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2019年03月28日 07:04

爆発的に拡大する再生可能エネルギー、日本は世界から取り残される!(後)

 環境エネルギー政策研究所 所長 飯田 哲也 氏

大変革の3本柱は「太陽光」「風力」「蓄電池」である

 ――世界の再生可能エネルギーの運用実態、価格などについて教えていただけますか。

「Peace On Earth」トークショーにて(日比谷公園)

 飯田 太陽光発電と風力発電は驚異的に安くなっています。わずか5年前は再生可能エネルギーの3本柱である「太陽光」「風力」「蓄電池」(とくに電気自動車EV)がこれほど速く技術革新が進み、価格が下がるとは、専門家も含めて誰も思いませんでした。とりわけ、急速に普及が進んでいるのが太陽光です。太陽光発電のパネルは、5年間で発電コストが約5分の1に下がり、この1年間だけでも3割も下がっています。早い段階からコストの下がっていた陸上の風力発電に加えて、洋上風力発電もこの数年で急速に低コスト化が進んでいます。

インド4円、メキシコ3円、サウジアラビア1円台

 太陽エネルギーの資源の規模は膨大です。「わずか1時間に地表に降り注ぐ太陽光だけで、世界全体で1年間消費しているエネルギー量に匹敵する」と言われています。この膨大な規模の太陽光を電力に換える太陽光発電の価格競争力が高まっています。世界各国における入札売電価格(単位:円/kWh)によると、インドは約4円、メキシコは3円、サウジアラビアでは、最近の入札で1円台になりました。

 ただし、日本の太陽光発電や風力発電は、こうした例に比べると高コストです。これは、日本の建設産業や取引慣行など高コストな国内産業構造、電力会社に支払う連系負担金が大きいこと、そして何よりも、初期にFITの設備認定を得た事業の建設時期が何年か後になっても、その高い買取価格が維持されるという、日本の制度設計の「失敗」があります。とくに太陽光発電は、毎年何割もコストが下がるにもかかわらず、何年も前の買取価格が維持されると、事業者は法外な利益を得ることになり、これは明らかに「レント」(余剰利得)です。また、そうした「権利」が高い価格で売買される闇市場も横行しています。国もこの問題にメスを入れつつあり、また正味の発電コストでは日本もようやく欧米並みに下がってきましたが、いまだにこうした初期の制度設計の失敗による「高コスト負担」が大きな要素を占め、それがすべて消費者負担としてのしかかっています。

 日本は石油など化石燃料を約25兆円輸入しています。これは直接日本のGDPのマイナスになっています。エネルギーの安全対策(自然エネルギーは純国産エネルギー)の観点、地球温暖化を始め、さまざまな環境対策の観点などからも、大胆に再生可能エネルギーに切り替える時がきています。

 日本は30年の長きにわたり、世界の太陽光発電の技術をリードしてきた国の1つでした。

 しかし、現在の技術革新を牽引しているのは中国の企業です。太陽光パネルの最新技術は「PERC」(従来の太陽光はパネルが浴びた太陽光をそのまま電気に変換した。しかし、PERC技術を用いると、パッシベーション膜というのがつくられ、取り入れた太陽光をこの膜に反射させて、さらに発電量を増やすことが可能になった)と呼ばれるものです。しかし、このPERC技術を用いた太陽光パネルをつくれる日本企業は1社もありません。

電気自動車(EV)に背を向けて水素燃料電池に走った世界の孤児

――蓄電池(EV)の変化はいかがでしょうか。

 飯田 日本を除く、米・中・欧で急増する電気自動車EVは、太陽光発電と同じように技術習熟効果のおかげで、過去6年で蓄電池のコストも4分の1に下がり、市場は500倍に拡大し、昨年は世界で200万台を突破しました。

 日本は、ここでも方向を見誤っています。世界は、電気自動車(EV)+自動運転+ライドシェアが統合された「サービスとしての移動」(MaaS)へと急激に移行しようとしています。2018年は、「電気自動車(EV)元年」「MaaS元年」の年でもありました。ところが日本は、国を挙げて、ほぼ世界で唯一、水素燃料電池に走ったために、大きく出遅れました。「EV界のiPhone」と呼ばれるテスラ社の代表イーロン・マスク氏は、燃料電池(フューエル・セル)を揶揄して「馬鹿が売る」(フール・セル)と相手にもしていません。

 2017年にスタンフォード大学のトニー・セバ教授は「これから10年以内に世界中でガソリン・ディーゼル車は一台も売れなくなる」という衝撃的な報告を公表しました。彼が予測するMaaSに移行すると、化石燃料車を所有する今のライフスタイルに比べて、移動コストが一桁下がるため、そもそも誰もクルマを買わなくなる、というのです。単に化石燃料車から電気自動車(EV)に移行するだけでない、産業構造の大変革が自動車産業と石油産業に生じるという予測です。これが生じると、今のスマホと同じような産業秩序、つまり頭脳部分はアメリカ(あるいはひょっとすると中国)が握り、製造はおそらく電気自動車最大手のBVDなど中国が支配すると言っています。そうなると、日本経済の最後の牙城の自動車産業も、大崩壊の恐れがあります。水素などにかまけている余裕は無かったのです。

 また、電気自動車(EV)の普及による蓄電池のコスト低下は、電力産業にも好影響をもたらしました。南オーストラリア州(豪州)は、2016年9月に暴風雨が原因で全域停電しました。このため総額数百億円の対策を講じましたが、その目玉が、世界最大(当時)となるテスラ社の大型蓄電池(100㎿)の設置でした。全域停電の1年後、2017年12月に完成し、このほど、約70億円という初期投資額とこの1年間の運転実績が公表されました。それによれば、この大型蓄電池のおかげで、停電リスクが下がっただけではなく、ガス火力発電が担っていた日常の出力調整も、この蓄電池が担うようになったことで、最初の1年で約30億円も稼いだと伝えられています。わずか2年あまりで初期投資を回収できる見通しです。少し前まで、荒唐無稽と考えられていた大型蓄電池による系統調整が、今や現実のものになりつつあります。

巨大エネルギー源から地方分散型のエネルギー源に

 ――日本のエネルギー政策における課題は何ですか。

 飯田 起きている大きな変化は2つあります。1つは、今までお話申し上げてきたようにエネルギーの中味が、原発や化石燃料から急速に太陽光、風力、蓄電池(EV)の3本柱に変わりつつあるということです。もう1つの大きな変化は、エネルギー産業構造の変換です。従来の大規模集中型の巨大エネルギー体制から、小規模・地域分散ネットワーク型の小型エネルギー体制に移行していきます。この動きをさらに促進するためには、エネルギーを実際に使う多様な人たちや自治体などが協力して、大きな動きをつくっていくことが必要です。

 私が事務総長を務める、地域主導型の自然エネルギー事業に取り組む組織やキーパーソンのネットワークである「全国ご当地エネルギー協会」(2014年5月設立)はその動きを演出しています。小集団におけるモデル的なものが1つできれば、それを見て、10人、100人の人が影響を受け、市民参加型のご当地エネルギーが展開されていきます。設立から約5年経った今、会員団体は50団体を超え、ご当地電力は日本中に広まっています。

未来予測の最善方法は、自らそれをつくり出すこと

 ――時間になりました。最後に、読者にメッセージをいただけますか。

 飯田 「未来を予測する最善の方法は、自らそれをつくり出すことである」という、パーソナルコンピューターの父で、教育者でもあるアラン・ケイ(Alan Key)の名言があります。私たちが今、考えそして学ばなくてはいけないのはまさにこのことだと思います。

 今、エネルギーをめぐって、世界規模で、根底から構造的な変化が起きつつあります。もちろん、グローバル世界の社会全体をつくるのは1人の力ではできません。しかし、そこに読者の皆さまが主体的に関わり、自分たちにとって望ましいモデルにつくり上げていくことは可能です。たとえ、それが小さな地域のささやかなものであったとしても、地域に根差して、日本中で10個、100個とできてくれば、大きな流れをつくり出すことができます。今後、原発や化石燃料から、再生可能な自然エネルギーへの転換というベクトルは変わることはありません。自然エネルギーは、温暖化対策やエネルギー対策として、さらに地域活性化にも中心的な役割をはたすことができます。そればかりか、21世紀に出現した新成長産業として、産業的にも、金融投資的にも、貢献することが期待されています。

(了)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
飯田哲也(いいだ・てつなり)

1959年山口県生まれ。京都大学工学部原子核工学科、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長。日本のFITの起草者で、自然エネルギー政策では、国内外の第一人者かつ日本を代表する社会イノベータ。国内外に豊富なネットワークをもち、REN21運営委員、自然エネルギー100%プラットフォーム理事などを務め、2016年には世界風力エネルギー名誉賞を受賞。日本でも国・自治体の委員を歴任。
著書として、『北欧のエネルギーデモクラシー』(新評論社)、『エネルギー政策のイノベーション』(学芸出版社)、『1億3,000万人の自然エネルギー』(講談社)、『エネルギー進化論』(ちくま新書)など多数。

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