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2019年01月25日 18:04

進化を続ける医療分野におけるIT活用~米ではスマホ診療がすでに実現

医療現場におけるIT活用

1月23日~24日に開催された
「ヘルスケアIT 2019」展

 医療業界で、情報通信技術(ICT)と呼ばれるITを使ったコミュニケーションが進んでいる。背景には、政府が介護分野のロボットや医療データの活用に重点を置いているという事情があり、医療費抑制や介護分野の人手不足解消など、同分野に期待されるものは大きい。

 さらに現在、医薬品や医療機器、医療分野でのAIの開発に向けて、企業が医療情報を入手しやすいよう法規制などの環境整備が進んでいる。一元化された医療情報の有効活用という点でも注目が集まっており、国内の医療情報のビジネス市場は、今後拡大が加速すると予想されている。

 1月23日(水)・24日(木)にUBMジャパン(株)の主催で開催された「ヘルスケアIT 2019」展(会場:東京ビッグサイト)では、中央大学大学院戦略研究科教授・真野俊樹氏が講演を行い、日本と米国の医療分野におけるITC事情を取り上げている。真野教授の講演をまとめた。

医療現場でのIT活用~米では15%がスマホ診療

 人口減少や高齢化が進むなかで、医療の効率化と質を向上する方法として、ITを使った情報共有が注目されている。また近年、医療現場の働き方改革に注目が集まり、長時間勤務に対する医師の意識が変化している。そのため、医療現場でのITを用いたコミュニケーションの効率化や、ロボットが医療業務を代わりに行って生産性を上げるニーズが高まっている。

 今後、日本では人口が大幅に減るため、医療などの生活サービスの確保が難しい地域が増えると予想されている。病院を経営するには、1病院あたり1~5万人程度の人口規模が必要だが、米国やスウェーデンなどの国土が広く人口密度が低い国では、近隣に医療機関がない場所が多い。そのため、米国ではスマートフォンなどのインターネットを使った診療が普及し、すでに全体の約15%を占めるまでになっているという。

在宅見守りシステムで素早い対応を可能に

 一方で、日本では病院を中心に介護施設などの地域コミュニティーでITを用いた医療データの共有が進む。佐賀県鹿島市の社会医療法人祐愛会・織田病院では、退院後のケアに必要な電子カルテの情報を地域で一元化したデータベースとして共有することで、地域の医療機関や介護施設と連携している。病院内の薬剤師、管理栄養士、理学療法士、訪問看護師、介護スタッフなどが連携するメディカル・ベース・キャンプ(MBC)では、患者の電子カルテを一元化して共有し、退院後の在宅患者をケアしてフォローする体制が整う。

 患者宅には、テレビ電話やITを用いた在宅見守りシステムを設置し、MBCでは、大画面モニターにGoogle地図を表示し、患者宅やケアの提供状況が映し出される仕組みによってリアルタイムでチェックしている。たとえば、夏の猛暑時には部屋の温度が上がりすぎていることを察知し、緊急時には在宅看護や介護スタッフが訪問して対応する。ITで患者の状態を共有し、緊急時に素早い対応を可能にする医療と介護の連携システムは、海外では事例が少ない。日本は独自の仕組みを確立しているため、注目されているという。将来的には、医療と介護の連携システムをアジア圏などへ輸出することも可能だと考えられている。

「スマホと通訳を介して海外の病院を受診」の未来図

 米国では、日本のように国が提供する国民皆保険制度がなく、医療費の患者負担が高額になることが社会問題になっている。そのため、患者が積極的に医療データを活用して医療者とコミュニケーションする姿勢が強い。米国でヘルスケアITの事業モデルとして注目されるクリーブランド・クリニックでは、患者は「マイチャート」と呼ばれるシステムを使って、病院や簡易診療所、看護施設と検査結果や薬の情報、アレルギーなどの情報を共有している。患者はスマートフォンで検査結果や健康データなどを管理し、スマートフォンで医師とメッセージのやり取りができるため、近くに病院がない地域でも医師が訪問せずに対応できる。クリーブランド・クリニックでは英語の通訳を活用することで、米国にとどまらずに世界中に患者を広げる構想が進んでいる。

将来は、AIで患者の状態を予測

 米国の医療情報データベースとしては、ニューヨーク州の政府が管理するHEALTHIXがあり、約1,600万人の患者情報が一元化されている。かかりつけ医が患者に同意をとって集めた、レントゲンの画像やアレルギー、薬の履歴、ワクチンの接種情報などを共有し、緊急時の対応に利用されている。緊急時にはかかりつけ医にメールが届くため、患者の詳細を把握した医師が直接対応できるという利点がある。現在は医療情報データベースを基に、AIで患者の状態を前もって予測できるシステムが開発されている。

医療情報データベースの構築は実現するのか

 日本には国民皆保険制度があるため、約1億2,000万人の医療情報データベースを構築することが可能だ。こうしたビッグデータを持つ国はほとんどないため、プライバシー保護に留意する必要はあるものの、国際競争力という視点からは有効活用が期待されている。将来的には医療報酬明細書や特定健診、リハビリ状況などを一元化したデータベースを構築し、健康立国を目指すという。日本はきめ細やかに予測して対応する医療サービスが進んでいるため、医療と介護を連携させる独自の仕組みを活用することが望まれる。

<プロフィール>
石井 ゆかり

みどりの宇宙(株) 経営コンサルタント。筑波大学卒業。京都大学農学研究科修士課程修了。ヘルスケア関連メーカーに勤務後、人の健康と企業の発展に貢献したいという想いから、経営コンサルタントとして中小企業の経営支援を行っている

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