2024年04月27日( 土 )

沈香する夜~葬儀社・夜間専属員の告白(7)

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 葬儀場には、浄土宗、浄土真宗、真言宗に曹洞宗、天台宗、臨済宗、日蓮宗、それに神道、キリスト教などなど、あらゆる宗派の葬儀に対応できるように道具や装備が整っている。

 夜勤の私は、御遺族から訃報の一報を受けると、御遺族に故人の宗派をお尋ねし、病院から葬儀場に送られてくる故人のお迎えの準備を始める。一報から30分以内には御遺体の宗派にならった装具が整えられるのだ。「さすが冠婚葬祭場」と、勤務する私もそのシステムには感心する。

 あなたは、自身の家系の宗派をご存知だろうか。いざという時、すぐに答えられる人は案外少ないのではないだろうか。

 私自身は無宗教だが、実家は?と尋ねられると「浄土宗だったよな。いや、浄土真宗だったような?えっ西?東?」というように把握していない。法事の度に顔を合わす住職の顔は覚えているのに…。私の場合、思い出せないのではなく、覚えていない。見方を変えれば、今まで宗派などまったく意識することなく過ごせていたということだ。さらに、都会に住む私はお隣さんの宗派も気遣いなく暮らしている。毎朝、顔を合わせ挨拶しているが、何の支障もないのだ。

 しかし、海外では気をつかうことになる。とくにビジネスの為に渡航した場合は相手に失礼にならないように、または自身の身を守る為に意識しなければ危ない目に合う羽目になる。

 どのような目に遭うかは、またの機会に書くことにする。

 たとえば、インドネシアのバリ島に旅行すると、ガネーシャ神を一柱としたヒンドゥー教の観光スポットが多く、街の暮らしのなかにその信仰が強く根付いている。その生活感が、旅行者に「バリ島にきた!」という観光気分をもたらしてくれる。同じ国内でも、首都のジャカルタに行くと、そこはイスラム教の国となり、街中の看板にハラルの文字やラベルが目に飛び込んで来る。

 インドネシアではイスラム教徒が約87%と圧倒的に多く、ヒンドゥー教徒は約2%だとバリ島民の信仰とバリ島に暮らす友人が教えてくれた。

 観光PRなどの影響で、インドネシアといえば「バリ島」というイメージが強かった私は、ジャカルタ滞在時に多少なりともカルチャーショックを受けた。

 ほかの観光地でいえば「ハワイ」、無宗教者の割合は約50%で、観光でもビジネスでもほとんど宗派を意識する場面は少ないと思える。日系三世の知人は理由に「ハワイは日本を始めアジア人の移民が多い」ということを挙げている。

 では、アメリカ本土はどうだろう。私は若いころ、ビジネスで何度か渡米したことがある。

 目的はカナダと国境を接するバーモント州に所在する企業との交渉だ。「おのぼりさん」の私は子どものころからの憧れだった渡米の機会にあえて、憧れのジョン・F・ケネディ国際空港に降り立ち、ニューヨークから目的地までレンタカーを借り、アメリカ縦断を行った。

 マンハッタン島があるニューヨーク市はご存知の通り、アメリカ最大の都市である。ニューヨーク州はとても広く、州都はオールバニで人口も7万人位で、街の自慢は「野球の殿堂」だとバーガーショップの店員が教えてくれた。バーモントに至ってはモーテルから見える木立にリスが普通にいて、のんびりした田舎だ。ちなみに交渉の為の滞在中の昼食は毎日ドーナツかマフィンだった。

 ニューヨーク州はキリスト教が約70%で米国では平均値、バーモント州は国内でも最も宗教色の低い州であるらしい。

 またまた、前置きが長くなったが、自身の宗派も隣人の宗派も意識せずに何のトラブルもなく生活できる日本はとても気楽である。日本国憲法第19条が保証する「精神の自由」のあらわれである。

 私が米国縦断を行ったのは「9.11」の後でパトリオット法が米国で施行された直後頃だったと記憶している。イラク戦争の真っ只中であった。

 国中に「黄色いリボン」が溢れて、街中を走る車にもステッカーが貼られていた。交渉相手企業の社長に「イラク戦争に関して、貴方はどう考える?」と質問した私に社長は周囲を見渡し、小声で耳打ちするように「本音は誰も口にしない」と答えた。

 最近は北朝鮮とアメリカや、韓国における反日運動の話題でもちきりだ。韓国にも何度も行ったが、やはり「本音は誰も口にしない」と現地の仲間が言っていた。

 戦時国家だから当たり前のことだな、日本も戦争中は戦争に反対することはいえなかったと私の祖母も生前語っていた。

 ということは、テレビという巨大メディアで流れる映像や言葉に事実はあっても、真実などないのかもしれないと思いつつ夜を過ごす。

(つづく)

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