2024年05月05日( 日 )

創造的破壊という積極対応(3)

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エリアを超えた合従連衡

 (株)アークスと中部の雄(株)バローホールディングス、さらに九州・山口の(株)リテールパートナーズが連携を発表した。そのキーマンはアークスの横山清社長だ。2000年以降、北海道内の(株)福原や(株)ふじ、(株)ジョイスや(株)ユニバースといった東北のSMなどを組み込み、5,000億円のグループをつくり上げた。

 横山アークスの理念は八ヶ岳連峰と称する「連峰経営」だ。それぞれが地域と体質に合わせた独自性で店舗を運営し、効率が見込める間接や仕入れ部門を効率化する。一方、グループ企業の地域性に根差した経営手法や企業文化は尊重する。アークスの連峰経営はそれぞれがその頂(自主性)を保持し、山を連ね連峰を形成する。旧ジャスコ(イオン)の「連邦経営」とは参加企業の自主性の程度が違う。横山社長の規模の目安は1兆円。日本の北、中、南でそれぞれ1兆円のグループをつくることでイオンに対抗しようという戦略である。

 連峰の意図するところは我が国の文化独自性にある。日本の旧国の数は琉球を入れて91。藩に至っては280とも290ともいわれる。しかも各地の交流は薄く、気候的にも産物や生活習慣はそれぞれに少なからぬ違いがある。その違いを2000年以上続けての現在である。

 広大な国土に50の州(国)があるアメリカや古くから少なくない交流と戦いを近隣国と繰り広げてきたヨーロッパとはいささか事情が違うのである。そしてその地域的特性は一挙にはなくならない。そういう意味で量と価格だけに偏った商品統合では市場に対応できないのである。

 もう1つの問題は過度なナショナルブランド信仰である。「由らしむべし知らしむべからず」の歴史である。どちらかというと日本人は変化を嫌う。いったん「変化すべき」を自認するとがむしゃらにそれを実行しようとする国民性もあるが、そこに行くまでには相当の時間がかかる。さらに連携・合併という結果に至ったとしても、そこには旧組織それぞれの思惑が残る。苦労して成し遂げた合力が期待通りの結果を出すにはこれら思惑の除去が不可欠だが、その実現は容易ではない。大手企業の襷掛け人事がその好例である。その解消に四半世紀を費やす例さえある。

 しかし、そのような事情があったとしても規模拡大は戦略から外せない。先述した文化の違いや物流という補給の問題で新エリアへの進出は容易ではないものの、守りは戦略になり得ないのである。世界の戦史を見ても籠城を選択して勝利した例は、ほぼ皆無である。籠城を続け、衰耗したところで援軍を名乗る新たな侵略者が現れ、元も子もなくなるのは小売業も同じである。だから、拡大は戦略上捨てられない。

 日本のSMには200、400、600、800、1,000億円という売上の壁がある。それは地域(エリア)の壁といっても良い。とくに600億円を超すと明らかに文化の違う地域(県外)に出ていかざるを得ない。そこで遭遇するのは食文化の違いのみにとどまらず、よそ者という我が国独特の差別環境である。地域文化とは単なる独自性ではない。よそ者の論理としては「我が文化は他地域より優れている」という、いわば理不尽な論理である。それをクリアするには地元企業に比べてはるかに高い、顧客にとっての有利な状況を提供しなければならない。しかし、汎用性が高く、利益率の低い食品でそれを実現するのは容易ではない。だから壁の克服は簡単にはいかないのである。これらの理由で規模拡大による経営上のメリットはなかなか手にしにくい。かつて我が国最大の小売業だった(株)ダイエーがM&Aによる規模拡大に失敗した一因にこのような理由もある。イオンリテールやイトーヨーカ堂が小売部分の利益を思うように出せないのもこのような複雑な要因の解決の難しさを表している。

(つづく)

【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)

1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

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