2024年04月20日( 土 )

業界の未来を見つめた新たな水産への挑戦(後)

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(株) 三陽

業界最後発から急成長、今後は東都水産との協業も

 同社は、業界で経験を積んだ現代表の長谷幸一郎氏が、1991年3月に福岡県糟屋郡志免町で三陽商店として創業、翌92年4月に(株)三陽商店として設立した水産物卸売・加工販売会社。老舗や古参の多い水産業界のなかでは、最後発といっても過言ではないだろう。古参の企業ほど幅を利かせている水産業界では、新規参入業者が買参権を取得することは困難を極めており、同社においても創業当初は買参権がなかったことで、市場での直接仕入れができず、同業者からの仕入れを余儀なくされていた。当然、欲しい魚種や数量の確保が困難なうえ、価格も高く買わざるを得ない。何とか仕入れた魚を東京など全国で売り歩いてネットワークの構築に励み、好機をうかがっていた。

 そうしたなか、創業から7年後の98年に福岡市鮮魚市場の買参権を取得。有利な価格で仕入れができるようになり、これまで築いてきたネットワークが一気に開花することになった。とくに2007年4月に現商号に変更して以降は、勢いに乗って相次いで各地の仲買権を取得。同年だけで長崎魚市場、松浦魚市場、佐世保魚市場と3市場を、翌08年には玄海漁協、唐津魚市場の2市場の仲買権を取得、さらに11年には平戸魚市場でも取得するに至っている。九州北西部の基幹魚市場における買い付けネットワークを構築することで、玄界灘の豊かな水産物を武器に、ビジネスの幅をさらに広げていった。

 また、同08年に佐賀県唐津市で(株)マルサンフーズを設立し、唐津工場で「いかしゅうまい」などの水産加工品の製造もスタート。10年には福岡市鮮魚市場の地元仲卸業として(株)魚伸を発足させた。さらに、12年9月に長崎県松浦市で(株)ウエストジャパンフーヅを設立し、13年5月にはグループの不動産管理を担当する(株)サンヨウサービスも設立。現在、5社で三陽グループを形成している。

 さらに同社代表の長谷氏は、17年6月に東証一部上場の水産物卸会社の東都水産(株)(東京都中央区)の取締役にも就任。同社が東都水産の筆頭株主であることからも、今後は東都水産との連携・協業により、さらに幅広い事業展開も見込まれる。

変革期を迎える水産業界で先陣を切って改革・改善

 現在、日本の水産業界では、さまざまな魚種で漁獲量が年々減っているという問題を抱えている。その理由として、そもそもの資源量が減っていることや、海外での魚需要が増加したことにより、他国との競争で獲り負けていることなどが挙げられるが、ほかにも、海外からの輸入品についても他国に買い負けている問題もあり、残念ながら業界としては先細ってきている感がある。

2017年3月に竣工した「松浦第2工場」

 同社ではそうした業界の現状に警鐘を鳴らす一方で、「たとえば流通経路の短縮化などによるコスト削減により、消費者にはより安価で、しかも鮮度の高い商品を届けることが可能になります。また、業界で蔓延する人手不足も、機械化によって解消することもできるでしょう。もっと消費者目線に立ったうえで『水産業界をより良く変えていきたい』という思いのもと、先陣を切って改革・改善に取り組み、業界に一石を投じていけたら、と思います」と、変革の必要性についても声を挙げる。

 そんな同社では、自社での仕事のやりがいについては、「日本の水産業が変革期を迎えているなかで、プレイヤーとしてやっていける面白み」を挙げる。また同業他社の場合、時化による不漁などの影響によって、仕事および収入が非常に不安定なケースも多いというが、広範なネットワークをもつ同社では年間を通じて安定的に仕事を確保。従業員の収益の安定にもつなげている。さらに同社では、水産を通じたさまざまな事業展開を続けており、従業員の活躍の場も豊富だ。

 生産から加工、販売までの一貫体制をさらに充実させることで、収益性の高い水産業の新たなモデルを構築すべく、挑戦を続けている同社。変革期にある業界のなかで、先陣を切って改革・改善に挑み続ける姿勢に、今後も期待したい。

(了)

<COMPANY INFORMATION>
代 表:長谷 幸一郎
所在地:福岡市中央区長浜2-3-6 三陽長浜ビル3F
設 立:1992年4月
資本金:1,000万円
TEL:092-718-7834
URL:http://www.sanyo-jp.com

<プロフィール>
長谷 幸一郎(ながたに・こういちろう)

 1961年生まれ。第一経済大学卒業。業界で経験を積んだ後に独立し、福岡県志免町で三陽商店を創業。92年4月に(株)三陽として法人化し、同社の代表取締役に就任した。

 

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