2024年04月20日( 土 )

【霧島酒造】20期ぶり減収でも生産能力強化 市場低迷加速による寡占化に備える(4)

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霧島酒造(株)

新商品、バーションアップした黒霧島

 黒霧島に代表される霧島酒造は赤霧島や白霧島の主力ブランドのほかにいくつかのクオリティーブランドをもっている。しかし、焼酎に限らず、モノの売れ行きはその価格に大きく左右される。いくら品質が良くても“値ごろ”を外せばその商品は市場から支持されない。価格の高いクオリティーブランドは量的主力にはなり得ないのだ。

 こうしたなかで本年9月、霧島酒造は新しいブランドを市場に投入した。黒霧島の発売開始から20年、未曾有のヒット商品となったその黒霧島をバージョンアップした黒霧島EXだ。EX(イーエックス)とは「特別」という意味である。

 黒霧島をそのまま使った新商品は一見ヒット商品のマイナーチェンジのようにも思われるが、同社は従来品の特長である「うまみ・あまみ・まるみ」と「トロッと・キリッと」をさらに改良した味で売り出した。価格は黒霧島より10%余り高く設定しているがメーカーが自負するようなクオリティのバージョンアップが実現できているなら、この価格は決して高くはない。この商品の出荷構成比が大きくなれば、たとえ自社従来品との“共食い状態”となっても売上の伸びに貢献するかもしれない。ただ、20年にわたるロングセラー商品に新たな価値を加えるというこの作戦がうまくいくかどうかは誰にもわからない。

市場開拓の契機となるか

 好調な販売を続けた霧島酒造が20年ぶりに出荷実績を落とした要因が、市場の変化によるものか競合ブランドの影響によるものかは定かでない。いずれにしてもそうした状況と新工場が生む増産を考慮すると新たな市場開拓は必須だ。本格焼酎メーカーが集中することや1人あたりの消費量が多いこともあり焼酎といえば九州のイメージだが、消費地はもはや全国に広がった。最も大きな市場は関東首都圏であり、焼酎全体の市場の大きさでは東京都、千葉県、埼玉県など人口に比例する。九州ではもちろん福岡県が最大の消費県で、福岡における霧島の認知度は高い。

 関東では連続式蒸留で生産される甲類ブランドが多いこともあり、消費量も甲類が多い。霧島酒造にとって、甲類市場が本格焼酎に取って代わることができるかどうかが今後のさらなる成長のポイントになる。

 本格焼酎の強みは何と言ってもその香りと味わいだ。かつて材料の甘藷由来の独特な香りが敬遠された本格焼酎だったが今や、黒霧島を代表例にメーカーの努力で女性にも支持されるところまで大きく変化した。同じような努力と工夫を新市場への浸透に注げば、その開拓もそう難しいことではないはずだ。

 さらに海外市場への取り組みも今後の課題になる。酒のグローバル化は簡単ではない。ワインにしてもウイスキーにしても我が国に定着するまでそれなりの時間を要した。日本産酒類の海外進出も限られたもの以外は思うような結果は出ていない。醸造酒にしても蒸留酒にしても、それぞれの国や地域に長年培われた馴染みの酒がある。しかし、競争という環境を勝ち抜くには販売エリアの拡大による売上の増加が欠かせない。守りと攻めの経営を上手に組み合わせ、我が国最大の焼酎メーカーに成長した霧島酒造のこれからの戦略がどこに向かうのか楽しみである。

(了)
【神戸 彲】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:江夏 順行
所在地:宮崎県都城市下川東4-28-1
創 業:1916年5月
設 立:2014年3月
資本金:300万円
売上高:(18/3)659億118万円

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)

1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

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