2024年05月06日( 月 )

「遊べる温泉都市」別府、交流人口続伸中!(後)

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大手ホテル進出相次ぐ別府温泉

ゲストハウスRojiura

 大江戸温泉物語、星野リゾート、そして、インターコンチネンタルホテルまでが大分県別府市でホテルを開業する。別府温泉に集中する理由は複数ある。1つは、外国人宿泊者数の増加がある。別府市観光課によれば、16年の別府市における外国人宿泊者数は累計34万331人。これは13年(21万2,147人)の60%増となっている。外国人観光客の取り込みが各社の営業戦略になるのは間違いないところだ。

 また、既存ホテルの建物が老朽化、耐震補強の必要性などから、建て替え時期に差しかかっていることも大手進出の背景になっている。かつて温泉観光地として隆盛を極めた別府市だが、湯布院のブランド力に押され観光客は減少していった。近年は持ち直しつつあるが、全館建て替えを行う余裕のあるホテルは数少なかった。

 ほんの数カ月前までは、別府市内ではこれまで多くの宿泊客を収容していた3館のホテルが閉鎖されていた。3館とは、星野リゾートが手がける花菱ホテル、大江戸温泉物語グループとなった別府清風、別府富士観ホテル(すでに解体済み)はいずれも老舗だ。別府清風は7月28日にリニューアルオープンを果たしたが、他2館は再開まで1年以上を要するという。「美湯の宿」両築別邸が6月に耐震リニューアルされたように、今後も建て替えや大型改修で閉館するホテルも出てくる。多くのホテルや旅館は歴史を表す風情を醸すが、同時に事業断念を決断せざるを得ないタイミングに来ている。そこで、旅行客および宿泊客の伸びを示す別府に注目し、進出を決めたのが前述の大手である。

 観光客数は急激ではないが、じわりじわりと増加を続けている。新しい観光施設や商業施設が登場したことにより、一時的に観光客を集める場合もあるが、別府ではそのような話は聞かない。つまり、本来の温泉地・別府の良さが見直されて、観光客が戻りつつあるということだ。そのようななか、注目したいのが、外国人観光客である。15年の外国人宿泊客数は前年比25.4%増と大幅に増加している。この年はとくに、中国からの観光客の増加が顕著で、訪日旅行需要の拡大や円安による割安感の定着、ビザの大幅緩和、消費税免税制度の拡充等が後押ししたようだ。

日本人観光客と外国人観光客を比較すれば、大手ホテルが別府に進出する理由がわかる。15年の日本人観光客は835万人に対し、外国人観光客は43万人。まだまだ日本人観光客が多いが、宿泊する割合は大きく異なる。宿泊した日本人観光客は221万人と約26%。一方、外国人観光客のうち、宿泊客は34万人と観光客数の約79%を占める。今後も外国人観光客数は増加が見込まれ、多くが宿を必要としている。大手なら外国人への認知度も高く、全国ネットワークの活用も可能だ。外資のインターコンチネンタルホテルが、次の進出先として別府を選んだ理由もうなずける。

別府温泉を救った留学生

 別府の日本一は温泉湧出量・源泉数だけではない。もう1つの日本一が人口に占める留学生の割合である。留学生の多い理由は、2000年に開校した「立命館アジア太平洋大学(APU)」の影響が大きい。17月5日現在の総学生数(大学院生等含む)は5,887人だが、そのうち国際学生は2,947人。アジア系が圧倒的多数を占め、トップが「韓国」の517人。以下、「ベトナム」が493人、「中国」が445人、「インドネシア」が362人、「タイ」が273人と続く。

 かつては観光のメッカだった別府が人気を失っていったのには、強力なライバルの存在があった。女性に人気の湯布院温泉だ。日本人団体客を主なターゲットにしていた別府の温泉街は1970年代後半から観光客が減り始め、寂れていった。そこからの再浮上の原動力となったのは、留学生たちだ。彼らが温泉街の通訳や観光ガイドを務めることで、海外、とくにアジアからの観光客が大勢訪れるようになった。外国人観光客は1人当たりの消費額が日本人よりも高い。11年には別府港第4ふ頭が完成。大型クルーズ船が接岸できるようになり、富裕層の姿も増えている。

 別府の街並みの魅力は、昭和の雰囲気だ。温泉街の路地を歩けば、レトロな空間がいくつも点在している。シャッター通りとなっていた商店街の空き店舗を低額で貸し出す施策により、留学生が卒業後に自国の料理店や雑貨店を開いた。韓国、タイ、インドネシア、インド…これらの料理は入湯後の観光客の楽しみの1つにもなっている。また大型宿泊施設だけでなく、古民家を改装した外国人観光客向けゲストハウスも開業されており、ますます国際色が豊かになってきている。

(了)
【代 源太朗】

 
(前)

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