2024年04月23日( 火 )

日本国民として弾劾する日本相撲協会の違法行為(7)

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青沼隆郎の法律講座 第18回

協会の責任 その1

 高野委員長の八角理事会への最大の貢献は、会員力士の傷害事件に関して発生する協会の法的責任の一切を闇に葬ったことである。会員力士と協会の関係は民法第715条に規定する使用者責任を生ずる関係にある。協会は公益事業目的のため力士と会員契約を締結し、力士は相撲興行などの力士としての行動により、協会に収益をもたらす関係にあるから、明らかに協会と力士の関係は使用者と被使用者の関係にある。また力士は協会と会員契約を締結しているが、純然たる労務提供契約ではなく、従って時間的な拘束を意味する勤務時間の概念が成立しない。これは、力士である限り、24時間、会員契約の効果がおよぶという意味であるから、協会は事前に教育研修などで、会員契約の特殊性と拘束性について説明しておく必要がある。しかし、これはある意味内部関係にすぎず、傷害の被害者から見れば、協会と力士の関係が使用者と被使用者の外観であることに間違いなく、協会は民法715条の但し書きがある免責条件を立証する責任を負うだけである。厳密にいえば、会員契約は私法上の財産契約ではなく、公法上の契約であるが、意思の合致を基本とすることに変わりはない。また、受益者負担の法理にも合致する。法的には民法715条の類推適用とか準用という表現になる。

協会の責任 その2

 公益財団法人は公法人であるから、私人と公務員との区別ができる自然人の場合に比べれば、公務員に相当する。なぜ、このような議論をするかといえば、公務員には法令上、犯罪の告発義務があるからである(刑事訴訟法第239条第2項)。その類推解釈により、公法人は法人の構成員の犯罪行為については告発義務があると解釈される。少なくとも会員の犯罪行為で被害者も会員である場合には刑事手続における証拠収集や証拠保全の意味からも速やかに司法官権に犯罪事実を届け出る義務があると解すべきである。
 本件事件では、その法人の犯罪届出義務の履行は、偶然にも理事である貴乃花親方によって速やかに実行されているから、本件では法人の義務不履行の問題は生じない。
 つまり、貴乃花親方の貴の岩への被害届の勧奨は理事として最善の行為であったと評価できるのであり、その結果、捜査上の理由から、第三者への口外を禁止された結果の「報告義務違反」、法的根拠のない危機管理委員会の「犯罪捜査」への不協力が違法と評価されることはまったく逆理であることが明白である。

協会および国の責任

 協会は会員契約の一方の当事者として力士に対して管理監督権を有する。力士の犯罪行為について民法715条の責任が生じることは前述したが、管理監督権の行使により、事件の発生を防止する義務があり、事件の発生はその義務違反を意味する。これは未成年者とその管理監督権者たる親の責任と類似する。1つの事象に対して異なる法的評価、法律構成が可能であり、外見上、複数の請求権が成立する現象で、講学上「請求権の競合」と呼ばれている。使用者責任の法理的背景には受益者負担の原則があるが、未成年者の親の責任には受益者負担の要素はない。責任の根拠は管理監督権にある。
 この管理監督権を根拠に法的賠償責任が生ずるなら、公益財団法人の管理監督者である所轄庁、すなわち国も賠償責任を負うこととなる。もちろん、無条件に責任を負うことはないが、少なくとも国は免責条件の立証責任を負うことはたしかである。
 薬害訴訟事件で国が共同被告とされる根拠には、医薬品の承認許認可権を国が保有し、医薬品の販売使用に国が管理監督権を有することが責任根拠とされている。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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