2024年03月29日( 金 )

M&Aを凍結せよ!『プロ経営者』松本氏が、RIZAP・瀬戸社長に突き付けた最後通牒(前)

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 プロ経営者として名高い松本晃氏は、この夏、「結果にコミット」の決めセリフで知られるRIZAPグループの経営に加わった。瀬戸健社長が最も得意とするM&A(合併・買収)に「待った」をかけたから経営陣は大混乱。RIZAPは皮肉にも、三顧の礼で招いた松本氏から筋肉質の企業への転換を迫られることになった。

瀬戸社長を一流の経済人にさせる

 トレーニングジム大手RIZAPグループは2018年5月28日の取引終了後、カルビーの会長兼最高経営責任者(CEO)である松本晃氏を6月24日付で代表取締役兼最高執行責任者(COO)に招くと発表した。創業者である瀬戸健社長は代表取締役社長兼CEOとなる。
 5月29日の株価は、一時、前日に比べ277円高と急伸。終値は16%高の1,987円で、上昇率は全市場ベースで5位だった。翌30日は、2,000円の高値をつけた。「プロ経営者」として知名度の高い松本氏がCOOに就任することが買い材料になった。
 同社は札証アンビシャスに上場しているが、東証一部に鞍替えを狙う。東証一部上場に向けての切り札が、「プロ経営者」松本晃氏のCOOとしての招聘だった。

 松本氏は伊藤忠商事出身。医療機器メーカーのジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の社長を経て09年にカルビーの会長兼CEOに就任。高コスト体質にあえいでいた同社を立て直し、17年3月期まで9期連続で最高益を達成し、売上高は2倍、営業利益は3倍に成長させた。「プロ経営者」のスーパースターだ。3月27日、カルビーが松本氏の退任を発表すると、同社の株価が3,780円から一気に7%近くも下がったほど。
 退任を発表した日、「新たな挑戦の場を求める」と公言したことから、すぐ多数の会社からオファーがあった。そのなかから松本氏が次の舞台として選んだのがRIZAPだった。RIZAPの瀬戸健社長は松本氏に7回も面会して、招聘を承諾してもらったという。三顧の礼ならぬ七顧の礼だ。
 松本氏は、日本経済新聞(6月2日付朝刊)のインタビューで、RIZAPを選んだ理由を、こう語っている。

〈瀬戸健社長に尽きる。(中略)瀬戸君はタイプが違うけど、(ソフトバンク社長の)孫(正義)さんの若いころの雰囲気がある。2人ともじじ殺しだね。とにかくこの人を一流の経営者にしたら面白いと〉。

 プロ経営者、松本氏の「名伯楽」宣言である。

「毎月1社買収」と豪語する瀬戸社長に喝

 RIZAPは「結果にコミットする」トレーニングジムで成長してきたが、近年はアパレルショップのジーンズメイト、フリーペーパーのぱど、サンケイリビング、さらにJリーグの湘南ベルマーレを傘下に収めるなど積極的にM&Aを繰り返してきた。
 瀬戸社長は「毎月10社を資産査定し、平均1社を買収する」と豪語していた。
 松本氏は、グループの実情を見極めようと、買収先の企業を1社ずつ見て回った。百戦錬磨の経営者である松本氏は、現場を見て、どんな企業かすぐに分かった。販売が振るわず、不良在庫を抱えているところが、少なくなかった。
 現場を回った松本氏は、傘下に収めた企業の経営再建が終わらないうちに次なるM&Aを進めようとする方針に違和感を抱く。松本氏がRIZAPに入った6月ごろ、さらにM&Aを進めようと約40社をリストアップし、うち30社超と買収交渉に入っていた。

〈松本が入社後、取締役会に2社の買収案が諮られた。現場を見てきた松本は、そこで言い放った。
「私は買収に反対だ。やりたいならやればよいが、私が反対したことは議事録に明記しておきなさい」
一撃に一同は押し黙った。「松本ショック」の始まりだった。〉(朝日新聞12月12日付朝刊「松本ショック上」より)

松本氏が瀬戸社長に「最後通牒」を突き付ける

 ここから松本氏と瀬戸社長ら経営陣とのバトルが火を吹いた。松本氏は新規のM&Aを全面凍結し、収益を上げられる事業に絞り込むなど体制の再構築を主張した。これに瀬戸氏の意向を汲む経営陣が反発し、激しく対立した。
 10月1日に松本氏は突然、COO職を外れた。代表取締役のまま構造改革担当の専任という肩書きになった。松本氏はハシゴを外され、中二階に棚上げされた。松本氏は猛反撃する。

〈最終的に瀬戸に示された選択肢は3つだった。
これまで通りM&Aを続ける道が1つ。その場合は松本との決別もあり得る。
2つ目はM&Aの規模の縮小。ただ、この戦略は中途半端で、再建を目指す会社の姿勢は伝わりづらい。
3つ目は、「月一件のM&A」というそれまでの方針を180度転換する「新規M&Aの凍結」だった。
瀬戸は結局、3つ目の選択肢を受け入れた。傘下企業の在庫損を計上し、赤字に転落することも同時に決断。業績下方修正の幅が固まったのは、11月13日夜だった。
迎えた決算発表会。「期待を大きく、大きく、裏切る結果となりました」。檀上の瀬戸は今にも泣き出しそうだった。3カ月前に同じ場所で、M&Aを積極的に進めると力強く語ったのとはまるで別人。〉(朝日新聞12月13日付朝刊「松本ショック下」より)

(つづく)
【森村 和男】
 

(後)

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