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2018年12月18日 09:39

【シシリー島便り】「Gibellina」を訪れて

 シシリーにきて10年以上が経った。毎年夏、日本の実家へ帰る度に、両親が少しずつ老いていく姿を見ると心が痛む。今年の夏は母が手術を行った。また、祖母が亡くなり、自身の老いを感じる年の瀬である。

 シシリーにきた当時、イタリア語もろくに話せず、英語は通じず、何とか日々の生活を送っていた。当時の私をよく知る友人は「とても日本人らしかった」と言う。

 シシリーの人にとっての日本人は、礼儀正しいが、話しかけにくく、何を考えているかわからないというイメージがあるそうだ。シシリー島で日本人に会った場合も、とくに必要なければ、話しかけることはほとんどない。ローマやミラノなどと異なり、「日本人会」などというものも存在しない。
最近では、日本人留学生が少しずつ増えてきているようだ。皆うまくシシリーでの生活を楽しんでいる。

 シシリーは日本人にとって居心地のよい島だと思う。10数年経った現在、シシリーの人に冗談っぽく「随分シシリー人のようになってきたね」といわれる。島に馴染んできた半面、日本人としてのアイデンティティーを消失しつつあるとの危機感に襲われるが、山あり谷ありの経験はバイタリティーを培うと思っている。

 昨日、1968年1月14日にマグニチュード6,4の地震で大きな被害を受けた街の1つ、Gibellinaを訪れた。Gibellinaは地震によって街の80パーセントが崩壊した。市も州も国も助けてくれず、地震による精神的ダメージと経済的問題などで、この街を後にする住民が続出し、街はゴーストタウンと化した。50年が過ぎた今日、住民は最盛期の20,000人から4,000人に減った。
 8人の芸術家、建築家、作家が街を復興させようと、現代アート作品をGibellina に提供した。街の入口では大きな花にも見える星型のオブジェが出迎えてくれる。過去から現代、そして未来への希望の入口のようだ。

 オブジェが空洞になっているのも時間の流れを表現している。新Gibellinaと呼ばれる現在のgibellina市だ。地震で崩壊した部分は現在、cretto di BurriというAlberto Burriが設計した、bianco aquilaという色のセメントで固められている。上空から見ると、それが当時の街を模型のようにあらわしているのが良くわかる。

 高さが2m以上ある壁をセメントで囲み、地震前の街並みをあらわしている。まるで巨大迷路のなかを散歩するような感じだ。何トンもの重さになるセメントを運ぶのに、軍隊も駆り出されたそうだ。

 夏場だと、真っ白なセメントの色が太陽を反射し、照り輝く。夕暮れ時には、なんともいえない郷愁感が漂う。車で約30分弱、山道を走ると、新地区に着く。しかし、Burriはあえて、新地区ではなく、もともとの街があったその場所に“作品”をつくりたがった。

 新地区は町全体が蝶のかたちをしていて、いくつもの大通りが平行に走っている。街全体の規模が人口の割に大きいため、余計に閑散としているように感じる。Ludovico Quaroniの母教会、Pietro Consagraが設計したmeeting会場、そこから脇へ進むと市民広場がある。現代アーティストたちが力を注いだ新しい町並みは、その後の手入れが行き届いていない状態で放置されているかのようで残念に思える。逆に、大変見どころがあるのは街外れに位置する美術館だ。この美術館はOrestiadi財団が管轄し、1996年に前市長のLudovico Corraoによって建てられた。建物は、地元の大地主Di Stefano家の屋敷を改装している。

 入口へと続く中庭には、馬たちが大きな白い山のなかに埋もれていく悲劇を表現した作品が展示され、反対側にある横たわった1頭の馬のブロンズ像とのコントラストが印象的だ。

 展示品は2部にわけられる。復興のために提供された現代アート作品と、アフリカ、スペイン、シシリー各地方の調度品のコレクションだ。芸術家たちは北イタリア出身者がほとんどで、Gibellina市に1カ月ほど滞在し、作品を完成させ、街に貢献した。さらに、トルコの絹、モロッコの結婚衣装、コーランの紙をいれる筒、護身用ナイフなども展示されている。

 これらのコレクションは現美術館館長のEnzo Fiamettaのコンセプトを体現している。芸術作品を通して訪問者に、過去から現在、そして未来の姿を提示しているかのようだ。地震による大きな被害を受け、街は崩壊したが、ギリシャ時代、イスラム時代の発掘品は人々に太古の時代の感動を与えてくれるし、現代アートは人々が受けた傷を癒し、明るい未来への道を切り拓いてくれているかのようだ。

 Gibellinaを訪れ、時間の流れと同時に人の思いが、風景から、作品から感じられた。悩みごとが多い今日この頃だが、元気をもらえた1日だった。
 クリスマスの準備が目前に迫っている。そろそろ子どもたちへのプレゼントの準備をしなければ…。

<プロフィール>
神島 えりな(かみしま・えりな)

2000年上智大学外国語学部ポルトガル語学科を卒業後、東京の旅行会社に就職。約2年半勤めたのち同社を退職、単身イタリアへ。2003年7月、シシリー島パレルモの旅行会社に就職、現在に至る。

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