2024年04月25日( 木 )

M&Aを凍結せよ!『プロ経営者』松本氏が、RIZAP・瀬戸社長に突き付けた最後通牒(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

経営不振会社の買収が利益を生む会計マジック

 「新規M&Aを凍結」という松本氏の進言に瀬戸社長はなかなか首を縦に振らなかった。なぜか。M&Aが「成長と利益の源泉」だったからだ。

 RIZAPグループの18年3月期の連結決算(国際会計基準)は、売上高に当たる売上収益は前期比42.9%増の1,362億円、本業の儲けを示す営業利益は33.1%増の135億円、純利益は20.5%増の92億円。買収につぐ買収で、連結売上収益はたった6年で10倍に急膨張した。
 15年3月期には19社だった連結子会社数は、18年9月中間期では85社まで増加した。うち上場子会社は9社。過去2年にM&Aを行った上場子会社は、女性用体型補整下着のマルコ、生活雑貨のパスポート、ジーンズメイト、呉服の堀田丸正、ゲームソフトのワンダーコーポレーションなど。
 手あたり次第に買収し、グループを急拡大してきた。多様性といえば聞こえはいいが、何でも食らいつく“ダボハゼ商法”そのものだ。買収したのは、いずれも赤字など引き取り手のない企業ばかりである。

 RIZAPグループは、なぜ、経営不振企業ばかり買収してきたのか?
 キーワードは「のれん代」である。のれん代とは、企業の買収で支払った金額と買収先の純資産の差額をいう。同社が採用している国際会計基準では、安く買収した場合は、負ののれん代として一括で利益に計上できる。企業を割高に買収した際に発生する「のれん」を損金として償却するのとは真逆である。RIZAPは、負ののれん代によって利益をかさ上げしてきた。これを割安購入益と呼んでいる。

 18年3月期の全社の営業利益は135億円。このうちM&Aによる割安購入益が74億円。なんと営業利益の54%を占める。負ののれんは利益をもたらす。会計マジックである。
 このことが、瀬戸社長が経営不振企業ばかりを買収してきた理由だ。一時的に会計上は利益が出る。新規M&Aを全面凍結したため、負ののれんを活用した錬金術は使えない。
 RIZAPグループは2019年3月期連結決算(国際会計基準)の業績予想を下方修正した。純損益は、従来予想の159億円の黒字から70億円の赤字に、営業損益は230億円の黒字から33億円の赤字に転落する見通し。売上高に相当する売上収益はM&A効果で前年同期比1.7倍の2,309億円の見込み。
 今回の下方修正にあたり、企業買収を凍結することで、見込んでいた利益の上乗せ分や負ののれんの発生益など約104億円を予想から取り除いた。買収先の再建遅れ(約72億円)や、構造コスト(約84億円)と並ぶ大きな下振れの要因となった。

壊れたおもちゃ箱を修繕せよ

 「おもちゃ箱のような会社だが、いくつか壊れているおもちゃがある。壊れたものは修繕していかないといけない」。

 11月14日の決算発表の席上、松本氏は隣に座る瀬戸社長に言い聞かせるように述べたという。RIZAPに入る前、松本氏は「おもちゃ箱みたいで、面白い」と受け止めていたが、評価は一転。「まるでゴミ箱のようだ」に変わった。
 プロ経営者の松本晃氏は、RIZAPの割安購入益に頼る不透明な利益計上に異議を申し立てた。経費計上の仕方や在庫評価などを、より厳密にしたうえで事業の将来性を判断し直す必要がある。そのなかで将来性が低いとなれば、売却を含めて事業を再編し、グループの構造を再構築すべきと主張した。それによって、黒字としていた企業が次々と赤字になった。

 とくに、問題なのは18年3月に買収したワンダーコーポレーション(東証ジャスダック上場)。わずか半年で32.3億円の営業損失を出した。ワンダー社はゲームソフトや書籍販売の「ワンダーGOO(グー)」や、CD・DVD販売の「新星堂」などを北関東中心に展開。5期連続の最終赤字となり、親会社である北関東が地盤のスーパー・カスミは売却先を模索。経営不振企業ばかり買収しているRIZAPが16億円で買収した。
 RIZAPは得意の割安購入益で、利益を捻り出す算段だったが、その手法が使えなくなり、逆に多額の営業損失を出した。
 RIZAPの減量ジムは好調だ。18年3月期の売上収益は329億円で、19年3月期は前期比50%増の493億円という強気の計画を立てている。ワンダー社の18年3月期の売上高は731億円。減量ジム事業を上回り、グループの主力事業にするつもりだった。だが、多額の損失を出しお荷物となった。瀬戸式M&A商法の誤算である。
 しかも、RIZAPグループは今夏、公募増資と第三者割当増資によって354億円を調達した。好業績予想を下方修正したため、嘘の業績見通しで、株主をだまして資金を調達したとして損害賠償の対象になり得る。瀬戸社長が悲願としてきた東証一部上場は遠のいた。

 松本氏は構造改革を急ぎ、コーポレートガバナンス(企業統治)の確立を目指す。50億円の経費削減や社外取締役の導入を積極的に助言しているという。瀬戸社長が、痛みをともなう筋肉質の企業への転換にいつまで耐えられるか不明だ。「壊れたおもちゃ」の経営トップの猛反発が起きるのは時間の問題だろう。それを見越したかのように、先の朝日新聞の記事によると、松本氏は「僕はショートリリーフ」と公言しているという。
RIZAPグループの本当の危機は、松本氏が瀬戸社長に見切りをつけた時に訪れる。松本氏がいつ辞めるかに関心が集まっている。

(了)
【森村 和男】

(前)

関連記事