2024年04月27日( 土 )

【レオパレス21の施工不備問題】職人座談会 職人が語る現場の事情~問題の裏側に潜むものとは――(3)

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設計段階からの矛盾と工期的な帳尻合わせと

 ――今回のようなケースを引き起こす業界内の問題としては、ほかに何がありますか。

 C お客さんがいて、その要望を聞いた設計士が図面を描くわけですが、私が思うに一番の問題は、その設計士が、お客さんの予算に合わせた図面を描けていないということにあると思います。たとえば、お客さんが1億円しか予算がないのに、こだわって1億5,000万円の図面を描いて、その図面を1億円でできるところを探す――というようなことが、往々にしてあります。もちろん、それでゼネコンとか工務店とかに依頼がきても、普通はできません。そこでよくあるのが、仲が良いところに無理やりやらせるパターンです。もう1つ、裏話としてよくあるのが、「あと5,000万円を追加で金を引っ張り出させるから、とにかく1億円で契約しよう」というような話でGOサインを出すパターンも多くあります。そうして見切り発車してしまい、そのしわ寄せが、最終的には現場まで下りてくるようなケースですね。

 なので私は、そういったような積算をできない設計士が図面を描いているところが、一番の根本的な問題だと思います。

 A 今度の東京オリンピックの新国立競技場が良い例ですよね。最初のザハ・ハディド案はデザインで選ばれたものの、ゼネコンで見積もりを取ったら、結局のところ、とんでもない莫大な金額になってしまったという。おそらく設計士は、予算を言われても、それに合わせた図面を描くということが難しいのでしょう。

 B さらに設計士に関して、我々が現場に入っていて、20~30年前に比べてものすごく変わったなと思うところは、今は図面がない、ということです。昔は、設計士がいろいろなものに対しての施工図というか、天井や床の割り付けとか、しっかりと詳細なものを描いてくれていましたが、今ではそれがありません。たとえば天井とかの照明は電気工事屋さんが描いていたり、それぞれの施工店で描いていたりします。なので、各業者がもっている図面を集めてみたら全然違う、というようなこともよくあります。

 A それはたしかによくありますね(笑)。

 B 一部のしっかりとしたゼネコンなどでは、現場ごとに担当の人がしっかりとした基本になるものを描いて、それを業者にわたしてデータでやり取りして、各々がそれに落とし込んで、などとやっていますが、以前はそれもすべて設計士がしていました。何というか、そのあたりからの問題だと思いますね。今は設計士が基本レイアウトだけ描いたら、そこでもう手放してしまっているという――。

 C いろいろな要素があって、前までは、設計管理をしていたら「総工費の何%」というのが設計士の取り分だったのですが、今は1件につきいくらとかいう決め方をしているところも。そういったところに関しては、基本の図面、外観と内観、内装の平面レイアウトを起こして、あとは展開くらいまでの、大方の基本の図面だけを描いて、そこでおしまい―ではないですけれど、そこから先はゼネコンと工務店のほうでやってくれ、と。

 ――各分野それぞれで、業者側が仕事を取るために「図面はサービスします」などとした結果、ノウハウが分散してしまい、誰も全体像を把握している人がいない、という状況になってしまっていますよね。

 A それに加えて、工期的な問題もあります。違約金などが発生してきますので、工期の“ケツ”はどうやっても動かせません。そのため、最後のほうに入るクロス屋さんなど、そういった業者に、最終的なしわ寄せがいくわけです。当初の工程では1週間くらいあったものが、「すみませんが2日で終わらせてください」となると、かなりの人員を投入するしかありません。ですが、その結果として当初の見積もりでは採算が合わなくなっても、「これで契約しているから、この金額しか出さない」といわれることも“ザラ”です。

 C ゼネコンによっては、初めから契約事項に「追加精算は一切なし」「発注金額で完了させろ」と盛り込まれているケースもあります。そうなると、業者側としては「VE案」(※)として、減らせるところを減らしたりもしますが、それにも限界があります。また、そういったものが表沙汰になったときには、「図面と違う」「手抜き施工」などと言われてしまいますね。

(つづく)
【文・構成:坂田 憲治】

※VE案:「Value Engineering(バリューエンジニアリング)」の略。性能や価値を下げずにコストを抑えること。

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