「虎の威を借りる」権威と実力から読む中国企業の成長(前)権威の源泉を見誤るな

青山英明

権威と実力はどこから来るのか

 現代のビジネスにおいて、権威と実力は必ずしも一致しない。肩書を持つ者が実際の意思決定者であるとは限らず、表に見える企業が取引や資本提携の本当の主体であるとも限らない。現実の組織では、形式上の権限、情報へのアクセス、人事への影響力、現場を動かす力、外部ネットワークとの接続が複雑に重なっている。そこでは、肩書そのものよりも、誰がどの力を背景にして動いているのかを見極める視点が問われる。

 前稿で扱った「焚券市義」は、短期的な債権を手放すことで、長期的な信用を得る話であった。これに対して、「虎の威を借りる」は、信用や権威がどこからきているのかを見極める話である。ある人物や企業が強く見えるとき、その力は本人や企業自身に属するものなのか。それとも、背後にある組織、資本、制度、取引先、顧客基盤、地域社会に由来するものなのか。この問いを置くことで、中国ビジネスにおける権威、実力、組織を動かす力の関係が見えやすくなる。

「虎の威を借りる」が示す権威の錯覚

 この問題を考えるうえで、『戦国策』に見られる「狐假虎威」、日本語でいう「虎の威を借る狐」は、古典的でありながら、現代ビジネスにも通じる補助線となる。一般には、実力のない者が強者の権威を利用して威張る、という否定的な意味で理解されることが多い。

 「虎の威を借りる」という言葉には、どこか聞こえの悪さがある。しかし、他者の信用、組織、資本、設備、販売網を借りて事業を立ち上げたり、拡大したりすることは、現代ビジネスでは珍しいことではない。問題は、それが単なる見せかけに終わるのか、それとも借りた力を実際の組織能力へ転換できるのかにある。

 物語はよく知られている。虎が一匹の狐を捕らえて食べようとしたところ、狐は「自分は天帝から百獣の長に任じられている」と告げた。信じられないなら、自分が前を歩き、虎が後ろからついてくればよい。百獣は自分を見て逃げるはずだ、と狐はいう。虎がその通りにすると、獣たちはみな逃げ出した。虎は、それが自分を恐れて逃げたのではなく、狐を恐れて逃げたのだと思い込んだ。

 『戦国策』では、このたとえ話が楚の政治状況に重ねられる。昭奚恤は楚の令尹、すなわち宰相となり、北方諸国から恐れられる実力者となった。しかし、江乙は楚王に対し、北方諸国が昭奚恤を恐れているように見えるのは、実際には王の甲兵、すなわち楚王の軍事力を恐れているからだ、と説く。つまり、昭奚恤も王の権威と軍事力を背景に恐れられているにすぎない、という構図である。

 この故事の焦点は、狐が悪いかどうかだけではない。より重要なのは、虎が自分の力と狐の力を取り違えた点である。権威の源泉を見誤ると、組織や国家の判断は揺らぐ。誰が本当に力をもっているのか。誰が誰の力を借りているのか。外部から見える威圧感は、その人物や企業そのものの力なのか、それとも背後にある組織、資本、制度、顧客基盤、地域社会に由来するものなのか。この見極めを誤ると、交渉、投資、提携、組織内評価のすべてに影響がおよぶ。

蒙牛乳業に見る外部資源の組織化

 現代中国ビジネスを考えるとき、この視点は有効である。中国企業の成長には、創業者個人の才覚だけでは説明しにくい部分が多い。資本、地方政府、既存設備、流通網、人材ネットワーク、政策環境、海外パートナーとの接続が重なり、その総体が企業の実力として現れる。ある企業が急成長したとき、それは企業単体の力なのか、それとも他者の資源を巧みに動員した結果なのか。この問いは、中国企業の行動を読むうえで重要な入口となる。

 その一例が、蒙牛乳業の創業期に見られる「仮想連合」ともいうべき仕組みである。これは、自社ですべての工場や設備を所有するのではなく、外部の工場、設備、労働力、流通網を自社ブランドのもとに束ね、あたかも1つの企業グループのように機能させる方法であった。

 蒙牛乳業は1999年に設立され、内モンゴル自治区を本拠とする乳製品企業である。創業者の牛根生は、当時の乳製品大手である伊利実業で長く勤めた人物であった。しかし、社内での立場を失い、突然会社を離れざるを得なくなったことが、起業へ向かう大きな転機となった。

 つまり、蒙牛の出発点は、十分な資本や設備を備えた計画的な独立ではなかった。むしろ、既存組織から押し出された人物が、手元に残された経験、人脈、業界知識、外部資源を組み合わせて、別の成長経路をつくろうとしたところに特徴があった。創業当初の蒙牛には、ブランド、酪農基盤、工場、マーケットシェアのいずれも十分には備わっていなかった。

 通常の製造業であれば、まず工場を建て、製品をつくり、営業を始めるという順序をたどる。しかし、蒙牛はこの順序をずらした。牛根生は、まず市場で自社ブランドの宣伝を行い、商品は外部工場の受託運営や委託生産を通じて供給した。倒産寸前のアイスクリーム工場の運営を引き受け、その設備を使って「蒙牛」ブランドの商品を出した。さらに、経営不振の外資系乳業工場の運営管理を引き受け、設備、生乳調達、品質管理の仕組みを組み合わせて生産能力を確保した。

 蒙牛が初期に投下した中心的資源は、巨大な固定資産ではなく、ブランド、原材料の配分指導、管理方式、外部資源を束ねる構想力であった。自前の工場を持つ前に、他者の工場、設備、労働力、流通、営業網を自社ブランドのもとに束ねたのである。

 ここに、「虎の威を借りる」という故事を、単なる見せかけではなく、外部資源を実力へ転換する話として読み直す余地がある。蒙牛が借りたのは、他者の権威だけではない。むしろ、遊休資産、低稼働設備、経営不振企業、地域の供給基盤を再編し、自社ブランドと管理方式によって新しい価値連鎖に組み込んだ。これは、虎の威を借りて威張る行為というより、眠っていた虎を自分の事業構想のなかで動かした行為に近い。

 中国企業を見るとき、単に「強い」「速い」「国家に支えられている」というだけでは粗い。どの資源を所有し、どの資源を借り、どの資源を束ね、どの資源を自社ブランドのもとに再配置したのか。この分解がなければ、企業の実力は見えにくい。蒙牛の初期成長は、自前主義ではなく、他者資源の再編能力によって成立した。そこには、中国企業の速度、現場適応力、資源動員能力が凝縮されている。

(つづく)


<プロフィール>
青山英明
(あおやま・ひであき)
一帯一路日本研究センター研究員、南京大学博士課程在学中。南京大学「一帯一路」研究院首席専門家・于文傑に師事し、地政学的ロジックを一次史料に基づく解析で、海のシルクロードと「一帯一路」構想の構造的共通項が、現代の意思決定に与える示唆を研究テーマとする。
実務面では、2007年より香港、蘇州、上海、北京の主要4都市に12年間駐在。証券・PEファンドの立場から、中国経済の変遷と資本論理を現場レベルで一貫して経験した。現在、北京語言大学の非常勤講師として「日中間のビジネス事情」を担当。同時に、中国企業の日本パートナーとして隔月での現地往来を継続しており、企業のハンズオン支援やスタートアップ投資を通じて、現地の最新の意思決定プロセスに直接関与している。

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