風のそよぎは賑わいの声に変わる―― 小笹団地再生事業がまちづくりにはたす役割
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2019年01月09日 14:08

風のそよぎは賑わいの声に変わる―― 小笹団地再生事業がまちづくりにはたす役割

緑豊かな丘陵地

完成予想図

 福岡市中央区小笹。同地はかつて竹が生い茂る丘陵地として知られ、風がそよげば竹が鳴るような閑静なエリアだったこともあり、「緑と風のまち」と呼ばれていた。

 小笹エリアが転換点を迎えたのは、高度経済成長期真っ只中の1956年。福岡県住宅供給公社の前身である福岡県住宅協会が、勤労者の住宅不足解消を目的として森林約9haの開発をスタート。40年以上の歳月をかけて54棟・978戸を整備し、県下最大規模の賃貸住宅団地「小笹団地」を誕生させた。

 周辺は、北側には福岡市動植物園や南公園、南側には鴻巣山遊歩道、穴観音(興宗寺)などがあり、都市近郊でありながらも豊かな自然にあふれた、快適で優れた住環境を確保。また、都心部の天神までバスで30分圏内であるほか、かつてはJR筑肥線「小笹駅(83年廃駅)」を利用して中央区・城南区にも通じており、交通アクセスにも優れていた。

 こうした恵まれた立地により、高い人気を博した小笹団地。他団地からの移転入居者も少なくなく、63年時点で約3,000人もの人々が暮らしていた。

先鋭的なデザイン

 優れた住環境だけでなく、小笹団地は当時、先鋭的なデザインでも注目を集めた。なかでも、目を引く集合住宅の造形は、「スターハウス」として有名だ。

 スターハウスとは、1つの階に3つの部屋がY字形に連結し、3つの部屋すべてが「角部屋」となるようにデザインされている住宅のこと。住宅団地において景観にアクセントをつけるために配置されるポイントハウスの一種として、日本住宅公団などにより60年前後に各地の団地で導入された。

 小笹団地では、54棟中11棟がスターハウスとなっており、なかにはスターハウスを連接させた「ダブルスターハウス」も存在。ほかに螺旋階段が設置されたV字型の集合住宅もあるなど、バラエティに富んでいる。小笹団地内のスターハウスでは、ベランダのつくりや、台所前のスペースを含む設計、備え付けのコンクリート製プランターの存在などが、他エリアのスターハウスでは見られない特徴となっている。

 だが、そんなスターハウスも、その先鋭的なデザインから建設コストは決して低くはなく、64年以降は建設されることもなくなった。だが、小笹団地においては地域のランドマークとして、今でも愛着をもつ人は多い。

変わらぬ高い評価

 そんな小笹団地も誕生から半世紀を経て次第に老朽化が進み、随所で経年劣化が目立つようになってきた。そこで福岡県住宅供給公社は2008年、小笹団地の居住者を対象に「入居者意向調査」を実施。その調査結果では、「住み続けたい」「当分の間住み続けたい」と回答した人が約9割にもおよんだ。経年劣化は進むものの、住環境としての小笹団地の評価が依然として高いことがうかがえる。

 そして、この結果を受けて本格的にスタートしたのが「小笹団地再生事業」だ。同再生事業では、小笹団地北側(Aブロック)の15棟を解体し、21年までに賃貸マンション「クラシオン小笹山手」を6棟・297戸新築する計画。老朽化への対応ももちろんあるが、第一義は「住みやすい団地の維持」だ。

「多世代交流」を実現

クラシオン小笹山手1番館

 小笹団地再生事業は、3期にわたって計画されている。その試金石となる第1期工事は、設計をINA・Gデザイン・中野JV、施工を(株)西中洲樋口建設が手がけ、16年6月に2棟が竣工した。

 「クラシオン小笹山手1番館(57戸)」は、単身・新婚・ファミリー・高齢世帯それぞれへの配慮がなされ、再生事業のテーマである「多世代交流」を実現した物件となっている。徒歩約2分の場所に「ローソン小笹団地前店」があり生活利便性に優れているほか、近隣に保育園があるなど子育てにも最適。また、管理人常駐の「小笹山手集会場」も設けられ、住民同士の交流促進により地域コミュニティの醸成に一役買っている。さらに、同事業に協賛した介護支援業者、(株)やぐらもん提供のサービス付き高齢者向け住宅(1K)も併設されており、日々の暮らしにゆとりを与えてくれる仕様となっている。

 続く「クラシオン小笹山手2番館(39戸)」では、さらに居心地の良さが追求された。とくに、「高齢者と子育て世帯の交流」「障がい者支援」「高齢単身者向けサービス」の充実が図られている。1階には高齢者向けデイサービス施設「やぐらもん小笹」が入り、食事や入浴などの日常生活面で必要となる補助や、生活機能改善のための支援を実施。1人ひとりの目標に合わせた選択的なサービス(運動器の機能向上、栄養改善、口腔機能の向上、アクティビティなど)の提供も手がけるほか、家事はもちろん、買い物から食事提供までを一貫して代行するなど、高齢単身者向けに多種多様なサービスを用意している。

クラシオン小笹山手2番館

 また、同じく2番館1階では、デイサービス事業を展開する十和グループが「放課後デイサービスとわ中央」を展開している。ここでは就学後(不登校児含む)の障がい児を対象に、放課後だけでなく夏休みなどの長期休暇中の時間を利用して、生活能力向上のための訓練などを実施。自立の促進だけでなく、放課後などの「居場所づくり」の一助となっている。また、特別支援学校へ通う共働き家庭児の学童保育施設としての役割も担っており、必要な各種サービスも提供。さらに、全国的に広がりを見せている子ども食堂である「小笹みんなの食堂」も月2回開催されるなど、子どもたちを社会の一員として包み支え合う支援体制が整えられている。

エネルギー融通の先導事業

 1期工事からバトンを引き継いだ第2期工事では、サステナブル(=持続可能性)が重視された。西日本技術開発(株)の設計と、岩崎・柿原JVによる施工により生み出された環境・経済の両面に優しい未来型集合住宅「クラシオン小笹山手3番館」(96戸)では、賃貸共同住宅における燃料電池を利用したエネルギーの融通の先導事業として、ファミリー向け住戸には燃料電池を、単身・少人数向け住戸には潜熱回収型ガス給湯器を設置。これにより、容量の大きい燃料電池の余剰電力を他の住戸や共用部へ融通することで、さらなるエネルギー効率の良化が図られている。

 もちろん、省エネへの取り組み以外の面でも、3番館には複数の優位性がもたされている。3番館は、計画されている全6棟のなかで最も南側に位置し、日当たりは抜群のうえに、小笹地域が中階層からでも広々と見渡せる好立地。憩いの場としてのポケットパークや、98区画の専用駐車場も設けられている。部屋の種類も多く、高層階にはメゾネットタイプの部屋もあり、多様なライフスタイルに対応した、あらゆる層のニーズに応えられる住空間が用意されている。

住まい以上の付加価値を

クラシオン小笹山手3番館

 第3期工事では、クラシオン小笹山手4~6番館が建設される予定で、2番館の設計も手がけた西日本技術開発(株)と、マンション設計で数多くの実績をもつ(株)雅禧建築設計事務所が共同で設計にあたる。計画されている3棟は5~13階建てで、全103戸の規模になる見込みだ。

 異なる性質のものを尊重し、許容することを旨とする「ダイバーシティ(多様性)」の考え方が世に知られるようになって久しい。小笹団地はその歴史をたどれば、職を求めてやってきた勤労者、あるいは夢を追ってやってきた若者たち―すなわち、外からの流入者を受け入れるために用意された住空間だ。今回の多世代交流に重きを置いた再生事業からは、その原点を踏まえたうえで、現代の価値観に即したより良い住まいを提供しようという意思が感じられる。

 小笹団地内には、老朽化している物件がまだ複数棟残されている。全6棟からなる今回の事業の計画には含まれていないが、将来的にさらなる再生事業を行う際に、たとえば小規模劇場や多目的ホールが併設された住居棟が1棟でもできれば、団地内だけでなく、周辺エリアからの利用や交流促進といった効果も期待できるだろう。そうなれば、単なる集合住宅という枠組みを越えた存在意義が「団地」に付加されることになる。近年、福岡都市圏では「天神ビッグバン」や「ウォーターフロントネクスト」、九大・箱崎キャンパス跡地再開発などの再開発計画が目白押しだが、ここ小笹団地も、福岡のまちに新たな賑わいを創出する「まちづくりプロジェクト」として機能できる可能性をまだまだ秘めているのだ。

【代 源太朗】

【小笹団地再生事業に寄せる思い】

 小笹団地は、1956年から建設が始められた、約1,000戸の住戸を有する当公社最大の団地です。福岡市中央区小笹の丘陵地の南斜面に位置しており、交通の便が良く、近くには多くの生活利便施設も立地し、また福岡市動植物園などの緑地にも恵まれた良好な住宅地です。
 建設当初は、福岡市内でも当時としてはまだ珍しかった鉄筋コンクリート造の建物で、ダイニングキッチンなどの採用により新しいライフスタイルを実現できる住宅であったことから、入居希望者が殺到し、高い応募倍率でした。しかし、建設から60年を経過して建物や設備も老朽化し、空き家も目立つ状況となっていました。
 そこで、2014度より団地の北側エリアにおいて3期にわたる建替え事業に取り組んでおり、現在、第3期事業を進めているところです。建替えにあたっては、多様化する現代のニーズに対応した、子育て世帯から高齢者世帯、単身世帯などあらゆる世代が共生できる住宅を目指しています。
 具体的には、第1期事業では、サービス付き高齢者向け住宅やデイサービス・放課後などデイサービスの事業所を設置し、第2期では、エネファームなどの省エネ機器を導入して入居者間での電力融通を行いました。また、第3期では、メゾネット住戸や眺望の良い住戸、庭付き住戸などを提供する予定です。
 当公社は、60年を越える長きにわたって住み継がれている小笹団地を新しく再生することで、入居者の皆さまが安心して暮らしていけること、さらには同団地が周辺住民の方々とも共存し、良好なまちづくりにも貢献することを心から願っています。

福岡県住宅供給公社 
理事長 松本 悟  氏
専務理事 長谷川 保宏 氏
 

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