微風廣場実業股份有限公司
リテールディビジョン・マネージャー
小森大資 氏
2024年、人口の4分の1相当の600万人(延べ)が訪日した台湾。市中の商店には多くの日本商品があふれ、街中には多くの日本ブランドの飲食店が店を構える。現在台湾で成功している日本ブランドにはどのような特徴があるのか。台湾地場の大型高級SCであり、現在台湾で約10店舗を開発運営する微風廣場実業(ブリーズデベロップメント)で日本関連事業の責任者である小森大資マネージャーに話を聞いた。
台湾最大の繁華街、台北信義の集積
リテールディビジョン・マネージャー
小森大資 氏
──オフィスからは台北のランドマークである「台北101」のほか、多くの百貨店や高層ビルが見えますね。
小森大資氏(以下、小森) ここ信義(信義区)一帯は、台湾最大の繁華街・ビジネス街であり、金融機関、ホテル、商業施設が集積しています。当社(微風/Breeze)の施設も複数あり、他グループや三越なども含めると商業施設だけでも14館が密集しています。これだけの密集が成立していることは、台北市民の購買力の強さをそのまま示していると考えます。さらに欧米系の高級ホテルも増えており、パークハイアットの進出案件やフォーシーズンズの計画もあります。超高層ビルは今後さらに増える見込みで、台北の都市化の一角としての重心がこのエリアに集まってきているのは間違いがなさそうです。
──日系の流通に関して、台北では三越やそごうの看板をよく見かけます。
小森 日本ではとくに地方では百貨店の売上が苦戦しているようですが、台湾では依然として百貨店の存在感が大きいと言われます。理由の1つは、日本では「百貨店」のほか、駅ビル、ファッションビルなど、商業施設の形態が多様であるのと比較し、台湾ではこれらをすべて「百貨」と呼ぶため、事実を正しく表現すれば、百貨店を含む、商業施設の存在が大きい、ということになります。また、実は、日系資本が入っている商業施設はそれほど多くはありません。たとえば、新光三越の資本構成を見ても、日本の三越伊勢丹の持分は2割程度だと言われています。一見日系の店舗に見えても、実態は台湾側が主導するようになってきているのも、台湾のリテールの成熟と言えると思います。SOGOも現在はライセンスのみで、日本資本は入っていません。阪急が提携していた百貨店もありますが、現在は提携を解消しています。2026年現在、日本資本で勢いがあるのは、三井不動産系(「ららぽーと」や「三井アウトレット」)だと思います。
日本と異なる台湾小売
──台湾の小売の特徴をどう見ていますか。
小森 象徴的なのはスーパーの数の少なさです。台湾は全国でスーパーの数が約2,300店程度で、人口規模から見ると少ないです。日本は約2万3,000店ですから、人口は台湾の約6倍ですが、店舗数は約10倍となります。
台湾では伝統的な市場も一般的です。スーパーは高級食材や日配品を売っているハレの場というポジションです。さらに構造的な理由として、日本では、一般的に毎日家でご飯を食べる食文化がありますが、男女の給与格差がほぼない台湾の家庭はほとんどが共働きで、いわゆる主婦が毎日スーパーに行って献立を考えるより、外食のほうが合理的だと思われています。日本はいい意味でも悪い意味でも「専業主婦」が日常消費の主役だった歴史がありますが、これは日本独特なものだと認識するようになりました。
そのほかにも、台湾ではコストコが非常に人気があるのですが、自炊をするにも、食材は週末にまとめ買いし、保存するスタイルが合っているのです。もちろん、時代の変化で、社会の様子も変わり、日本もだんだんそうなってきているように感じていますが・・・。
──コンビニでもファミリーマートなど日系の店舗が多いですが、日本と同じようで違うのでしょうか。
小森 出発点から見ると、台湾のコンビニは暑さとそれにともなう“ドリンク需要”から生まれ発展した歴史があるそうです。日本と異なり自動販売機で飲料を買う習慣がそこまで普及せず、その代わりにコンビニがドリンクスタンドとして広がりました。コンビニでのドリップコーヒー提供の登場も台湾の方が10年ほど日本に先んじています。一方、日本では弁当や惣菜の進化が顕著です。このように出発点が違いますが、現在は、台湾のコンビニでもお弁当や冷凍食品が充実してきていて、日本と台湾のコンビニがだんだん似てきているのも、両国のライフスタイルがお互いに近寄っている面白い現象だと思います。
福岡と台湾をつなぐ
──小森さんは福岡出身ですね。どういう経緯で台湾で仕事を始めたのですか。
小森 現在の会社のオーナーとは、私が学生時代にオーストラリア留学していたころからのご縁があり、18年にお声がけを受けました。個人的にも「海外でチャレンジしてみたい」という思いもあり、チャレンジすることにしました。一方でそれまでキャリアを積んだ福岡とのつながりが途絶えるのは本意ではありませんでした。福岡の方々とは、引き続き関わりをもち、協力できることがあれば連携を続けたいという強い思いがあり、福岡市の企業誘致サポーターも務めさせていただきました。
実際に福岡市側へ台湾企業をご紹介したこともあります。コロナの時期、台湾の玉山銀行(23年に福岡支店開設)とのご縁があったことで、市側にアプローチさせていただきました。当時はオンラインでのやりとりのみで、実感に乏しかったのですが、福岡で同行の社名を見た際はひとり感動して、久々に胸が熱くなりました。
台北にいると、むしろ福岡の「外からの情報」が入るという逆説的な状況もあります。コロナ後は福岡の自治体の方や大手企業の担当者がよくお越しになり、福岡ではなかなか聞けないような話も率直に語っていただくケースがあります。もちろん、時期が来るまでは絶対に公にはしませんが、より俯瞰して福岡を見ることができるようになったのは、予想外のことでした。とくにJASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing=TSMC子会社)が開設してからの動きがとても顕著です。
──セミナーなどの講師として日本企業のアウトバウンド支援を行っていますね。
小森 似ているようで違う台湾の流通や市場構造は、日本にいると分かりにくく、また、数日視察で滞在しただけでは実態を把握できません。その部分を補足するような話をしています。最近では、公的機関からのお声掛けや依頼も増えて、日本産品の台湾輸出セミナーなどでは、より正しく、詳細なお話ができるように、日々勉強が欠かせません。日台の往来が増え、具体的な協力案件が生まれていることを実感しています。
台湾経済の強さと消費
──台湾の景気について現場でどう感じますか。
小森 台湾の景気は良いと実感しています。もちろん、最大の要因は半導体です。台湾は先端半導体製造で世界的に大きなシェアをもつのはご存じの通りだと思いますが、人類の今後の発展に欠かせない戦略物資として世界中が買う構図はさすがという思いで見ています。その結果、経済成長率も高水準で推移しています。
富裕層がより豊かになる一方で、最近は、中間層もたしかに厚くなっています。海外旅行や高級品購入などプチ贅沢な消費も目立ちます。円安で日本人が海外へ出にくくなるなか、台湾人は他国(とくに日本)へ旅行しています。
こうした動きは通貨の強さにも表れています。台湾ドルは私が台湾にきてからの7〜8年で、対円でかなり強くなりました。対米ドルでも強含みの局面があり、「日米金利差」だけでは説明がつかない、ユニークな動きを見せることもあります。
日本企業にとっての台湾市場の独自性
──日本企業にとって、台湾市場の魅力をどう表現しますか。
小森 日本企業から見ると、台湾は(1)すでに成熟している、(2)現在も成長している、(3)翻訳コストがかからない(台湾人は日本への往来が多く、日本文化への関心が高く、積極的に理解する態度がある)――この三拍子がそろっています。これほど恵まれた条件がそろう海外の市場は世界的に珍しいと思います。
とはいえ、見えにくい死角もあります。(1)地政学的リスクとして中国との緊張があり、長期設備投資の際には有事時の回収リスクが挙げられます。(2)人口動態では、台湾でも少子化が深刻化しており、今後10〜20年で高齢化が進み消費行動が変化していくでしょう。(3)地価高騰などによる固定費の上昇です。直営での出店ハードルがさらに上がる可能性があります。
一方で、日本のものだからといって、台湾で即受け入れられるわけではない事例もあります。
たとえば、ロピアはもともと精肉業として出発したスーパーですが、その「肉」の品質という強みが台湾市場に刺さっているように感じています。また、「食のエンターテインメント」という点も訴求しているようです。同じディスカウントストアでも、ドン・キホーテは食品とともに日用雑貨やファッション雑貨のバリエーションが豊富で、台湾の消費者はしっかりと使い分けているようです。
──台湾では吉野家やコメダ珈琲店など、日常的ブランドもよく見かけますが、どのような進出形態でしょうか。
小森 ここ数年で進出した日系ブランドは、現地代理商(代理店)を通したものが過半数を占めます。私の調べでは、件数だけで言えば、約56%が代理商、直営(日本資本の直接投資)は4割強にとどまっています。家賃など固定費の高さや、地政学が影響し、直接投資よりリスクを抑える方式が採用されやすいのですが、一方で、大手資本による、新たな市場を求めた積極的な台湾投資も増えてきているように感じます。
──御社の店舗にはセカンドストリートも出店していますね。
小森 リユース業態は台湾でもファッション文化の大きな潮流の1つとなっています。セカンドストリートは台湾で店舗を拡大しています。当初は「日本の中古が買える」点が特徴でしたが、今では台湾人が服を売り、それを別の台湾人が買い取るという循環が根づいているようです。当社でも「微風南山」など複数館入居しており、知名度向上・多店舗展開の一助になっていると思います(2025年12月に台湾50店目を出店)。
また、ブランド品を扱う高価格帯業態「ラグタグ」のようなかたちも出てきています。CtoC分野ではメルカリが越境ECを通じ、日本の商品を台湾側が購入できるサービスを展開したのは大変興味深い出来事でした。
──反対に台湾で伸びにくい業態はありますか。
小森 日系ドラッグストアが少し伸び悩んでいる印象があります。背景には薬剤師不足があります。台湾ではもともとドラッグストアという商業形態が少なく、薬剤師も病院や薬局に就職するのが一般的なため、ドラッグストア側が薬を販売したくても資格者を配置できず、販売できない時間帯などが発生しやすい構造となっています。その結果、薬よりもシャンプー・化粧品・雑貨が中心のバラエティショップ化する傾向があります。日本人と台湾人の1人あたりのGDPが近づき、ライフスタイルが似てきても、歴史背景や制度の違いで100%日本市場と同じことができないのは、大変興味深いポイントだと言えるでしょう。
日台連携は「対等」が前提に
──今後の日台経済関係をどう見ますか。
小森 かつては台湾側が日本を持ち上げていた時代もありましたが、これからの日台関係は上下ではなく「対等」です。台湾には語学力・国際感覚・意思決定の速さに強みがあり、個人としても優秀な人材が多い。一方、日本のリテール分野にはモノやサービス、組織を精緻につくり込む強みがあります。双方が不足を補い合うことで、日台が1つの経済圏として新しい価値やカルチャーを生み出す可能性があると考えています。
【茅野雅弘】
<プロフィール>
小森大資(こもり・だいすけ)
1972年生まれ、福岡市出身。オーストラリア留学。プランニング秀巧社(現・(株)シティ情報ふくおか)、福岡地所(株)勤務などを経て、2018年より台湾で勤務。グロービス経営大学院にてMBA取得。








