2024年03月19日( 火 )

3期目の置き土産となるか?実現に向けて進む高島市長の夢・ロープウエー(後)

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高評価の夢の乗り物?

 第2回の開催は、第1回の開催から7カ月が過ぎた8月16日。現場レベルでヤル気がないのか、「早く実現したい」というトップ(高島市長)の意向とは裏腹な、実にスピード感のない展開だ。会議資料によると、この時の会合では、道路空間を立体的に活用した交通システムとして、研究対象を8種類の交通システム(9頁【表Ⅰ】参照)に絞り、国内外の事例を基に比較が行われた。

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 対象となった交通システムのうち、福岡・九州に馴染みのないものを簡単に解説する。ゆりかもめ線(東京都)、六甲アイランド線(兵庫県)などの自動案内軌条式鉄道(AGT)を含む新交通システム、バス専用走行路の両側にガイドウェイを設置し、バスを誘導するガイドウェイバス。HSST(High Speed Surface Transport)は、「リニモ」の愛称で知られる愛知高速交通東部丘陵線のリニアモーターカーなど。ケーブルライナーシャトルは専用の軌道上をワイヤーロープに牽引された車両が走行するシステム。スカイレールは懸垂式のモノレールだ。

 比較事例は、地下鉄7、モノレール5、新交通システム7、ガイドウェイバス1、HSST1、ケーブルライナーシャトル3(すべて海外)、スカイレール1、ロープウエー7(すべて海外)の32事例。これを輸送性、経済性、安全性、WF地区の魅力向上への寄与、構造面の5分野16項目で比べ、◎、〇、△の3段階で評価した。10頁【表Ⅱ】は評価のみを抜き出したもの。弊誌で独自に評価指数を◎が1点、〇が0点、△が-1点として計算したところ、ロープウエーが計6点となり、群を抜いて高く評価されていることがわかる。この通りであれば、ロープウエーは、多くの面で優れた「夢の乗り物」ということができるだろう。

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 もはや、研究対象8種類のなかでは勝負がついた印象を抱くが、その中身を吟味すると、評価基準が操作されているような不審な点が見えてくる。たとえば、輸送能力の比較項目である「ピーク時」(現実的に可能な運航便数による1時間あたりの輸送人数)では、単純に数が多い交通システムの評価が高いのではなく、「求められる輸送力」を1,400~2,000人/h・片方向とし、それに近いものに◎が付けられている(ロープウエーは980~3,200人/h)。さらに、構造面には上下方向(縦断勾配)の比較があり、山岳地の交通機関であるロープウエーは当然トップクラスの能力で◎。福岡市の都心部に勾配があるとは思えないが・・・。

 一方、高島市長がロープウエーを推すポイントの1つであった経済性だが、ロープウエーは1kmあたりの建設費が約10~100億円と幅をもたせており、100億円以下ではスカイレール約50億円、ガイドウェイバス約60億円がある。この項目では、約170~350億円で△とされた地下鉄以外は、みな横ならびで〇評価。さらに、維持管理費の項目だけ、ロープウエーについて「海外事例は不明」とし、国内2事例から約0.1~0.2億円としてガイドウェイバス約0.3億円、HSST約0.4億円もひっくるめて〇評価とした。

 研究会の会議資料は、長所を目立たせる一方で短所を見えにくくする役人技法が施されており、鵜呑みにできない。そもそも交通システムは、◎・〇・△の3段階で単純比較できるものではない。比較が簡単なら、わざわざ学識経験者を呼ぶ必要もない。

 この会合の2カ月後、市長選に関する取材で高島市長は、「景観、輸送力、コスト、それぞれの面で比較しても、圧倒的にロープウエーが優れていると、行政としての検討の結果でも出ている」と力説した。研究会の議事の中身をきちんと見ていないのか、それとも結果(自分の描いたシナリオ)を知っているので見る必要がないのか。

福岡市民の困惑

検討中の走行区間(市資料より)
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 福岡市で検討中の「新たな交通システム」の考えられている走行区間は次の通りだ。まず、JR博多駅とWF地区の福岡サンパレス、国際会議場周辺を結ぶ大博通りの(1)博多―WF約2.0km。そして、WF地区から那の津通り、渡辺通りを通って天神を結ぶ(2)天神―WF約2.0km。(1)の区間では、聖福寺、承天寺、東長寺などの由緒ある寺社仏閣があり、「仏さんを上から見下ろしていいのか?」という疑問もある。また、16年にユネスコ無形文化遺産に登録された「博多祇園山笠」で山笠が通るルートでもある。やろうと思えば、早朝の追い山をロープウエーから見学することができるが、こちらも神事だけに強い反対が起きる可能性がある。

 市担当者によると、研究会は、早ければ来年1月をメドに第3回の会合を開く予定。次回は、評価項目の追加や総合的な観点から議論が行われるという。まだまだ検討段階だが、ロープウエーありきで進められている印象は拭えない。

 「私の夢」としておきながら、具体的な中身がないまま選挙公約に盛り込んだ高島市長。その夢は、市議会で審議する前の議案にもなっていない段階であり、市政関係者からは「市民から疑問の声が寄せられているが、説明しようにも説明できる内容がない。高島氏を支持したことで自分もロープウエーに賛成と思われたらたまらない」という愚痴がこぼれる。高島市長も説明ができないのか、対抗馬の批判にまともな反論をしていない。懸案は交通渋滞解消とするが、技術が目覚ましく進歩し、無人タクシーが走り回る時代になろうとしているなか、少なくとも「安い、早い」だけを理由に導入すべきものではない。

(了)
【山下 康太】

(前)

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