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2018年10月26日 16:00

東京大学吉見俊哉教授に聞く~非日常が『日常化』した現在のアメリカ社会!(1)

東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授 吉見 俊哉 氏

 2016年11月8日の大統領選挙によって、集中力がなく、虚栄心いっぱいで、平気で嘘をつき続ける人物が、選挙で国民に正式に選ばれ、超大国アメリカの頂点に座った。現在のアメリカ社会は「嘘」と「性」と「銃」のトライアングルで、多くの人々の日常感覚が狂わされている。その実態をつぶさに著した『トランプのアメリカに住む』(岩波新書)が今話題である。著者である東京大学大学院情報学環・学際情報学府の吉見俊哉教授兼東京大学出版会理事長は、トランプ政権誕生約6カ月後の2017年8月に渡米、ハーバード大学で教鞭を執り本年6月に帰国した。
 当初の渡米目的は、東京大学で10年近く教育改革に関与してきた経験から「ハーバード大学の教育システムがどのように廻っているのかを体験したい」というものだった。しかし、同時に、もう1つの別次元の目的をもつことになる。「『トランプのアメリカ』は、21世紀初頭の文化批判的な知が、決して避けて通ることのできない試金石の問い」と吉見俊哉先生はいう。それはなぜか。

政権発足当初からアメリカ中を大混乱に落とし入れた

 ――お帰りなさい。本日は日本ではあまり報道されない、肌感覚のアメリカについて色々と教えていただきたいと思います。まずは、渡米してから本年6月にご帰国されるまでのアメリカ社会を俯瞰していただけますか。

東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授
吉見 俊哉 氏

 吉見俊哉氏(以下、吉見) アメリカには、2017年8月の前半に一度行き、諸々の手続きで一時帰国、9月から本格的にアメリカに住み、約1年弱を過ごしました。渡米を決めたのは2016年の春頃です。東京大学で10年近く教育改革に関与してきた経験から、ハーバード大学では、教育システムがどのように廻っているのかを、実際にファカルティ(大学の学部などの教員組織)のなかに入って、内側から観察してみたいと思いました。当時はオバマ政権で次期大統領も民主党のヒラリー・クリントンになると思われていました。

 ところが、その年11月8日の選挙で共和党のトランプが大統領に選ばれました。正直、まったく予想外でした。トランプは選挙期間中から、暴言癖、放言癖が問題となっていました。番狂わせでしたが、アメリカ国民の多くは、さすがにトランプも「大統領になったら態度が変わるだろう」と考えていました。それに、普通は大統領ともなれば任期の最初は大人しくしており、その間にいろいろな仕込みをして、徐々に実行に移すので、難しい問題が発生するのはだいたい1年ほど経った頃です。ところが、トランプは態度が変わらないばかりか、政権発足当初からアメリカ中を大混乱に落とし入れていきました。

 歴代大統領が暗黙裡に前提としてきた常識から大きく逸脱する非常識この上ないトランプ政権が巻き起こす混乱は、アメリカという国が長く隠蔽してきた多くの亀裂や根深い問題を次々に白日の下にさらけ出していきました。渡米前から、そういう混乱のなかのアメリカに行くのだということがはっきりしました。そこで私は、当初の目的に加え、社会学者としてもう1つ、「『トランプのアメリカ』を考えることは、21世紀初頭の文化批判的な知が、避けて通ることのできない試金石の問い」なのだと考え始めました。

私に会うなり“Congratulations”とおっしゃいました

 帰国直前になりますが、ジョン・ダワー先生(アメリカの歴史学者。マサチューセッツ工科大学名誉教授。専攻は日本近代史で、米国における日本占領研究の第一人者)と昼食をご一緒させていただいた時、その判断が大きく間違ってはいなかったと感じました。

 ジョン・ダワー先生は、私に会うなり、一言、“Congratulations”とおっしゃったのです。私は一瞬、「アメリカはこんなひどい状態なのに、どうしてですか?」と問い返しました。しかし、それはトランプがパンドラの箱を次々と開けていくので、「今まで歴代政権が隠し通してきたアメリカの問題点、矛盾が今全部見える」、そんなアメリカに私がいることは、社会学者としてはラッキーだという意味だったのです。

朝から晩まで日本で報道される量をはるかにしのぐトランプネタ

 住み始めてまず感じたのは、現在のアメリカはトランプに関する情報の大洪水だということです。日本でもトランプは「いろいろな問題を発生させて、しょうがない奴だ」という批判的な報道が主流です。しかし、報道の量が圧倒的に違います。アメリカのトランプ報道は津波のようで、“TRUMP” の5文字は日々のニュースに充満しています。

 FOXニュースは、朝から晩までトランプ擁護の報道を繰り返し、一方、CNNを筆頭にABCもNBCも「トランプはこんなにひどい」とトランプ批判の報道を朝から晩まで繰り返します。この種のトランプネタは、あらゆるジャンルの番組におよんでいました。アメリカ人は政治ネタが好きということもあり、日本で報道される量とは比べものにならないのです。そしてトランプ自身も、毎週のように暴言を吐き、次々に困った話題を提供するのです。これがトランプの戦略ですが、批判であれ、擁護であれ、アメリカ国民の頭から“TRUMP”という文字が離れないようになります。つまり、アメリカ中がトランプに巻き込まれ、“Obsession(魔物に取りつかれる)of  Trump”状態となるのです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
吉見 俊哉(よしみ・しゅんや)

 1957年、東京都生まれ。東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授兼東京大学出版会 理事長。同大学副学長、大学総合研究センター長などを歴任。社会学、都市論、メディア論、文化研究を主な専門としつつ、日本におけるカルチュラル・スタディーズの発展で中心的な役割をはたす。2017年9月から2018年6月まで米国ハーバード大学客員教授。著書に『都市のドラマトゥルギー』、『博覧会の政治学』、『親米と反米』、『ポスト戦後社会』、『夢の原子力』、『「文系学部廃止」の衝撃』、『大予言「歴史の尺度」が示す未来』など多数。

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