医学部専門予備校「D組」に何が起きたのか(2)現物に酷似した問題PDF
当社の電話取材に対して、医学部専門予備校「D組」を運営する(株)D組代表の高橋俊介氏は、試験問題の漏えいならびにそれを企てたという疑惑を否定した。
だがD組の周辺を取材して判明したいくつかの疑問点は、払しょくされないまま残された。
その1つは、D組が解答速報としてホームページ上に掲載した問題PDFだ。
解答速報に掲載されたテキストデータの問題PDF
大学受験業界では「解答速報」というものがある。各大学の試験日の当日に予備校が模範解答を掲載して受験生が自己採点に利用できるよう提供するものだ。各予備校は講師陣を駆使して、試験問題の分析と解答の作成を行い、速報として掲載する。解答速報は予備校にとって自校の力量をアピールする絶好の機会となっている。
解答速報を作成するには問題用紙を一刻も早く入手しなければならないが、予備校は試験を終えた受験生から問題冊子の提供を受けるなどして入手し、講師陣が分析に利用する。速報で解答とあわせて問題用紙を掲載する場合は、当日はスキャンされた画像PDFを掲載するか、あるいはテキストデータとして掲載する場合は文字起こしされた問題文に大学名などのヘッダーをつけた予備校ごとの書式で掲載される。
D組もホームページで解答速報を掲載していた(※注)。D組の解答速報ページでは、各科目に対して解答PDFと分析PDF、一部では問題PDFも掲載されていた。問題PDFは多くの科目で実際の試験問題をスキャンしたものが掲載されたが、数学の問題PDFだけは独自書式のテキストデータで掲載されていた。これはD組が数学についてほかの大学入試分析企業と提携しデータの提供を受けていたためだと思われる。
※注 D組のホームページは3月14日の夜以降、見ることができなくなっている。
ところが、今回疑惑の対象となっているA大学医学部推薦入試(2024年11月16日実施)の数学の問題PDFだけが、この様式になっていなかった。まるで問題冊子の2ページ目以降をスキャンしたような体裁だが、D組が自社で作成したことを示すロゴが入ったテキストデータである。
当該問題PDFは3月17日正午時点もD組のサーバー上に残されており、下記のアドレスから見ることができる。
https://www.d-gumi.co.jp/wp-content/uploads/2025/07/problem_kurume20241116mat.pdf
※URLおよびPDFファイル名などから大学の特定が可能だが、重要な資料であるためそのまま掲載する。なお、本記事では引き続き『A大学』と表記する。
しかも、このテキストデータのPDFは、試験終了後、極めて早い段階で掲載されたことが分かっている。現在残されている問題PDFはリニューアル後のアドレスになっているが、サイトの過去の状態から問題PDFのプロパティを確認すると、作成された時刻は試験当日の12時39分(試験終了時間は11時30分)、その後、翌17日の7時59分に更新されたが、テキストデータのPDFはすでに試験当日に掲載されていた。
試験問題の実物と照合した結果、目視上は完全一致
当社では試験問題の実物スキャンを入手した。見比べてみると、D組掲載の問題PDFはこの実物スキャンの2、3ページ目とそっくりである。
そこでこの2つを重ね合わせて照合を行った。照合方法としては、D組掲載分を青に着色して下層に置き、実物スキャンは赤に着色し背景を透明にして上層に置いた。D組掲載分と実物スキャンの文字が同じ大きさになるように実物スキャンを拡大した。また、実物スキャンはゆがみがあるため、一度でページ全体を照合することができない。そこで照合結果を5ページに分け、第1~5問をそれぞれ焦点にして位置を調整しながら照合を行った。その結果が次のPDFだ。
ご覧の通り、第1~5問の細部に至るまでよく一致している。もし画像のゆがみが無ければ、目視上は完全に一致するものと判断できる。
この問題PDFと実物の酷似という点について、電話取材時に高橋氏に質問したところ、「解答速報のアップロードは職員に任せているので分からない」としたうえで、「TeXを使えば酷似したテキストデータの作成も十分可能だ」と回答した。
TeX(テフ)とは文書を作成するための組版システムで、とくに数式表現に優れるため、数学や科学系の文書作成で、受験業界に限らず広く世界中で利用されている。
では、高橋氏が主張するように、TeXを利用すれば酷似した問題PDFの作成は可能なのか。実際にTeXを利用する予備校業界の関係者に確認したところ、「酷似したPDFをつくることは、時間をかければ理論的に不可能ではないが、現実的には困難を極め、試験終了後の数時間で作成することは到底不可能」とのことだった。解答速報という時間勝負において、テキストデータで問題PDFを完全再現するなどという作業に労力を費やすことはまるで無意味であり、試験終了後に入手した実物から立ち上げたテキストデータとは考えられない。
このように試験当日に現物に極めて酷似したテキストデータの問題PDFがアップロードされたという事実は、D組あるいは高橋氏が何らかの方法によって事前に試験問題のデータそのものを入手していた可能性が極めて高いことを示している。そしてまさにこのテキストデータPDFが掲載されている当該試験について、高橋氏が説明会見を行ったという事実は、高橋氏自身が「試験問題の漏えい」と「漏えいの企て」を否定しているとはいえ、入学試験の公正な実施に重大な疑義を生じさせるものだ。
一般入試会場でも疑惑が
実は疑惑はこれだけではない。昨年2月に実施された同じくA大学医学部の25年度一般入試(前期日程)においても不審な事態が発生していた。本試験はA大学の本部キャンパスのほか東京にも会場を設けて実施されたが、試験当日、東京会場の外でD組の関係者が受験生たちに対して、「必ず出るからこれだけは聞いていってください」と呼びかけて直前対策に勧誘していたという証言が出ている。D組の関係者は具体的に、「数学で、『球の通過領域』の問題が出る」と話したという。実際、試験では球の通過領域をテーマとする問題が出題された。
この件についても高橋氏に質問したところ、当日、現場でパンフレット配りをしていたことは認めたが、何を話したかは覚えていないとしたうえで、「予想問題はどこの予備校も出していることであり、たまたまそれが当たったに過ぎないのではないか」と回答した。
しかし、業界の関係者に確認したところ、「球の通過領域というテーマは、A大学のみならずほかの医学部でも出題が極めて稀なテーマで、『必ず出る』とアピールして、しかも実際に的中させることは考えられない」とのことだった。
つまり、こちらについても高橋氏が何らかの方法で事前に知り得た試験問題の内容を利用した可能性が考えられる。
以上2つの資料と証言は、D組あるいは高橋氏が、いずれもA大学医学部の25年度の推薦入試と一般入試前期の数学について、事前に試験問題のデータか内容の一部を入手して利用した可能性が高いことを示している。
当社は、入学試験の公正な実施に重大な疑義が生じている本件疑惑について、文科省ならびにA大学に対して質問状を送付した。
続く記事では、その回答内容について検証する。
(つづく)
【寺村朋輝】












