2022年08月18日( 木 )
by データ・マックス

病院をなくすことが患者の意識改革につながる 医者の価値観を患者に押し付けてはならない(後)

東京有明医療大学 保健医療学部鍼灸学科 教授 川島  朗 氏

 ―科学的な判断、エビデンスのある医療を提供するという点ではAIの役割が大きくなることはわかりますが、人との触れ合い、患者に寄り添う心も医療にとっては大事な要素ではないでしょうか。

 川嶋 患者にしてみればそういう思いがあるかもしれませんが、医療サイド、とくに病院経営者はそうは思わないでしょう。AIがあれば人件費の高い医師の数を減らすことができるからです。もちろん、医学全体から見れば、基礎研究やエビデンスを構築するのは人間の役目ですが、患者と向き合う臨床現場では、AIが診断を行い、処置の仕方を医師に伝えるなど、AI中心の医療に変わっていく可能性があります。さらには患者の不安や思い、そういった心の動きまでもAIがディープラーニングで覚えるようになったら人間の役目は終わりです。人間はいらなくなってしまいます。子どもたちはそういう時代に生きることになるかもしれません。医療のあり方ががらりと変わるのです。

 その一方では、エビデンスがないとされるCAMは、AIによってエビデンスが構築されるかもしれません。データが猛スピードで蓄積されていけばCAMも標準医療になる可能性は十分にあります。しかし、患者サイドの医療への“志向”も無視できません。エビデンスの一番高い医療を選択しない患者がいるかもしれません。そこに人間である医師の裁量が問われてくる。医科学の面からいえばAIで事足りてしまいますが、患者が科学的に正しいものを望むかどうかは別問題です。人たるゆえんです。

 標準治療とCAMを組み合わせた統合医療は、あくまで患者の価値観を最優先させる医療です。本来の姿は、「こういう治療をやったらこういう結果が予想されます。しない場合はこういう結果が予想されます。あなたはどちらを選びますか?」と。また、医者は「血圧が高いからクスリを飲んだ方が良いですよ」というべきではありません。「血圧が高いとこういうリスクがありますが、あなたはどうしますか?」と患者に判断を委ねるべきなのです。私は常々、医者の価値観を患者に押し付けるのは統合医療ではあってはならないことだと考えています。

 ―患者が治療法を選択するという点では、医師と患者との間に「情報の非対称性」が存在しますので難しいでしょう。しかも一時ネットで健康情報のフェイクニュースが問題になったように、医療や健康に関する情報が氾濫していますので、何を判断材料にすればよいのか、わからないのではないでしょうか。

 川嶋 サプリメントを例に挙がるとフードファディズム(food faddism)の問題があります。テレビで納豆が良いといえば、翌日にはスーパーから納豆が消えるといった怪奇現象が起こったことは、まだ記憶に新しいことだと思いますが、特定の食品や栄養素を摂取すれば健康になる、痩せる、病気にならないなどといったマスメディア情報を妄信してしまう状況では、とてもヘルスリテラシーが高いとはいえません。

 その一方では、CAMを提供する側に問題がないかといえばそうではありません。日本では「○○でがんが治る」などと非科学的なマニュアル本や広告などを鵜呑みにして被害を受ける消費者、患者は少なくありません。

 CAMの施術者のなかには西洋医学を根拠なしに否定するものや、商業主義で患者の弱みにつけこむものが存在します。気功やヒーリングに代表される、見えないエネルギーを利用したものなどは、CAMのなかでも特異分野といえますが、科学的に解明されていない部分も多く、一流の科学者によって否定的に語られることも多々あります。

 本来であれば医師と患者がじっくり話し合い、納得がいく治療法を選択してもらうことが大事なのですが、今の国民皆保険制度では、患者さんの話をじっくり聞けるほど時間がとれません。とくに大病院だとさまざまな制約があり、理想的な医療とは程遠い状況にあります。その意味では、保険が効かないCAMなどは、そうした制約から解放されるわけですから、より患者主体の医療ができる環境にあります。ただし問題は、先程の患者の「依存する心」です。患者は魔法を求めてきますから、まずはその認識を変えることが重要だと思います。

(了)

<プロフィール>
川島  朗(かわしま・あきら)
東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授。東洋医学研究所付属クリニック自然医療部門医師。医学博士。北海道大学医学部卒業。東京女子医科大学大学院医学研究科修了。

Harvard Medical School&Massachusetts General Hospital留学。東京女子医科大学腎臓病総合医療センター内科&血液浄化療法科講師、准教授、東京女子医科大学附属青山自然医療研究所クリニック所長を経て現職。日本内科学会認定総合内科専門医、日本腎臓学会学術評議員・認定指導医、日本透析医学会認定専門医、日本ホメオパシー医学会理事・認定専門医、日本東方医学会理事・学術委員、日本予防医学会理事、日本抗加齢医学会評議員、日本医工学治療学会評議員、国際生命情報科学会理事、NPO統合医療塾塾頭。

主な著作に「心もからだも『冷え』が万病のもと」(集英社新書)、「58歳からの人にはいえない体の悩み」(講談社)、「病気にならない体をつくるドライヤーお灸」(青山出版社)、「一生毒をためない生活」(永岡書店・文庫)、「『見えない力』で健康になる」(サンマーク出版)、「川嶋流がんにならない食べ方」(小学館101新書)、「代替医療で難病に挑む」(ペガサス)など。

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