2024年04月29日( 月 )

日本国民として弾劾する日本相撲協会の違法行為(9)

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青沼隆郎の法律講座 第18回

理事の選任

 定款によれば、理事の選任は評議員会の決議による(定款27条)。報道でもおなじみの親方衆の選挙で決定することは定款上には規定されていない。従って、選挙権も被選挙権・立候補資格もすべて選挙に関する法律要件は附属規定のなかにある。
 かかる状況において、マスコミは極めて独自の解釈を報道した。解任された貴乃花親方が当選しても、評議員会は貴乃花親方の理事選任を拒否する可能性がある、と。

 実に馬鹿げた論評である。附属規定を確認すれば、選挙の結果を評議員会はただ追認するだけのものとなっているはずである。もし、附属規定もなく、選挙の結果を評議員会が追認するだけであれば、評議員会の決議そのものが事実上不存在であるから、それこそ定款違反となる。もっとも、規定があれば丸投げしてよいのではなく、親方衆による選挙での理事選任には十分の合理性が認められるから適法なのである。

 なお、財団法人の理事の選任については法には規定が存在しない。それは、社団法人の理事の選任規定(法63条)が準用・読替されていないからである(法197条)。
馬鹿げた官僚のミスではあるが、さすがに定款では法63条の趣旨を踏襲している。

理事の解任

 理事の解任に関する規定は定款も法も同一である。極めて簡単素朴な要件である。
「定款第32条 理事又は監事が、次のいずれかに該当するときは、評議員会の決議によって解任することができる。
 (1)職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき
 (2)心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないとき」

 当然、理事解任決議に関する手続規定としての附属規定が制定されていなければならない。なぜなら協会の理事には3種の職種があるからである。1つは代表理事であり、2つは業務執行理事であり、3つはその他の一般理事である(定款27条2項)。
 それぞれの職務が具体的に示され、それがどの程度の違反や懈怠が解任に値するのかがあらかじめ明示、告知され、かつ、その事実認定手続においては、証拠ならびに、被処分者の弁明機会の付与などが保障されていなければならない。また、処分は書面にて処分理由を付して被処分者に告知されなければならず、かつ、その処分に対する不服申立の方法も教示されなければならない。このように解任業務を遂行することが、法人から権限行使を委任された代理人の「善管注意義務」の具体的内容である。

 とくに証拠については評議員が直接感得する必要があり、評議員以外の第三者の認定や判定は本質的に伝聞証拠であるから、第三者に対する被処分者の反対尋問を経なければ、そもそも証拠能力はないとするのが裁判法の大原則である。これに違反すれば法令違反となる。その意味で評議員会が目的も権限も不明な危機管理委員会の高野委員長の報告―従ってそれ自体が違法証拠―を事実認定の根拠としたことは重大な法令違反である。

 なお、繰り返しになるが、貴乃花親方の理事解任理由は「報告義務違反」と「協力義務違反」とされた。しかし、いかなる内容の報告がなされるべきだったか、いかなる協力行為がなされるべきだったかの具体的理由は一切、示されていない。ただ貴乃花親方がすでに警察の捜査が開始され、捜査上の理由から第三者への他言を禁止されたことから危機管理委員会の調査に応じなかったことがその理由とされた。
 そもそも、危機管理委員会に何の目的と権限があって、刑事事件の捜査権限があるというのか。この根本的法律問題、権限濫用問題がまったく無視されていることが本件事件の本質の1つである。

監事の権利義務

 法令上では監事の権限は極めて強大だが、お友だち関係で監事に就任すれば、それらはすべて画餅となる。理事の不正行為を黙認する監事の不正行為の抑止策は何もない。とくに、監事が唯一の法令上の義務である監督官庁への監査報告書において、理事らの不正を隠蔽した場合の責任は事実上、追及不可能である。虚偽不正の監査報告書の違法性を指摘し、その責任を問う制度が存在しないからである。
 完全な性善説の悪用による法令のザル法化である。通常、事業監査には弁護士が就任する例が多いから、せいぜい、弁護士懲戒請求が、法的に存在する不正弾劾手段である。

 虚偽不正の監査報告書を受け取った監督官庁には、その監査報告書が虚偽不正であると認定する制度的仕組みが存在しない。この実情を考えたとき、貴乃花親方が明確な法令上の根拠がない障壁を乗り越えて告発状を公益等認定委員会に提出したことは、弱者や国民に残された唯一の違法犯罪の弾劾手段として注目に値する。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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