• このエントリーをはてなブックマークに追加
2019年01月17日 14:26

映画『人生フルーツ ある建築家と雑木林のものがたり』を観て(前)

大さんのシニアリポート第75回

ドキュメンタリー映画『人生フルーツ』(東海テレビ制作/監督・伏原健之)を観た。主人公の津端修一は建築家である。日本住宅公団(現・UR)創設時の1955年に入社。名作といわれた「多摩平団地」(東京都日野市、1958年竣工)、「赤羽台団地」(東京都北区、1962年竣工)、「高根台団地」(千葉県船橋市、1961年竣工)などの設計に携わった。津端の設計コンセプトは、「明るく開放的で緑あふれた団地」である。団地内にもともとあった木々を残し、さらに植樹をして豊富に緑を盛り込む。そのために建物と建物との間が広く取られ、生活にゆとりをもたせる設計とした。多摩平団地のパンフレットには、「富士の見えるニュータウン・40万坪の街」と記されていた。

 津端は東京大学で丹下健三の教えを受け、卒業後は住宅設計の巨匠・前川國男の紹介でアントニン・レーモンドの事務所に入り、その後、板倉準三の事務所を経て、日本住宅公団の創立メンバーに加わった。

 津端の真骨頂は、前川國男のもとで設計に加わった阿佐ヶ谷住宅(東京都杉並区、1958年竣工)だと思う。地上3・4階建ての鉄筋コンクリート造り(日本住宅公団設計)118戸と、地上2階建てテラスハウスタイプ(補強コンクリートブロック造り)232戸(前川たちが設計担当したのはそのうちの172戸)とでなる。豊富な緑地を配置設計した津端は、この緑地を「コモン(共同の、共有の)スペース」と呼び、「個人のものでもない、かといってパブリックな場所でもない、得体の知れない緑地のようなもの」と評し、「市民たちによる新しい関係性をどのように結ぶことができるか」をテーマにした。

 私も8年前(平成23年)の春にここを訪ねたことがある。建替え計画が進むなか、退去を拒否する住民がわずかだが住んでいた。連棟式の家と家をつなぐ小径は、人1人やっと通ることができるほどの狭さで、すれ違うときには嫌でも挨拶を交わすことになる。家の前にある木々、果樹は各戸の住人が自主的に植えた。キュウリやトマトなどの菜園、花畑も自由につくることができた。「自然、緑をふんだんに取り込み、住民共同で管理する」というコンセプトは、かつて日本のどこにでもあった「村落共同体」を思い出させる。一方で、広場を含めた共有のスペースはおどろくほど広く設けられている。津端が「風土派」と呼ばれるようになったのは、こうした体験が背景にあったと思える。

 「当時、衛生面でも良好とはいいがたかった一般市民の生活。それを、西洋諸国に劣らない水準まで押し上げ、豊かな生活環境を提供すること。そのためのデザインや設備、構造、工法などの追求が、初期の公団に課せられた重要なミッションでした」「当時、戦後最高の技術を見て、それを市民にプレゼントしたいと思って僕は公団に入った」(ブログ/千葉敬介・東京R不動産)と、津端が最終的に一般の建築事務所ではなく公団を選んだ理由をこう述べている。しかし、地方から大都市への急激な人口増加にともなう住宅不足が、津端の理想とする公団建設の理念を打ち砕いていった。

 津端は急激に変貌する東京に見切りをつけ、故郷の愛知県春日井市で建設予定の「高蔵寺ニュータウン」に参加する。団地全体の配置デザインを任された津端は、「団地を建てる前の自然形態を壊さずにそのまま残し、その記憶を住まい手に伝えていこう。『自然と人間の関係を問い直す』」ということを意識して描いた。

 しかし、生まれ故郷でさえ津端の掲げる理想とは大きくかけ離れていった。戸数を増やすために森の木々を伐り、丘を削り、谷を埋め、更地にして建設面積を増やした。住宅公団は、「大量に均質な設計で建物の『標準化』」に拍車をかけた。すべてを標準化することで、住宅の質も時間も金も節約することを可能にした。人が住む住宅を「商品化」することで解決をみた。ここに、世界に名だたる狭小で味気ない「ウサギ小屋」を誕生させたのである。津端は公団を去る。「人間が暮らす住宅」という、未来を見据えた思想は理解されなかった。後日、津端は「できた、できなかったなんていうのは、その時代と僕たちの力関係のなかで決まることで、一時的なことに過ぎないと僕は思う」と述べている。

(つづく)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

     

トップニュース

2019年11月19日 07:00

学生起業の実態を探る~これでいいのか九大起業部(後)NEW!

 起業そのものを否定するつもりはまったくありません。私自身、九州・福岡が大好きなので、起業を通じて地元が盛り上がるなら願ったり叶ったりです。しかし、起業を志す若者にと...

2019年11月19日 07:00

インド市場は本当に魅力的な市場なのか?(後)NEW!

 各国はインド市場で、どのように動いているのだろうか。日本は1980年代からインド市場に関心を寄せて動いていた。進出した企業数はすでに5,000社を超えており、200...

2019年11月19日 07:00

激変!米国コワーキングスペース ニーズが急増し、競争が激化(3)NEW!

 スタートアップ企業がコワーキングスペースを選ぶ基準は、まず事業を成長させるためにいかに場所やサービスを活用できるかだ。販路を拡大して売上を伸ばせること、そしてメンタ...

2019年11月18日 17:25

大麻取締法違反で逮捕の宇美町議員、辞職へ

 福岡県糟屋郡宇美町の現職町議・時任裕史容疑者(42)が大麻取締法違反(譲渡)の疑いで沖縄県警に逮捕されたことを受け、宇美町議会は11月14日、時任容疑者の辞職届を受...

2019年11月18日 17:16

【ふるさと納税】納税者と自治体の感謝祭~第5回ふるさとチョイス大感謝祭

 (株)トラストバンクが主催する「第5回ふるさとチョイス大感謝祭」が16、17日の2日間、パシフィコ横浜(横浜市西区)で開催された。感謝祭は、自治体や地域の事業者・生...

2019年11月18日 17:10

学生起業の実態を探る~これでいいのか九大起業部(前編)

 「サッカー部がサッカーをするがごとく、起業部は学生起業します」――九大起業部は2017年6月に創設された九州大学公認の部活動。専任教員で九州大学准教授・熊野正樹氏が...

2019年11月18日 16:41

【11/20】不動産営業マンのマッチングアプリ・トラジが説明会

 不動産営業マンのマッチングアプリ「TRG(トラジ)」注目されている。今月6日に秋葉原UDX(東京)にてタレント・武田真治氏を起用したテレビCMに関する記者会見を行っ...

2019年11月18日 16:34

【桜疑惑】桜ツアー主催のサンデン旅行に質問書~柚木道義衆院議員が18日午前

 柚木道義衆院議員は18日午前9時ごろ、「桜を見る会」ツアーの主催者とされる「サンデン旅行」(下関市)に質問書を届けた。質問書の内容は5点。桜を見る会ツアーの参加人数...

2019年11月18日 15:22

【福岡市政インサイダー情報】安倍総理の「ソノウソホント」~あるのか?「唐揚げ解散」

 「助けてスガえも~ん!このままじゃ、公職選挙法違反で総理どころか議員を辞めさせられちゃうよ~」「しょうがないなぁ、しんぞー君は。こんなときは……」「ソノウソホント!...

2019年11月18日 14:00

【政界インサイダー情報】「公募」(RFP:Request for Proporsals)とは

 今回はIR実施法案における必須条件、各候補地管轄行政によるIR事業予定者の選抜方式"公募"(通称RFP)について、可能な限り簡略にポイントを説明します。

pagetop