謝と深く関わっていることがわかってきたそうだ。そのため、免疫細胞の代謝を活性化することで免疫の力を強めて、「オプジーボ」のがんの治療効果を高める研究が進められている。今後は免疫と代謝を組み合わせた新しい視点により、「オプジーボ」のがん免疫治療の効果がさらに高まることが期待される。

 今なお「オプジーボ」にはいくつかの課題が残っているが、これまでがんの治療は難しいと考えられてきた免疫療法の道を切り拓いた画期的な治療薬として登場して以来、製薬各社はがん免疫治療薬の開発に力を入れており、がん免疫療法の市場は今後さらに拡大すると予想される。

【石井 ゆかり】

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